株主が強欲だと企業が倒産しやすくなり、皆が不幸になるのはなぜか
LIMO / 2021年10月3日 19時45分
株主が強欲だと企業が倒産しやすくなり、皆が不幸になるのはなぜか
企業の持つ現預金の適正水準については論者により見解が大きく異なるが、投資家の考える適正水準は過小である、と筆者(塚崎公義)は考えています。
企業の持つべき現預金の適正水準には様々な考え方がある
企業が日常の活動で必要とする決済資金等を現預金として持つのは当然ですが、実際には企業はそれを超えて現預金を持っています。それは、万が一の場合に資金繰りが破綻して倒産してしまわないように、余分に現預金を持っているからです。
現在の日本のように、借入金利が非常に低い場合には、企業がそれを超えて過剰な現預金を持っている場合もありますが、本稿はそのことには触れず、適正な現預金の水準について論じることにしましょう。
現預金を多く持てば持つほど、企業が倒産するリスクは減りますが、一方で利益率は下がります。預金金利は現在はゼロですし、一般的に現預金の利益率は決して高くありませんから。
そこで、現預金を減らして借入を返すことで利益を増やそうという意見と、現預金のまま持っていた方が安全だという意見が対立するわけです。
企業が倒産すると多方面に多大な損害
企業が倒産すると多方面に多大な損害が生じます。企業が返済し切れなかった借金は銀行の貸し倒れ損となります。従業員は失業して所得を絶たれます。納入業者は顧客を失ない、場合によっては売掛金も回収できなくなるでしょう。買い手も、お気に入りの商品が買えなくなるかもしれません。
従業員が失業すると所得がないので物が買えなくなり、景気が一層悪化します。納入業者の連鎖倒産も起きるかもしれません。悪くすると、銀行の貸し倒れが巨額になって金融不安が生じるかもしれません。
企業が倒産すると、まだ使える設備機械がスクラップ業者に買い叩かれるかもしれません。企業が持つノウハウや信用などは、バランスシートには載っていませんが貴重な財産であり、それが倒産すると雲散霧消してしまうのも大変もったいないことです。
筆者は常々、日本経済にとって好ましいことは何かを考えているわけですが、そうした観点からは企業の倒産はまことに好ましくないわけですね。
企業が倒産しても投資家の損失は限定的
企業が倒産すると、上記のように多方面に多大な損害が生じるわけですが、投資家が被る損害は限定的です。彼らが投資した金額を失うだけですから。
一方で、企業が儲けた分はすべて投資家のものとなりますから、投資家は企業が儲けることを切望しています。つまり、彼らは企業が現預金を減らすことを望んでいるわけです。
「企業は現預金を使って投資をして大いに儲けるべきだ。投資機会がないならば、現預金で銀行借入を返済して金利負担を軽くすべきだ」「でも、本当にやってほしいのは、現預金を使って配当を増やすとか自社株買いをするとか、株主に直接貢献することだ」というわけですね。
配当が増えれば投資額が回収できますから、企業が倒産した場合の損失が限定され、倒産しなければ利益が丸儲けになるわけです。自社株買いによって株価が2倍になれば、半分売って投資額を回収してしまえば、あとは企業が倒産しても構わないし、倒産しなければ丸儲けです。
経営者がどう判断するかが問題
問題は、企業経営者が日本経済のことを考えて意思決定をするわけではないということです。彼らが考えるのは、株主の利益と従業員の雇用の確保と自分の保身でしょう。
バブル崩壊までの日本企業は、従業員の共同体と呼ばれていたほど従業員のことを考え、株主のことは考えていませんでした。バブル崩壊後に米国流の考え方が流行り出し、企業は株主が金儲けのために作ったものだから、株主の意向を尊重すべき、という考え方が広まりました。経営者がそのバランスをどう考えるかですね。
ちなみに、経営者の保身という観点からは倒産防止が望ましいということでしょうが、後述の極端な例のような場合にはその限りではなさそうです。
投資家が極端に利益を追求すると人々が不幸になる
投資家が極端に利益を追求すると何が起きるのか、考えてみましょう。まず、金儲けの上手な人を社長に選んで、こう言うでしょう。「頑張って儲けて、株価を上げてくれ。株価が上がったら、巨額のボーナスを払うから」と。
そうなると、社長は頑張って稼ぎ、現預金を使って自社株の買い戻しをするでしょう。流通している自社株の数が減れば、利益が同じでも1株あたりの利益が増えるので、株価は上がるでしょう。
そうなれば、社長は莫大なボーナスを貰うので、その後で会社が倒産しても知ったことではありません。倒産しなければ、翌期も同じことをすれば良いわけですね。
株主も、株価が2倍になったところで持ち株を半分売れば、あとはその後に会社が倒産しても知ったことではありません。倒産しなければ、手元に残っている株は丸儲けですから。
このように、株主が極端に利益を追求すると、企業が倒産しやすくなり、多方面に多大な被害が生じる可能性が高くなるわけです。そうした企業が増えないことを祈るばかりです。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
<<筆者のこれまでの記事リスト(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
アクティビスト銘柄で顕在化する「後始末リスク」 手元資金が急減し、巨額還元の撤回も困難に
東洋経済オンライン / 2025年1月6日 7時30分
-
「東インド会社への復讐」画策した男の悲しい末路 世界初の空売りはどう行われた?歴史振り返る
東洋経済オンライン / 2025年1月3日 18時0分
-
63歳・年収650万円男性の買ってよかった株主優待銘柄「子どもが小さい頃はテーマパークで遊べ、売却で大きな利益も得られた」
オールアバウト / 2024年12月28日 12時20分
-
物言う株主エリオットが狙った東京ガスの「急所」 低株価の原因見抜き、還元、資産売却へ圧力
東洋経済オンライン / 2024年12月20日 8時10分
-
北米金融大手、世界有数のタバコサプライヤーなど、5万円で買える米国高配当株5選!2025年1月権利落ち分を解説
トウシル / 2024年12月20日 7時30分
ランキング
-
1「こんなそば屋はすぐに潰れる」と言われたが…会社員を辞めた「そば打ち職人」が59年続く名店を作り上げるまで
プレジデントオンライン / 2025年1月14日 7時15分
-
2東京株式市場はほぼ全面安…日経平均株価、終値は3万8474円
読売新聞 / 2025年1月14日 15時43分
-
3豊田章男会長の"未来予測"がついに現実のものに…トヨタが「世界一の半導体企業」と提携する重要な意味
プレジデントオンライン / 2025年1月14日 9時15分
-
4携帯ショップ「空白地域」対策、小型バス巡回や役場会議室に無人店舗…人手不足・過疎化で閉店増
読売新聞 / 2025年1月14日 7時5分
-
5「ホンダが本当に欲しいのは三菱自動車」日産との経営統合が“相思相愛”と到底言えそうにない理由
文春オンライン / 2025年1月14日 6時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください