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大人の「勝ち組・負け組」思考が子どもの可能性を狭めている!?

LIMO / 2021年10月10日 19時15分

大人の「勝ち組・負け組」思考が子どもの可能性を狭めている!?

大人の「勝ち組・負け組」思考が子どもの可能性を狭めている!?

「勝ち組」「負け組」という言葉は、今の現役世代が子どもの頃には馴染みのなかった言葉ではないでしょうか。

言葉自体は以前から存在していましたが、格差社会での成功者、逆に経済的に不遇な人などという現在の意味合いで使われる決定的なきっかけとなったのが2006年。当時の小泉純一郎首相の「勝ち組・負け組・待ち組」という発言が注目を集め、同年の新語・流行語大賞にノミネートされた経緯があります。

ちなみに、2006年当時「待ち組」が意味していたフリーターは負け組に吸収されました。現在では経済状態の二極化を表す言葉としてメディアや書籍などで広く使用されるようになるなど、「勝ち組・負け組」はすっかり定着した感があります。

二極化が進んだことの影響は子育てにも

この15年の間、バブル崩壊からようやく上向いてきたところにリーマンショック(2008年)が起き、日本では東日本大震災に見舞われました(2011年)。その後は持ち直したものの、2020年来の新型コロナウイルス感染症拡大で世界経済が大混乱に陥っている状況です。

前述の2006年の新語・流行語大賞には、既に「格差社会」「下流社会」といった暗い言葉もノミネートされています。その頃から総中流層という概念が崩れ、正規・非正規といった雇用体系や配偶者の有無など、持つ者と持たざる者への二極化が問題視されていたと言えるでしょう。

この流れが加速し、決定的となったのが言うまでもなくリーマンショックです。非正規労働者への対応やネットカフェ難民が社会問題になる一方で、何事に対しても勝ち組・負け組」で見る風潮が強まっていきました。

子育ての世界でも同じことが起きています。入試を突破しエリートコースを歩む子を育てる親は「勝ち組」であり、受験に失敗したり勉強が苦手な子を持つ親は「負け組」と揶揄されるなど、スポーツのようにハッキリした勝ち負けを意識する傾向が広がっていったのです。

勝ち組を目的にする親は、我が子が「誰からもうらやましがられる学歴や経歴を手に入れる」「大企業に就職したり士業や医者になって安定した生活基盤を持つ」「そうした立場にふさわしい相手と結婚する」ような人生を送れるよう、手を尽くします。

教育熱が異常に高く、ある一定の偏差値以上の学校しか認めないというのも勝ち組に執着する親の典型と言えるかもしれません。

学歴や年収による意識の違い

一方、親が勝ち組にこだわるのにも理由があります。幸せはお金では買えないと言われますが、現実はそう甘くはありません。

大阪経済大学が発行する「大阪経大論集 第64巻第3号(2013年9月)」に掲載された「階層意識としての勝ち組・負け組準拠集団に関するインターネット調査結果の分析(2)※」では、既婚または未婚かというライフステージや、学歴、年収による意識の違いが詳しく記載されています。

調査結果では、自らを勝ち組と意識する割合が高いのは「大卒で既婚そして子どもがいる高所得世帯」であり、社会で広く認識されている勝ち組のイメージと合致しました。やはり安定した生活を送るにはお金は必要ですし、所得の高い職種に就くには一般的に学歴がある方が有利です。

そのため、我が子に対して親がこうした将来像を思い描くのは自然なことと言えるでしょう。子どもの幸せを願い、金銭面が許す限りあらゆる手段を対策を講じる。負け組にならぬように予防線を張る…。一見すると子ども思いな親にも見えますが、親が思う「勝ち組」が子どもにとって勝ち組だとは限りません。

※調査対象:25歳から69歳の男女2368人

親世代の固定観念で考えることの弊害

親が子どもを無理に勝ち組の型にはめようとすると、得てして子どもに精神的苦痛を与えることになり、取り返しのつかない事態を招くきっかけにもなりえます。

また、親世代には馴染みのないものも含め、社会には様々な仕事があります。たとえば、近年注目を集めているビッグデータを分析して課題解決につながる知見を見出す「データサイエンティスト」という職種は、30年前には存在すらしていませんでした。

さらに、コロナ禍でIT化やAI活用が加速する中、今後は親世代の学生時代や就職活動をしていた頃には存在しなかった職種が多数誕生しても何らおかしくはありません。

つまり、親世代の固定観念に基づく「成功」を妄信してしまうと、子どもの個性を潰し、掴めるはずだったチャンスを自ら手放してしまう可能性もあるのです。

そして、大人社会の勝ち負け論争が、子ども社会や心理に与える影響も大きいことを自覚すべきでしょう。負けたら人生が終わりになる、弱者は努力を怠っているという考え方に偏ってしまう恐れもあるからです。

勝ち負けだけで価値判断するのは多様性が求められる今の時代に逆行しており、前時代的と言わざるを得ません。勝ち組になることは悪いことではありませんが、人生の全てをその一言で済ましてしまうのは少々乱暴でしょう。

安易な「二極化論争」がもたらすもの

所得や子どもの学力などで二極化が進んでいることが指摘されて久しく、マスメディアでは多くの場合、そこに「勝ち組」と「負け組」が存在するというような取り上げ方をします。

「勝ち組」「負け組」は非常に分かりやすく目を引く表現ではありますが、言葉の力は多くの人が思う以上に強力です。素直に受け止めてしまう子ども、そして子育て中の親への影響は避けられません。

社会全体がコロナ禍で息苦しい雰囲気に包まれている中では、二極化を煽るような言葉よりも二極化の加速を緩和する方法を考える必要性が高まっているのではないでしょうか。

参考資料

ユーキャン流行語大賞 第23回 2006年 授賞語(https://www.jiyu.co.jp/singo/index.php?eid=00023)(自由国民社)
階層意識としての勝ち組・負け組 準拠集団に関するインターネット調査結果の分析(2)(https://www.i-repository.net/il/user_contents/02/G0000031Repository/repository/keidaironshu_064_003_139-157.pdf)(大阪経大論集 第64巻第3号・2013年9月)

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