敷金精算、修繕費請求…賃貸の退去時にありがちなトラブルと対処法を徹底解説
LIMO / 2021年11月7日 17時45分
敷金精算、修繕費請求…賃貸の退去時にありがちなトラブルと対処法を徹底解説
今年(2021年)、大手不動産仲介会社で不祥事が相次いで起こりました。
5月にA社の男性社員が、物件案内をした際に女性に対して強制わいせつ行為を働いたとして逮捕。7月には、同じA社の管理物件において架空の修繕費を請求されて損害を受けたとして、オーナー側がA社に対して2億8,000万円の損害賠償を求める提訴を行っています。
強制わいせつなどという言語道断な事件は論外ですが、修繕や原状回復の現場では、A社に限らず、入居者やオーナーの無知を逆手に取った行為がまだまだ横行しています。
そのため前回は、「契約時」と「更新時」によくあるトラブルと、悪徳業者を撃退する方法を解説しました(『ヤバい不動産仲介会社「汚い手口」の基礎知識。損しないための撃退法は?(https://limo.media/articles/-/25678)』参照)。
しかし、実は「退去時」にもトラブルは起こりがちです。「敷金が返ってこない」「家賃1ヶ月分の修繕費を請求された」というような話を聞いたことがある方も多いかもしれませんね。そこで今回は、退去時に悪徳仲介業者が仕掛けてくる手口の基礎知識を徹底解説します。
今回の記事と前回の記事をお読みいただければ、部屋探しで損をすることはなくなりますし、もしあなたがオーナーであれば、こうした業者の所業によって不利益を被ることもなくなります。ぜひ最後までご覧ください。
賃貸の退去時によくあるトラブルと対処法
退去時の代表的なトラブルは、なんといっても「敷金の精算」でしょう。あなたも借りているアパートを退去するときに、敷金を超える費用を請求された経験はないでしょうか?
私ウラケンも、社会人になってから10回ほど引っ越しを経験していますが、敷金をぼったくられそうになった経験は何度もあります。預けていた敷金2ヶ月分が丸々返ってこないばかりか、3ヶ月分ものリフォーム費用を請求されたこともあります。しかし、幸いにも私は建設業界で働いていたため、うまく対応することができました。
たとえば、クロスの張り替え代は1平米あたり1000円もあれば十分なところを、1平米2000円の請求をされたことがあります。さらにその工事は管理会社指定のリフォーム業者が施工するというのですから、開いた口が塞がりませんでした。
なぜ自分のお金で原状回復工事をするのに、業者を指定されなければいけないのでしょうか? 当然私はクレームを入れ、強気の交渉をしました。その結果、自分で探してきた業者さんに直接施工を依頼することができ、費用は業者が指定した額の半分以下に抑えられました。
こういったケースに巻き込まれるのは、なにも入居者だけではありません。悪徳業者は大家さん側にも必要以上のリフォームを提案してくることがあります。
たとえば、「最新のIHクッキングヒーターにしないと次の入居者は決まりませんよ? いっそのことキッチンごと入れ替えちゃいましょう!」とか、「3点式ユニットバスでは客付けできません。この機会にトイレとお風呂を分けましょう」などと、原状回復に便乗して家賃1年分以上もかかるような、高額なリフォームを提案してくることもあるのです。
もちろん、本当に必要なリフォームもあるでしょうし、グレードアップした方が入居者が決まりやすいということもあるでしょう。しかし、悪徳業者はオーナーの採算を考えてリフォーム提案をしてくることはほぼありませんから、言われるがままに進めるのはやめておいた方が良いと思います。
近隣の物件の設備や家賃相場と比較して、今の設備と家賃とのバランスが取れているのであれば、過度なグレードアップをしなくとも、やり方次第で入居者を決めることは十分にできます。そこを肝に銘じておきましょう。
なお、入居者を決めるための「空室対策」については、今回の本筋から離れてしまうため割愛しますが、私のYouTubeチャンネルで「空室が満室になる最後の一手(https://www.youtube.com/watch?v=mNjy2Mr-Yxw)」として詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
【賃貸の退去トラブル】民法改正で明確になった費用負担等のルール
さて、話を敷金清算に戻しましょう。
一昔前とは異なり、現在は敷金を利用して退去時のリフォームを行ってはならないことになっています。このルールは昨年の民法改正で明確になりました。
民法第621条を要約すると、「賃貸中に借主の責任で部屋を傷つけた場合には、借主は自分の責任で直す必要があるが、通常の磨耗や経年劣化については借主の負担で原状回復することができない」と明文化されています。
また、国土国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、経年劣化による損耗と入居者の負担部分が明確になっています。
たとえば、下の図表1はオーナーが家賃として経年劣化の部分をすでに回収している範囲と、入居者の不注意によって破損した部分の責任範囲について国交省が示しているものです。
もう少しわかりやすく、壁紙の張り替えを例にして解説しましょう。
国交省のガイドラインでは、壁紙の耐用年数は6年となっていて、入居者とオーナーの負担割合を下のようなグラフで定めています。
縦軸がオーナーの負担割合となっており、この表では「6年が経過するとオーナーが全額負担する」ということを表しています。
つまり、6年以上住んでいれば、たとえ入居者が故意・過失でクロスを傷つけてしまったとしても、入居者の負担は一切発生しません。6年が過ぎると、減価償却がすでに済んでいるという考え方になるのです。
しかし、仮に3年で退去するケースはどうなのでしょうか?
上記の表によれば、入居者が故意・過失でクロスを傷つけてしまって、全面を張り替える必要がある場合であっても、入居者の負担割合は50%ということになります。このガイドラインは極めて公平な内容と言えるでしょう。
したがって、賃貸契約時の契約書には、このガイドラインをベースにした特約に加え、例えばクロスを張り替える際の単価などもあらかじめ明記しておけば、修繕の際にトラブルになることもないでしょう。トラブルがなくなれば、見積もりが高い安いで揉めることもありませんので、その間の機会損失もなくなります。
ただし、入居者は退去時の原状回復を全くしなくて良いかというと、そうではありません。一般的なマナーとして、退去時にクリーニングをして部屋を明け渡す必要はあるでしょうし、最近は退去時のクリーニング費用について、契約時に特約で取り決めるケースも多いようです。
このような特約は民法で禁止されているわけではありませんので、入居者に不利なものでなければ、契約自体は有効となります。部屋を借りる際はこのあたりをしっかり確認しておくようにしましょう。
これからの時代は、国交省のガイドラインをベースに管理業務をしてくれる良心的な管理会社と、不動産投資家は付き合うべきだと思います。ぜひこの機会に管理会社の管理内容を再チェックしてみてください。
以上、退去時によくあるトラブルと対処法について解説しました。
また、契約時と更新時によくあるトラブルと対処法、悪徳業者を撃退する方法については、前回の記事(https://limo.media/articles/-/25678)で解説しています。今回の記事と次回の記事の内容を完璧に理解していただければ、いらぬトラブルに巻き込まれることはなくなると思います。ぜひ参考にしてください。
参考資料
原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf)(国土交通省)
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