大学での勉強と就職の関係を元大学教授が考察。学生が「ガクチカ」に注力する理由とは
LIMO / 2022年6月11日 11時50分
大学での勉強と就職の関係を元大学教授が考察。学生が「ガクチカ」に注力する理由とは
企業が成績を見ない事を知っている学生は勉強せず、それを知っている企業は成績を見ない、という悪循環が生じています(経済評論家、元大学教授 塚崎公義)。
大学は卒業要件を厳しくすると学生が集まらない
学生が勉強しないと嘆いている大学関係者は多いのですが、それなら卒業要件を厳しくしよう、という声は聞こえてきません。
それは、大学同士が受験生の奪い合いをしているため、「あの大学は卒業するのが難しいらしい」という噂が流れた大学には受験生が集まらなくなってしまうからでしょう。
大学の卒業判定を厳しくする事によって優秀な卒業生を多数送り出し、彼らが就職戦線の勝利者となってくれるならば、長期的には大学の評判が高まって受験生が増える可能性もあります。
残念ながら大学で厳しく教育しても就職にはあまり役立たないのです。それは、大学での教育内容が企業の求めるものと異なっている部分があるからです。
大学で学んだ事が企業であまり役立たない事が問題か
大学で学んだ事が、企業で直接役に立つことは稀です。
筆者は法学部でしたが、憲法や刑法はあまり役に立ちませんでしたし、仕事内容によって民法のごく一部が役に立った程度です。
かつて大学がエリートの学ぶ場であった頃は、法学や経済学等々を学ぶ課程で学生たちが論理的に物を考える訓練をされ、知識ではなく知恵を得て大学を卒業したのでしょう。
しかし今は大学全入時代とも言われます。単位をとるために教わった結論を丸暗記する、という生徒もいるでしょう。
したがって、大学を卒業しても知識だけが増えて知恵が増えておらず、増えた知識は仕事では役立たないものばかり、というケースもあります。
企業は大学で学んだ学生より「ガクチカ」を評価
そこで企業は、採用に際して大学の成績を見るのではなく、大学時代に力を入れたこと(ガクチカと呼ばれています)を重視するようになったのでしょう。
大学時代に何かに打ち込み、それによって人間的に成長した学生は、企業人として活躍してくれると期待できるからです。
ちなみに筆者は学生に対し、就職模擬面接の時にこう説明しました。
「大卒は高卒より給料が高い。我が社が高卒を採用せずに高い給料を払って君を雇うとしたら、それは我が社に何のメリットがあるのだろう。しっかり勉強して頭が良くなったかな?ガクチカで人間的に成長したかな?それを説明できないなら、君を採用せずに高卒を安く雇うが、どうだ?」と。
そうは言っても、学力を全く見なくて良いわけではありません。そこで、大学入試の成績を見ることになります。学歴フィルターなどと評判は悪いですが、企業としては他に学力が見られないならば、仕方ないのでしょう。
合理的な学生は大学受験とガクチカに注力
企業が大学の成績よりもガクチカを重視することを学生が知っていて、かつ学生が合理的ならば、大学時代は勉強よりもガクチカを優先するはずです。
高校時代は入試の勉強に注力し、大学ではガクチカに集中するのが就職戦線で有利だとわかれば、皆がそうするでしょう。
そうなると、企業は一層大学の成績を見なくなります。合理的な学生は大学で勉強しないと知っている以上、成績を見て学生の学力や真面目さを判定する事が出来ないからです。
鶴亀算のテストはあるので、それは勉強
じつは、入社試験の時に鶴亀算等のテストを行なって「足切り」をする企業は多数あります。あまり大勢応募してくると、全員と面接する事が困難なので、まずは基礎学力をチェックしようというわけです。
そうなると、学生にとって経済学等々を勉強するよりも鶴亀算を勉強する方が合理的だ、という事にもなりかねません。
悩ましいのは、教員が学生に「経済学など勉強せずに鶴亀算を勉強しなさい」などとは言い難い、ということですね。学生の人生にとってどちらが有益であるか、という事を真剣に考えると、大学教授として困った結論が出るのかもしれませんが(笑)。
大学1年生に内定を出して「勉強しろ」と指示するのは選択肢
大学生を勉強させるために有効な手段はあるのでしょうか。筆者の試論としては、企業が大学1年生に内定を出し、「卒業までに論理的に物を考える訓練を受けて来なさい」と言い渡すことが有効だと思われます。
そうなると学生としては、真面目に勉強することが「仕事」になり、入社後の人事考課に影響しますから、真面目に勉強するインセンティブとしては十分です。
企業としては、単に偏差値の高い大学の学生を採用するというよりも、論理的に物を考える訓練をしてくれる大学の学生を選ぶようになるでしょう。そうなれば、大学としてもそういう教育をせざるを得なくなるはずです。
「大学3年生に内定を出すと4年生が勉強しなくなる」と言われますが、逆転の発想で「内定先から勉強するようにプレッシャーをかければ学生は勉強する」という事を利用するわけです。
筆者が定年退職する前に「是非とも塚崎ゼミで、論理的に物事を考えられるように、厳しく訓練されて来なさい」という企業が出て来れば良かったのですが(笑)。
本稿は、以上です。なお、本稿は拙著「大学の常識は、世間の非常識」の内容の一部をご紹介したものであり、内容はすべて筆者の個人的な見解です。筆者が大学で感じた違和感が綴ってありますが、海外旅行の旅行記のように、「違いの説明」であって、批判ではありません。
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