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インデックス運用は安物買いの「銭失わない」の不思議

トウシル / 2018年5月31日 7時0分

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インデックス運用は安物買いの「銭失わない」の不思議

インデックス運用は「安物買いの銭失い」か?

 日本経済新聞電子版に4月25日付けで《インデックス投信、「安物買い」しないための注意点》という記事がありました。ポイントを押さえてみると以下のような内容でした。

1. インデックスファンドは、おおむね手数料が低い商品のほうがリターンも高くなる関係がある

2.
アクティブファンドは、おおむね手数料が高いことでリターンが高くなる関係はみられない

3. しかしインデックスファンドもその投資対象のリスク(指数に連動したリスク)を負うことを忘れてはいけない。短期的な市況によっては騰落の影響を受けることがある

4. インデックスファンドを上回る成績を上げるアクティブファンドもあるので、インデックスファンドがアクティブファンドより運用成績がよいと一面的に理解するべきではない

5. 低コストのインデックスファンドは赤字覚悟の特売商品化している。「運用業界衰えてインデックスファンドあり」となっては投資家のためにならないのではないか?

(要約は筆者が行ったもの)

 タイトルというのはしばしばキャッチーさを優先してつけられるものですが、インデックス投資が本当に「安物買いの銭失い」か、という点について少し考えてみたいと思います。それは「なんとなく投資」からのステップアップになるテーマであるかもしれません。
 

1と2について:投資の世界は一般的な買い物の「値付け」とはルールがちょっと異なる

 記事で指摘されている項目の重要な内容は「コストが低いインデックスファンドのほうが運用成績はよくなる」という関係と、「コストが高いことが運用成績を高めることにはつながらない」という関係です。

 インデックスファンドに関するデータ分析では、同一のアセットクラスで運用されるインデックスファンドを比較しています。しかし、同じ投資対象、同じインデックスをベースに運用を行えば、運用成績に大差はつきにくくなります。むしろ差がつくほうがおかしくて、インデックスの値動きを大きく上回るほうがおかしい運用方法です(むしろこれを『上手な運用』と安易に褒めてはいけません。ブレるということは下振れする懸念もある、ということだからです)。

 となると運用管理費用(信託報酬)の差は最終的に個人投資家の「手取り」の差にならざるをえません。相関関係はおおむね信託報酬によって生じており、低コストのインデックスファンド選びには意義があります。また、高コストのアクティブファンドが高リターンを保証してくれない(実現する可能性はあるが)、ということは事実として知っておくべきだと思います。

 一般的な商品は高い値札は高い品質を意味します。スペック、デザイン、パワー、いろんな側面で高価格車と低価格車には差がありますし、高価格の服と低価格の服には差があります。しかし投資においては「高コスト=高リターン」「高コスト=元本割れ回避の保証」ではないことはよく理解しておきたいところです。
 

4について:いいアクティブかを見極める難しさを考えれば、インデックスは初心者にも中級者以上でも便利な選択肢

 次に考えてみたいのは「いいものをあらかじめ選ぶ」ということは難しいという事実です。

 よりよいアクティブファンドが存在するとして、「運用方針が今のマーケットのトレンドに沿っているからなのか」「ファンドマネージャーの技量によるのか」「これからも継続することができるのか」は普通の個人にとってはわからないはずです。

 わからないからこそ人気ランキングに頼るわけですが、わからないまま人気ランキングに頼ると今度は「運用方針がトレンドからズレたとき」を判断することもできません。そして、「投信会社内の運用体制が変更されたこと」も気がつきません。

 アクティブファンドの性格上、永遠にアクティブファンドが勝ち続けることは困難ですが、「引き時や買い時を個人が判断できるか」という問題もあります。特に株価が下がったときなどは「株価下落の影響による基準価額下落か、投資信託の実力に沿わない市況であるから下落なのか」判断することも難しいことになります。

 こういう話をすると「それを理解しなければ投資してはいけない」と理想論を述べる人がいますが、理想主義で現実を語ると、結果として誰も実行できないことになります。

 私は、「いいアクティブファンドがある」からといって「インデックスファンドを買うのは素人のやること」という雰囲気を醸成することはよくないと思います。

 もし理解できないなら、アクティブ運用をしなければいいだけの話です。そもそも本業は「会社の仕事」であり、投資が専業でない人は、投資のプロになる必要はありません。また家族との時間やリフレッシュのために用いるべきプライベートな時間をおろそかにしないためにも投資へ割くリソースが過剰なものとなってはいけません。

 仮に「いいアクティブファンドがあった」としても、初心者にとってインデックスファンドが便利で効率的な(仕事にもプライベートにも支障をおよぼさない)投資方法として否定されるものではないと思います。
 

3について:マーケットの未来についても読み切ることは困難で、かつそのための労力は大きい

 投資のタイミング選びとインデックスファンドの議論についてはどうでしょうか。

 確かにインデックス投資を行う人が、インデックスに応じたリスクを取ることは理解しなければならない大前提といえます。そして株式にかかるインデックスを採用する限り、リスクはそれなりにあります。

 GPIF(日本において厚生年金と国民年金の年金積立金を管理・運用する機関)の基本ポートフォリオは標準偏差を12.39%とみていますが、名目上のリターン4.40%の目標にプラマイすれば、マイナス7.99%は当然覚悟するべきです。そして、日本の株式だけに限ればリスクは25.23%ですから、これまた経済注意ケースの名目上のリターン6.0%を踏まえるとマイナス19.23%は当然に覚悟しておくべきということになります。

 その意味では、インデックス投資であろうと、基本的な騰落率を理解しておくことは必要です。最近の投資信託では説明資料に過去の標準的な騰落状況を掲載するようになりましたので、これを確認して「XX万円買うってことは、悪い年はYY万円まで下がる可能性あるってことね」と理解することだけは購入時に必要でしょう。

 ただし、普通の個人投資家は、タイミングをねらう能力も時間的余裕もないと私は考えます。その意味では市況をねらって買うというよりは、「分散投資」と「長期スパン」での積立投資がよい戦略であろうと思います。

 中長期的に考えれば、市場の回復を待ちつつ、かつ積立投資で割安な購入タイミングを自然と行使することもできます。いくつかのシミュレーションでは国内外の株式インデックスに20年積立投資をした場合の勝率は99%とされています。

 分散と積立は当然ながらインデックスの善し悪しとは関係ないことですが、組み合わせることで意義が深まるわけです。
 

インデックス中心の運用でも十分にお金は増やすことができる

 ごく普通の個人が、ごく普通の(それでも一般個人よりは豊かな)投資知識で資産形成を試みようとするなら、インデックスファンドの力を借りるのが現実的な選択肢です。

 そしてインデックスベースの期待リターンだけで、十分に資産形成を加速させるエンジンになり得ます。毎月1万円の積み立てに、年0.01%の利息では、30年がんばろうとも360万5千円でしかありません(元本360万円なので5千円しか利息がついてない!)。しかし年4%の利回りがあれば30年後に受取額は694万円まで増額されます。そして年4%程度の期待リターンを目指すポートフォリオであれば、国内外の株式インデックスに分散投資を行うだけでそれほど不可能なものではありません。

 そしてインデックスベースであればほとんど投資のための負担は生じません。

 個人投資家にとって、インデックス投資のアプローチとインデックスファンドという商品を選択することは、できるだけ軽い準備でできるだけ効率的に資産形成を実現するための選択肢であるわけです。
 

5について:個人投資家は金融機関のために投資するわけではない

 最後にもうひとつ。赤字覚悟の特売商品化したインデックスファンドにより「運用業界衰えてインデックスファンドあり」という指摘は、本記事において蛇足であったと思います。

 まず赤字であればその商品を設定する体力がないのですから、金融機関は「参入しない」という選択肢があります。また、インデックスファンドの普及により業界が衰微するのであればそれもまた投資家が責めを負うのではなく、金融機関側がその原因をたどるべきです。個人投資家が反省しろといわれても困ります。私たちは金融機関のために投資をするわけではありません。

 私はむしろ、インデックスファンドの普及は投信市場の拡大に資するものだと考えています。投資信託協会のデータによれば2017年末の投資信託市場の規模は米国が22兆1,460億ドル、日本は1兆7,590億ドルとしています。世界的には日本の投信市場は8位で、米国の規模は日本の12.5倍です。

 例えば日本の投信市場が今の2倍に伸張すれば、おのずとインデックスファンド以外の市場も拡大するでしょうから(2倍にはならなくても現状よりは拡大するでしょう)、仮にインデックスファンドのシェアが多数派となろうと運用機関のビジネスは成立するはずです。

 投資、特にインデックス投資はもっと一般的になっていくべきだと考えています。普通に子育て夫婦が「毎月2万円の貯金、1万円は定期、1万円はインデックスファンドね」というように、預貯金と並んでごくあたりまえの資産形成として使われていくことになるべきです。インデックスファンドは「誰でも使う資産形成ツール」になればいいと思います。

「業界がつぶれるから、消費者はインデックスを買うな」のようなメッセージは余計なお世話です。個人は個人のメリットだけを考えて、金融商品を選定すればいいのです。

 さて、ひとつの記事をベースに、インデックス投資のスタンスを考えてみましたが、結論としてはこうです。

インデックス運用は、安物買いの「銭失わない」ではないでしょうか。
 

(山崎 俊輔)

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