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「内部留保」と「賃上げ」を語って恥をかかないための超入門

LIMO / 2018年3月13日 21時20分

「内部留保」と「賃上げ」を語って恥をかかないための超入門

「内部留保」と「賃上げ」を語って恥をかかないための超入門

そもそも内部留保とは何か

内部留保という言葉を誤解している人が多い、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は嘆いています。

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内部留保という言葉を誤解している人が多いので、超入門的な解説をしておくことにします。厳密な説明ではありませんが、イメージを掴んでいただければ幸いです。

バランスシートは、持ち物と、それを買った金の出所の記録

筆者が50万円を出資して塚崎パン株式会社という会社を作ったとします。銀行から50万円借りて、100万円のパンを仕入れたとします。同社のバランスシートは以下のようになります。

【表1:1日目のバランスシート】

左側は、会社が何を持っているのかを示しています。右側は、それを買うための資金をどうやって調達したのかを示しています。当社は、100万円のパンを持っており、それを買うために銀行から50万円の借金をし、投資家から50万円を調達した(株券と引き換えに50万円を受け取った)、というわけですね。

純資産は、資本金プラス内部留保

翌日、給料10万円で社員を雇い、パンを売らせたところ、120万円で売れました。社員の給料を支払って、10万円の利益が残ったわけです。資産としては110万円の現金がありますから、100万円分のパンを仕入れて、残った現金を金庫にしまいました。

10万円の使い道は決まっていませんが、電子レンジを買っても良いし、銀行に借金を返すのに使っても良いし、株主に配当しても良いですね。いずれにしても、株主の自由になる金ですから、使い道はゆっくり考えましょう。

バランスシートはどうなるでしょうか。左側は100万円分のパンと10万円の現金ですね。右上は銀行借入ですから、相変わらず50万円ですね。ところが、右下は60万円に増えるのです(表2)。

右下は「純資産」となっています。これは、資本金と内部留保の合計です。内部留保というのは、利益のうちで株主に配当されずに会社内部に留保しておく資金のことです。

ちなみに、バランスシートというくらいなので、左と右は同額です(バランスしています)。左と右上は容易に求まるので、右下については「左から右上を引いた値」だと考えても良いでしょう。

「会社が解散する時には、左側の資産を換金し、右上の負債を返済し、残りを株主で分配する。つまり、右下は株主の持分であり、会社解散時に株主に戻る金額を示すものである」という理解もできるわけです。

この時、自分が出資した50万円より多く戻ってくることになりますが、それは本来であれば既に配当として受け取っていたはずの10万円なのですね。

余談ですが、バランスシートの左側は、買った時の値段で記載されています。実際に会社を解散する時には、資産がバランスシートに書いてある通りの値段で売れるとは限りませんので、要注意です。

【表2:2日目のバランスシート(ケース1)】

表2の会社が、電子レンジを10万円で購入すると、バランスシートは表3になります。

【表3:2日目のバランスシート(ケース2)】

表2の会社が、現金10万円を電子レンジ購入に用いずに資金を借金返済に用いることもあるでしょう。その場合のバランスシートは表4になります。

【表4:2日目のバランスシート(ケース3)】

内部留保を賃上げに使うことはできない

内部留保は「会社内部に留保された資金」というと、「企業が利益を溜め込んでいて、現金が金庫に入ったままになっている」といった語感がありますが、表3、4のいずれを見ても、金庫の中の現金は記載されていません。

それもそのはず、パンの仕入れや電子レンジの購入や借金の返済に使われてしまっているからです。これを見れば、「内部留保を賃上げに使うことはできない」ことは明らかですね。

表2の会社なら、内部留保を賃上げに使うことができそうだ、と考える読者も多いでしょうが、そうではありません。

表2の会社が給料を20万円に上げたら、何が起きるでしょうか。100万円のパンが120万円で売れて、給料を支払うと100万円しか残りません。会社の利益はゼロです。その100万円を使ってパンを仕入れれば、バランスシートは翌日も表2のままということになります。

「賃上げをしていなければ、会社は10万円儲かったはずであり、その10万円を配当しなければ内部留保が10万円増えていたかもしれないのに、賃上げをしたがゆえに内部留保が増えなかった」ということは言えますが、それは「内部留保を使って賃上げをした」ということではありません。

では、給料が30万円だったら何が起きるでしょうか。120万円でパンを売り、30万円の給料を払うと、90万円しか残りません。資産が90万円の現金、負債が40万円ですから、純資産は50万円に減ってしまいます。資本金は減らないので、内部留保が10万円減るわけですね。

結果だけを見ると、内部留保が減って賃金が上がっていますが、これも「賃上げをした結果として内部留保が減った」ので、「内部留保を使って賃上げをした」ということにはならないでしょう。

内部留保は会社の財産ではなく、「株主への借金のようなもの」なので、ボーナスや賃金として支払うことはできないのです。支払うことができるのは、資産である現金だけです。

内部留保は「明日配当する予定の株主の持ち物」だと考えよう

少し時間を巻き戻して、社員の給料を払った後に利益が10万円残ったことを思い出しましょう。

その10万円は、電子レンジを買ったり銀行の借金を返したりするのに使うこともできますが、株主のものですから、株主である筆者に利益の10万円を配当することもできます。配当した後、残った100万円でパンを仕入れれば、2日目のバランスシートは1日目と同じになります。

【表5:2日目のバランスシート(ケース4)】

表2と表5を比べてみましょう。表5は、儲けを株主に配当してしまったので、社内に現金がありませんし、バランスシートの右下に内部留保もありません。表2は、儲かった10万円を明日株主に配当しようと思って金庫に保管してある状態だとします。それを見て「金庫に現金があるなら賃上げしろ」というのはおかしいですね。10万円は株主のものですから。

内部留保は、一度配当した資金を再度出資してもらったのと同じこと

さて、表5の株主としては、「配当を受け取ったけれども、その分も使って電子レンジを買ってもっと儲かる会社にしたい」と考えて、会社の増資を引き受けたとします。会社に株券を新たに印刷させて、配当された10万円を使ってそれを会社から買い取ったのです。バランスシートは表6のようになります。

【表6:2日目のバランスシート(ケース5)】

表2と表6を比べてみましょう。どちらも純資産が60万円ですから、会社を解散する時には株主に60万円払い戻すことになるはずです。

表6には内部留保がないので、「内部留保を使って賃上げしろ」という人はいないでしょう。しかし、表2に対しては、そういう人が多いのです。

表2と6は何が違うと言うのでしょう? 単に「株主に配当して、同額を出資してもらう」という手間を省いただけです。会計規則上、手間を省くと10万円が「資本金」ではなく「内部留保」と記載されることになっているから、違いがあるように見えているだけです。

P.S.
「儲かっているのだから賃上げしろ」と言うのであれば、理解できますが、その場合には表3や4や5や6の会社にも賃上げを要求すべきでしょう。表2の会社に賃上げを要求して、他の会社に要求しないのは、筋が通りませんよね。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから(http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9)>>

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