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猫の寿命が飛躍的に伸びる?寄付金2億円を数週間で集めた「AIM製剤」を獣医師が解説!

LIMO / 2021年12月16日 17時30分

猫の寿命が飛躍的に伸びる?寄付金2億円を数週間で集めた「AIM製剤」を獣医師が解説!

猫の寿命が飛躍的に伸びる?寄付金2億円を数週間で集めた「AIM製剤」を獣医師が解説!

2021年7月、東京大学基金で数週間のうちに約2億円が集まり一躍有名になったAIM製剤。この研究が進めば猫の腎臓病治療が大きく変わるかもしれないと言われています。今回は猫の寿命と腎臓病の関係、AIMとは一体どういうものなのかなど、獣医師である筆者からお話ししたいと思います。

猫の平均寿命はどれくらい?

一般社団法人ペットフード協会が発表した「令和2年 全国犬猫飼育実績調査」によると、2020年の調査では猫全体の平均寿命は15.45歳でした。これは2019年の15.03歳よりもさらに伸びており、平均寿命は年々長くなっています。

では最高齢の猫はいったい何歳ぐらいなのでしょうか?ギネス世界記録によると、最長寿記録はアメリカのテキサス州で暮らした“クリームパフ”という名前の猫で「38歳3日」だったそうです。この年齢、ヒトに換算すると約170歳にもなるので驚くばかりです。

日本国内での猫の平均寿命は少し前までは10歳にも満たなかったですが、近年の獣医療の発展や屋内飼育が当たり前となり生活環境が改善されたことで大幅に伸びてきました。そんな現代の猫の平均寿命でもまだ最高齢の猫の年齢の半分にも達していません。これは“クリームパフ”が特別であったこともあると思いますが、実は猫は本来それぐらいまで長生きすることができるポテンシャルがあるのかもしれません。

ではなぜ今は平均寿命が約16歳なのでしょうか。それは病気で命を落としている子が多いからとも言えるでしょう。

そんな猫の寿命に大きく影響する高齢期に多い病気といえば腎臓の病気。10歳以上の高齢猫の30〜40%が罹患しているとも言われ、がんと並び死因のトップです。一口に腎臓病と言っても様々ありますが、特に高齢猫に多い「慢性腎臓病」は病気の進行がゆっくりで、初期の段階ではなかなか異常に気づけず、しばしば発見が遅れてしまいます。

この腎臓病の一番怖いところは一度失われてしまった腎機能は二度と回復をしないということです。「二度と回復をしない」と言われるとショックは大きいですよね。

近年になり、そんな腎臓病に対する治療の新たな希望となるかもしれない、と言われているのが“AIM”です。

猫の腎臓病治療の新たな希望、AIMって?

AIMとは東京大学の宮崎徹教授が発見したタンパク質で“Apoptosis Inhibitor of Macrophage”の頭文字を取ったものです。少し専門的な話になりますが、直訳すると「マクロファージの細胞死を抑制する分子」という意味になり、もともとはマクロファージを長生きさせるためのものと考えられていました。

しかしその後、宮崎先生の研究によりAIMは体内で発生する死んだ細胞などの“デブリ”を掃除するために働くタンパク質であることがわかってきました。マクロファージは「体の中の掃除屋さん」とも言われるようにデブリを貪食し、綺麗な状態を保つために働く細胞です。AIMはそのマクロファージにデブリがある場所を知らせてくれる目印のような働きをすることで、効率よく掃除をするために一役かっているというわけです。

AIMと慢性腎臓病の関係

腎臓病の猫は、腎臓の中の尿細管という尿が流れる通路にたくさんのデブリが詰まることによって腎機能が低下していきます。そこで本来であれば掃除屋であるマクロファージの出番なのですが、猫ではAIMがうまく働かないため、デブリの場所がわからず掃除ができないといった状態に陥ります。

ではなぜ猫ではAIMがうまく働かないのでしょうか?

猫の体内にもAIMは存在しているのですが、そのほとんどは血液中でIgMというタンパク質にくっついています。しかし猫では必要な時にこのIgMから離れていくことができないので結果としてAIMが上手く働かないのです。

AIM製剤はいつ完成するの?

慢性腎臓病の治療では今までその進行を抑える有効な方法がなく、食事の変更や飲み薬、サプリメントなどで悪化をなるべく食い止めるというものしかありませんでした。

しかし、ここにAIM製剤という治療法が登場すると大きく事情が変わるのです。AIM製剤の投与により尿細管に詰まったたくさんのデブリを解消し、腎臓病の進行を抑えることが期待されています。

腎臓病と闘っている猫には待望の薬ですが、研究開発に新型コロナウイルス感染症の影響が立ちはだかり、2020年6月頃から開発が一旦ストップしてしまいました。そんな状況がネットやSNSを中心に日本中の愛猫家に広がり、研究が進み「1日でも早く進みAIM製剤が世に出回るように」と東京大学基金に数週間のうちに約2億円もの金額が集まりました。

私も腎臓病の猫2頭と暮らしており「いつその薬が使えるようになるんだろう?」ととても気になるところですが、新薬の開発には膨大な時間とお金がかかります。一般に出回るようになるまではまだ2-3年ほどかかってしまうようです。

しかしそれに先立って、猫が本来持っているAIMを活性化させるようなサプリメントは来年にも流通する予定のようです。これはすでに進行した腎臓病にはあまり有効ではありませんが、病気が初期の段階では進行を抑えることが期待できるだけでなく、健康な状態から摂取することによって慢性腎臓病の発症自体を予防できるかもしれないと言われています。

AIM治療はまだ日の目を見ていない段階のものですが、完成すれば病気の治療が従来と大きく変わってくるでしょう。獣医師としてだけでなく、一猫飼いとして大真面目に猫の寿命が30歳というのが当たり前になる未来のためにAIMをはじめ、様々な治療法がこれからもどんどん生まれていって欲しいと願っています。

参考資料

一般社団法人ペットフード協会 令和2年 全国犬猫飼育実績調査(https://petfood.or.jp/data/chart2020/index.html)

guinness world records「oldest-cat-ever」(https://www.guinnessworldrecords.com/world-records/oldest-cat-ever)

東京大学「宮崎 徹 教授による猫の腎臓病治療薬研究へのご寄付について」(https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0802_00014.html)

時事ドットコムニュース「『ネコのおやつ』で腎臓病予防も 『機能しない』AIMを活性化する成分発見 東大大学院・宮崎徹教授インタビュー」(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021072200423&g=soc)

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