監督命令には絶対服従? 悪魔の囁きにあなたは勝てるか
LIMO / 2018年5月27日 21時20分
監督命令には絶対服従? 悪魔の囁きにあなたは勝てるか
監督の命令に従うべきかは、ケースバイケースで判断すべき、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
監督命令に「従う」「背く」以外に、「相談する」という選択肢も
道徳の教科書に「監督から送りバントを指示された少年野球の選手が、自分の判断でヒッティングをした場合、たとえ結果が成功だったとしても、勝手な行動だとして糾弾されるべき」といった内容が載っているそうです。
少年野球は規律を教える場なので、それで良いかも知れませんが、「監督に相談する」という選択肢も要検討かも知れません。たとえば「どうしてもバッティングをさせてほしいです。仮にそれでアウトになったら1年間掃除当番をやりますから」といって頼み込むわけです。それならチームメイトも納得するでしょうし、監督もダメとは言わないでしょう。
「ヒットが打てればヒーローになれて自分が大きく得をする」「失敗すればチームの皆に悲しい思いをさせるから、償いに掃除当番をやることで責任をとろう」ということで、リスクとリターンを考えて賭けをするわけですね。
甲子園の決勝であれば、失敗した時に責任が取れませんから、一応監督に相談した上で、却下されたら素直に従うべきでしょう。しかし、少年野球の練習試合なら、責任のとれる範囲で自由にやらせてもらう、というのも選択肢ですね。
ちなみに、絶対にいけないのは、黙ってバッティングしてしまうことです。ランナーはバッターがバントすることを前提に走塁してしまうからです。少なくとも、(監督には内緒でも)ランナーには「送りバントではなくバッティングする」と伝える必要があります。最低限必要なコミュニケーションは欠かしてはなりません。
会社の仕事であっても、上司の指示に従うべきとは限りません。まずは上司に相談し、却下されてもどうしても実行したいプランがある場合には、自分が責任がとれる範囲ならばトライしてみても構わないと思います。
そうはいっても、普通の会社は上司に逆らってトライして成功した時の見返りが少ない割に失敗した時の罰は重いので、トライする人は少ないでしょう。そうでないと社内の指揮命令系統が混乱して統制がとれなくなる、ということもあるでしょうから。
ドラマなどで出てくる「重役の命令に従う必要はない。俺が責任をとるから自由にやれ」という格好良い管理職については、「あなたが辞表を出したくらいで責任がとれる案件ですか?」と聞きたくなってしまう場合も多いですが(笑)。
違法行為の命令となると、話が違うが・・・
これが、違法行為の指示となると、話が変わってきます。道徳の先生なら一瞬で「従うな」というでしょうし、筆者もそう言います。しかし、実際には従う人も多いでしょうね。
会社員が粉飾決算を命じられたら、多くの人は相当悩むと思います。「新製品の発売が間近なのだが、開発費が嵩んで赤字になっている。粉飾しないと銀行融資が止まってしまい、新製品発売前に倒産してしまう」と言われたら、読者ならどうしますか?
「粉飾がバレずに新製品が発売できれば、社員の雇用は守れるし、銀行も全額回収できるし、皆がハッピーだ」「粉飾を断れば、自分もクビだが会社が倒産して従業員も路頭に迷う」という時に、堂々と「違法行為はできません」と言えるサラリーマンは少ないかもしれませんね。
粉飾命令が断れない理由の一つは、粉飾決算がバレないかもしれない、という悪魔の囁きが聞こえることかもしれません。今ひとつは「日本は犯罪の処罰が甘い」ということかもしれません。
日本の刑罰が軽いのは「恥の文化を重んじる日本において、処罰を受けたということだけで社会的制裁を受けているから、刑は軽くて良い」という理由なのでしょうが、会社のために粉飾決算をした人は同情されて社会的制裁を受けない可能性もありますから、粉飾決算に関しては犯罪抑止力が働きにくいのです。
野球の話に戻って、「デッドボールを投げて相手の選手を怪我させろ」と監督から命令されたら、これはさすがに「皆がハッピー」にはなり得ませんから、思いとどまる人が多いでしょう。もっとも、これも「申し訳ございません。手が滑ってしまいました」と嘘をつけばバレないかも知れませんから、状況によっては悪魔の囁きに負けてしまう人もいるかもしれませんね。
最近、アメリカンフットボールの選手が、無防備な相手選手に後ろからタックルするという事件がありましたが、これは上記と比較しても不思議な出来事でしたね。必ずバレる行為であって、冷静に考えれば得られるものより失うものの方が確実に大きいですから。
監督に命令されたから止むを得ずタックルしたのだ、といった報道もなされていますが、仮にそれが事実であっても断るべきであって、処罰は免れないでしょう。事情によっては情状酌量の余地はありますが。一方、もしも本当に命令したのであれば、監督の罪は免れないでしょう。こちらは情状酌量の余地もありませんし。
まあ、世の中いろいろなことがありますね。世の中は単純ではない、ということなのでしょうね。
なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。
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