「主婦は昔よりラクになった」と言う世代、言われる世代の溝は埋まらない!?
LIMO / 2019年2月24日 19時35分
「主婦は昔よりラクになった」と言う世代、言われる世代の溝は埋まらない!?
「今は洗濯は洗濯機がやるし掃除は掃除機がやるじゃないか? 何がそんなに大変なんだね、最近の女性は」
生まれたばかりの赤ちゃんの抱っこと家事で手首を痛めた主人公の女性に対し、整形外科の医師がこう言い放つ場面があるのは、韓国で大ベストセラーとなった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』です。
同著は子育て中のキム・ジヨンの言動に異常が起こり始めたシーンから始まり、彼女の幼少期から現在までの人生を淡々と振り返る構成となっています。SNSでは、「他人ごとじゃない」「私のことだ」といった反響を集め、日本でも売り切れる書店が出るヒット作となっています。
「今の女性はラク」の言葉の裏にある「昔は大変だった」
子育て中の女性の中には、家族や見知らぬ誰かから「今の女性はラクになった」と言われたことがある方もいらっしゃるかもしれません。その言葉の後には「自分たちの頃は……」と各々の回想シーンが続くわけですが、そう言うのはたいてい家事を誰かに任せてきた人や、子育ての記憶が時とともに変わってしまった人ではないでしょうか。
便利な育児グッズが増加し、スマートな家電が食器洗いや洗濯を担うようになっても、家事が人の手を必要とすることに変わりはなく、昔も今も変わらずに子どもを育てることや完ぺきな家事を続けるのは、多大なエネルギーを要します。
そもそも、誰かが「女性は昔と比べてラク」と言った場合の「昔」は、せいぜい30年~50年前くらいのことだと思われます。いったい、昔と何が変わったのでしょうか?
「昔の大変」と「今の大変」は何が違う?
現在30代の筆者は、炭焼き小屋で作った炭でこたつを温め、自家製の薪で風呂を沸かす大家族の家庭で育ちました。学校の社会の授業で習う「昔の人の暮らし」がリアルタイムの自分の暮らしとあまり変わらない……という環境だったので、昔の生活の不便さや大変さは少しは分かるつもりでいますが、おそらくシニア世代の人たちが言う「昔は大変だった」と、今の子育て世代が感じている「家事と育児が大変」の内容は異なり、なかなか分かり合うことができないと推測できます。
3度の出産経験がある筆者は、初産時の里帰りや盆暮れの帰省の際に、シニア世代から数多くの育児のアドバイスを受けました。「自分たちは大変だった」と回想するその内容を聞いてみると、たいてい以下のような話題につながります。
家族の中で「嫁」という立場が弱く、大変だった
「布おしめ」や「産着」を洗うのが大変だった
今のように便利な育児グッズがないので、間に合わせで用意するのが大変だった
外で働きたくてもなかなか許されなかった
夫や舅が右から左にモノを動かすことすらしなくて大変だった
また、夫がサラリーマンだった場合、高度成長期に「企業戦士」の名のもと、育児に関わらない状態を大変だったと言う声もよく聞かれました。
一方で、今の母親が大変だと感じることの一部をあげてみると……
「ワンオペ育児」で自分が体調を崩しても頼る人がいない
育児の責任が母親にのしかかっている
進学や園選びの選択肢が増える一方で、情報収集や書類準備などの仕事が増加
育児の悩みを共有する相手がいない孤独
仕事と育児の両立で燃え尽きそう。夫は長時間勤務
一昔前と比較して家庭内の男女のパワーバランスがややフラットになり、家電や便利グッズが家事の負担を軽減した一方、「子育てが失敗できない」というプレッシャーを孤独に抱えながら、他人に迷惑をかけまい、自分が全部やらねばという心理的な重圧が高まっているように思います。
外から見えない苦労が増える一方で、同じ子育て世代であっても、自分は苦労しているという自負がある人が、自分よりラクをしているように見える人をやっかむ風潮も見られます。
冒頭に取り上げた『82年生まれ、キム・ジヨン』では、手首の痛みを訴える主人公に対して、医師は「昔は砧(きぬた)で洗濯物をたたいて白くしたり、火を焚いて煮洗いしたり、はいつくばって掃いたり拭いたりしたもんだ」と鼻で笑います。
<以前はいちいち患者のカルテを探して手で記録し、処方箋も手書きしていたのに、最近の医者は何が大変なのかとか、以前は紙の書類を持って上司を追っかけて決済印をもらっていたのに、最近の会社員は何が大変なのかとか、以前は手で田植えをし、稲刈りもしていたのに、最近の農家は何が大変なのかとか、そんな乱暴なことは誰も言わない。どんな分野でも技術が発展すれば物理的な労力は減るのが普通なのに、家事労働に関してだけはそれが認められない>(『82年生まれ、キム・ジヨン』より抜粋)
育児の記事や芸能人の育児ブログは、他の記事と比較して高い割合で炎上します。それは、多くの人が「自分の体験したことがスタンダード」と感じてしまうからではないでしょうか。
時代とともに、育児や家事の方法は変わっていきます。今も昔もそれぞれに大変で、それぞれの幸せがある。そんな風にあと一歩ずつ寄り添え合えたら、世代が違うゆえに生じる人間関係の不和を減らすことができるのかもしれません。
【参考】チョ・ナムジュ著・斉藤真理子訳『82年生まれ、キム・ジヨン』2018年(筑摩書房)
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