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金融緩和の景気浮揚効果が小さい理由

LIMO / 2022年1月23日 19時35分

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金融緩和の景気浮揚効果が小さい理由

金融政策は引き締めによるインフレ抑制が得意で緩和による景気刺激は不得意です(経済評論家 塚崎公義)。

景気過熱時の金融引締めは効果大

金融政策は紐のようなもので、引っ張ることは出来ても押すことは出来ない、と言われます。金融引き締めで景気を悪化させてインフレを抑制する事は出来ても、金融緩和で景気を回復させる事は出来ない、という意味ですね。

金融引き締めで景気を悪化させるのは非常に簡単です。金利を猛烈に高くすれば、借金をして工場を建てたり家を建てたりする会社や個人はいなくなるでしょうから。

もっとも、景気悪化を最小限度にしつつインフレをギリギリ抑制する事は容易ではありません。金融調節をどの程度厳しく行なうと景気がどの程度悪化してインフレがどの程度抑制されるか、を考えなくてはならないからです。

それを考えるために、日銀には日本の最高水準の景気予想屋が大勢います。残念なのは、彼らが入社してから一度も金融が引き締められた事が無い、という事です(泣)。

不況期の金融緩和は景気刺激効果が小

一方で、不況期の金融緩和が景気を回復させる効果は限定的です。不況期には設備稼働率が下がりますから、そんな時に金利が下がっても新しく工場を建てようという企業は出てこないでしょう。

サラリーマンも、不況期にはボーナスも残業代も減り、場合によってはリストラの恐怖に怯えているかも知れませんから、そんな時に住宅ローンを借りて家を建てようなどとは考えないでしょう。

そうだとすると、金利を下げても需要は喚起できず、景気は回復しない、ということになります。まして、ゼロ金利下で量的緩和などを実施しても設備投資等が増える理由がありません。

現実を見ずに理屈だけで物を考える経済学者の中には、量的緩和をすれば物価が上昇するので景気が良くなる、などと言っていた人もいたようですが、黒田緩和でも物価が上がらなかったのですから、反省して欲しいものです(笑)。

金融緩和が景気に直接影響する事は難しくても、株高やドル高を通じて景気を回復させる効果はあるかも知れません。しかし、過大な期待は禁物です。

株価押し上げ効果は景気に効かず

金融緩和で金利が下がれば、株価を押し上げる力として働きます。ゼロ金利下の量的緩和等は、理屈上は株価を押し上げる力が小さいのですが、実際には株高の要因と言えるでしょう。

株価は美人投票の世界であり、投資家たちが金融緩和は株高要因だと考えているので、金融が緩和されると投資家たちが株の買い注文を出し、それによって実際に株価が上がるからです。

もっとも、株価上昇が景気を回復させる効果は、それほど大きくなさそうです。日本の庶民は、そもそも株をあまり持っていないですし、株価が上がって儲かったとしても、老後不安から消費に回さずに貯金してしまう人が多いでしょうから。

株を持っているのは主に金持ちでしょうが、金持ちは「株価が上がって儲かったから贅沢をしよう」などとは考えず、もっと儲けようと考えるかも知れませんから。

日本の金融政策は為替への効果小

日本の金利が低下すれば、日本国債より米国債が魅力的となるので、日本国債を売って米国債を買う投資家が増えるでしょう。それによってドル買い注文が増えればドル高になるはずです。

しかし、ゼロ金利下で量的緩和等を実施しても、理屈上はドル高になるわけではありません。量的緩和をしても貸出が増えなければ世の中に出回る資金は増えないからです。

問題は、為替レートが株価と同様に美人投票の世界であり、投資家たちが日本の金融緩和はドル高要因だと考えていると、実際にそうなる、ということです。投資家たちの「金融緩和がドル高要因だ」という考えは、確信に近いようなので、美人投票面からドル高になる確率は高いでしょう。

しかし、その効果は米国の金融引き締めの場合の方が遥かに大きく、日本の金融緩和によるドル高円安効果はそれほど大きく無いようです。

アベノミクスによる円安は当初こそ大幅でしたが、一気に円安になった後は追加的な緩和に反応していない所を見ると、行きすぎた円高が修正されたという面が強いようです。

日本の通貨の価値が米国の金融政策に影響されるというのは不思議ではありますが、美人投票は理屈ではありませんから(笑)。

円安の景気拡大効果が最近は小

円安の景気刺激効果自体が薄れている、という事も言えそうです。円安になれば輸出数量が増えて国内生産が増えて景気が回復する、というのが理屈なのですが、最近は円安になっても輸出数量が増えにくくなっているようなのです。

アベノミクスにより大幅な円安になったにもかかわらず、輸出数量はそれほど増えませんでした。少しは増えましたが、それは海外経済の成長という事で説明できてしまう程度のものだったのです。

最大の理由は、日本企業の行動の変化によるのだと思われます。多くの日本企業が為替レートによって収益が左右される経営体質からの脱却を目指して、「地産地消」を目指しているようなのです。輸出するのではなく、売れる所で作る、というわけですね。

日本経済は人口減少で縮小して行きそうだから、早く成長市場である海外に進出しておいた方が良い、といった判断もあるのかも知れませんね。

仮に美人投票で円安になったとしても輸出数量は増えず、景気を回復させる力は限定的だ、という事なのでしょう。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから>>(https://limo.media/list/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)

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