ガソリンスタンドの過当競争で価格が下落する可能性を考える
LIMO / 2021年12月5日 19時45分
ガソリンスタンドの過当競争で価格が下落する可能性を考える
ガソリンスタンド同士の過当競争によってガソリン価格が大幅に値下がりする可能性もある、と筆者(塚崎公義)は考えています。
ガソリン価格の高騰は需要を減らし、利益を減らす
ガソリンが高いですね。庶民の生活を直撃する事態で困っている人も多いはずです。もっとも、そのことがガソリンスタンドの過当競争を誘発してガソリン価格の値下がりをもたらす可能性もないとは言えません。今回は、そうした可能性について考えてみましょう。
ガソリンが高いということは、ガソリンの需要が落ちる可能性が高いでしょう。そうなれば、ガソリンスタンドは販売数量が減り、苦しくなります。固定費が回収できなくなるからです。
ガソリンスタンドは、売り上げがゼロならば固定費分だけ赤字です。建物の減価償却、借入金利、人件費等々は売り上げがゼロでも費用に計上する必要があるからです。それを、粗利(売上マイナス仕入、売上総利益とも呼ぶ)で埋めているわけです。
仮に、固定費が1万円、ガソリン1リットル当たりの売値が100円、仕入値が50円だとしましょう。売り上げがゼロなら1万円の赤字ですが、1リットル売り上げるごとに粗利分の50円だけ赤字が減って行き、200リットル売れば赤字が消えます。その後の売り上げ増加に伴う粗利が儲けとなるわけです。
固定費の存在により、売上数量のわずかな変動が損益を大きく動かすことになります。売上数量が204リットルから202リットルに、わずか1%落ち込んだだけで利益が半減し、199リットルに落ち込めば赤字に転落してしまう、というわけです。
ガソリンスタンドには値下げ競争のインセンティブあり
そんな時、ガソリンスタンドには値下げをしてライバルから客を奪ってくるというインセンティブが存在します。ガソリンは、各社の間で製品差別化がしにくいので、1円でも安い方に客が大きく流れる可能性が高いからです。
売値を90円に値下げして粗利が40円に減ったとしても、売上数量が250リットル以上になるのであれば赤字が回避できるわけで、値下げのインセンティブは大きいと言えるでしょう。
問題は、ライバルも同じことを考える可能性が高いということです。ライバルも値下げをすると、お互いに粗利が減るだけで、販売数量はそれほど増えないかもしれません。
牛丼チェーンの値下げ競争であれば、ラーメン店から客を奪ってくることができるかもしれませんが、ガソリンスタンドの値下げ競争ではそうした効果が見込みにくいからです。
儲かっている時であれば、値下げ合戦による不毛な消耗を挑む必要はないので、お互いに利益を享受して平和な日が続くのでしょうが、赤字に転落するとそうも言っておられず、「背に腹はかえられない」と考えて値下げする会社が出てくるかもしれません。
しかし、そうなると値下げ合戦が止まらない可能性もあります。99円に下げると98円で対抗され、97円で対抗すると96円で対抗される、といった繰り返しが予想されるからです。52円でもまだ、51円で対抗されるでしょう。50円で対抗するのは意味がないので、51円で客を半分ずつ分け合うところで値下げ合戦が決着する、というわけですね。
ブラフ戦略が有効な場合も
そんな不毛な争いは避けたいと誰もが考えるでしょう。一つの案として、ブラフ戦略というものがあり得ます。相手に聞こえるように大声で言うのです。
「我が社は、今日は100円で売る。そして、ライバルの値段を見る。もしも、ライバルが100円で売っているならば、我が社は明日も100円で売るが、もしもライバルが安売りをしているならば、明日以降は我が社も同じ値段で安売りをする」と。
それを聞いたライバルは、100円で売ることを選択するはずです。値下げをして今日だけ客を奪えても、明日以降は安値で売って客は半分ずつ分け合うことになるからです。
同じことですが、ポスターを貼り出すという選択肢もあります。「当店は半径5キロ以内で最安値を保証します。当店より安い店があったら教えてください。同じ値段まで値引きしますから」と大書きしたポスターを貼るのです。
客は「素晴らしい店だ」と思って好感度を増してくれるでしょうが、本当の狙いは視察に来たライバルのスパイに見せることなのです。スパイには「わかってるだろうな。お前が値下げしたら、俺も絶対に値下げで対抗するからな。それが嫌なら、100円で売るべきだと社長に伝えておけ」と読めるからです。
家電量販店などで「最安値宣言」のポスターを見かけますが、あれと同じことをガソリンスタンドもやれば良い、というわけですね。
離島等では相手の倒産を狙った値下げ合戦も
ブラフ戦略が効かない場合もあるかもしれません。たとえば、離島に2社しかガソリンスタンドがない場合、体力のある方が値下げ合戦を挑み、お互いが赤字になり、相手が倒産するのを待つといった場合です。
相手が倒産すれば独占企業となって好きな値段で売ることができるようになるわけですから、それまでの間の赤字は気にしないというわけです。都会ではライバルが多いので、相手の倒産を待つようなことはできませんが、離島等であれば可能性があるかもしれません。
以上、ガソリン価格が暴落する可能性について考えてきましたが、実際に暴落するか否かは諸般の事情によるわけで、過大な期待は禁物です。ただ、そうしたメカニズムが働き得るということは、知っておいて損はないでしょう。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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