創業100年を超えるニッポンの繊維産業は今も最先端で勝負している
LIMO / 2018年5月24日 6時0分
創業100年を超えるニッポンの繊維産業は今も最先端で勝負している
日清紡、旭化成などが電子材料展開急ピッチ
競馬とオリンピック以外はほとんどテレビを見ることがない筆者ではあるが、たまにドラマなどは見ることがある。そうしてボーッとしている時間は意外と疲れが癒えるのだが、どうにもたまらないコマーシャルがあるのだ。
なんだかよくわからない犬のような格好をした人がまったりというか、だらだらというか、とにかくだらしない仕草でひたすら「ニッシンボー、名前は知ってるけどー」とのたまうのだ。ブランド名を売りたいがためのテレビCMであろうが、とにかくあれを見ている限りニッシンボーという会社がどういう会社であるかが全く分からない。
昔は国内トップ企業、今は車載向けに邁進する日清紡
ニッシンボーを正式に書くと日清紡である。世が世であれば、あのような訳のわからないコマーシャルを打つほどもないくらいに有名な会社であった。すなわち、戦後すぐの繊維産業が全盛を極めた時に、国内全産業における売り上げランキング1位の座にあったのが繊維大手の日清紡であったのだ。
名門中の名門である日清紡の得意技は今や綿紡績や合成繊維ではない。世界トップシェアを持つブレーキ摩擦材なのだ。米国の規制にも対応した、銅を使わない自動車ブレーキ材などの量産にも着手している。
そしてまた日清紡はあろうことか、2005年に新日本無線の半導体事業を傘下に加えた。主力のオペアンプ・コンパレーターは車載向けに国内外で受注が急増し、繁忙を極めている。新日本無線の売上高も12年度の346億円から17年度見込みの520億円まで伸ばしてきており、まことに順調である。
17年度にはOA機器大手のリコーの半導体部門をこれまた傘下に加えてしまった。分社化されたリコー電子デバイスは、リチウム電池保護ICではトップシェアを獲得している。大手スマホメーカー向けのシェアは60%以上と圧倒的に強い。時ならぬ世界的なEVブームの到来によりキーデバイスとなるリチウムイオン電池は、増産に次ぐ増産が予定されており、リコー電子デバイスの仕事も一気に増えてくるだろう。もちろん今後は車載向けの領域を強化する考えであり、ワンチップでカバーできる製品を展開していく。
EVの心臓部分の重要素材であるリチウムイオン電池は、車載向けに限ればパナソニックが世界シェアの40%を持っている。そしてまた材料分野に向けても日本勢の強さは際立っているのだ。電解液は宇部興産、正極材は住友化学、負極材は日立化成、バインダーはクレハがいずれも世界シェア第1位に輝いている。
かつての繊維大手はIoT時代に積極攻勢
繊維業界の名門である旭化成はセパレーターの分野で断トツの存在であり、現在滋賀県守山に150億円で新工場を建設中だ。2020年には11億㎡と2倍近い増産体制が整い、世界チャンピオンの座は譲らないとの気概を見せている。ちなみに旭化成は半導体デバイスそのものも作っており、旭化成マイクロシステムという子会社がアナログIC、ホール素子などを積極的に展開している。
自動車のクッション材などに使われるウレタンフォームを主力製品とするクラボウも注目企業の1社だ。同社はその他にも機能性フィルムなどの先端分野の展開をまっしぐらに進めている。また、炭素繊維量産などで名前が知られてきたのが帝人である。さらに高機能素材にひた走る東洋紡などもおり、ニッポンの老舗企業が林立する繊維業界はにわかにIoT時代を迎え、最先端シフトの色を強めてきたといっても良いだろう。
(泉谷渉)
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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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