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OPEC総会目前で30%超の原油下落!逆オイルショックに警戒せよ

トウシル / 2018年12月3日 16時28分

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OPEC総会目前で30%超の原油下落!逆オイルショックに警戒せよ

 原油相場はこの2カ月間で30%以上も下落しました。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は先週、一時50ドルを割り込む場面がありました。

 トランプ米大統領の原油価格の下げ圧力が強まっていること(心理面の下落要因)、世界の石油需給バランスなどのデータが悪化(データ面での下落要因)していることが下落の主因とみられます。

 この状況悪化を受け、投機筋の資金流出が原油価格の下落に拍車をかけている、という構図です。

 そして、いよいよ12月6日、今後の原油相場の動向を占う上で非常に重要なイベントと言える第175回OPEC(石油輸出国機構)定時総会が開催されます。今回のレポートでは、OPEC総会について減産継続・減産終了、などシナリオ別の影響を考えてみます。

 

原油相場の今後を占うOPEC総会は12月6日開催予定

 2017年1月から始まった産油国の原油の減産()が、2018年12月に終了します。

※原油の減産:複数の産油国が意図的に同時に生産量を減少させて、世界の需給バランスを引き締めること。原油価格の上昇要因となり得る

 減産には、2018年12月時点でサウジアラビアやイラン、イラクなどのOPEC(石油輸出国機構)に加盟する15カ国と、ロシアやカザフスタンなどの非OPEC諸国10カ国(米国は含まれない)の合計25カ国が参加しています。

 これらの国がおよそ2年にわたり行ってきた減産について、OPEC側のリーダーであるサウジと、非OPEC側のリーダーであるロシアを中心に、2019年1月以降の方針をOPEC総会で決めようとしています。この方針決定は大きく「減産終了」と「減産継続」の2種類に分けられます。

 この総会での決定方針が与える原油相場への影響は、次のようになると考えています。

図1:OPEC総会での決定事項が与える原油相場などへの影響

出所:筆者作成

 減産終了の場合は、需給バランスの引き締め策が終了することを意味するため、原油相場にとっては下落要因になるとみられます。

 逆に、減産継続となった場合は、需給バランスの引き締め策が継続することを意味するため、原油相場にとっては上昇要因とみられます。

 同時に注目したいのが、「一般消費者の代弁者」トランプ大統領への影響です。トランプ大統領は、「一般消費者にはガソリン小売価格などの下落は減税のようだ」とし、原油価格をさらに下げたい考えを持っているとみられます。

 このおよそ半年間で、トランプ大統領の原油相場への関与度が急速に高まったことについて詳しくは、前回のレポート「急落する原油市場はトランプの思惑通り?パラドックスに陥るサウジの生き延びる道は?」 で触れました。

 今回のOPEC総会は、来年2019年以降の新しい体制を決めなければならない、そして消費国の強い代弁者を考慮しなければならないなど、非常に大きな意味を持っています。

 そして、その決定事項が今後の世界の石油需給バランス、引いては原油価格に長期的に影響する可能性があり、注目が集まっているのです。

 

OPEC経済委員会勧告の136万バレルの減産では、「駆け込み」前の水準に戻るだけ

 11月30日から12月1日にかけて行われたG20(20カ国・地域)首脳会議の場で、サウジ記者殺害事件で渦中のムハンマド皇太子と、ロシアのプーチン大統領との対談の機会がありました。その後の報道では、ロシアが減産継続で合意したとされています。

 また、週末にはOPECに関わる組織であるOPEC経済委員会が、OPEC総会で2019年1月以降、2018年10月に比べて日量136万バレルの減産実施を決定することを勧告したと報じられています。

 この勧告は、OPEC総会の前日12月5日に予定されている減産監視委員会に送られ、6日のOPEC総会、その後のOPECと非OPECの閣僚会議で議論されると報じられています。

図2:OPECの原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:海外主要通信社のデータを基に筆者作成

 ロシアが減産継続で合意したとみられる件と、OPEC経済委員会の勧告の件は、OPEC総会で「減産継続」を決定するための調整が行われていることを示唆しています。

 仮にこの日量136万バレルの減産が行われることとなった場合、実際にはどのような効果があるのでしょうか。

 図2のとおり、2018年10月を基準に日量136万バレル削減した時の生産量は、おおむね、2017年1月に始まり今月で終える現在の減産において、当該期間中で最も生産量が少なかった時(2018年5月など)の水準と一致します。

 OPEC全体としては、今年5月に行っていた生産量に「戻す」ことが減産継続を実施することとなるため、大きな変化、負担はないとみられます。

 2019年5月まで石油制裁の猶予を得たイランには例外措置として現行同様、限定的ですが増産枠が与えられる可能性があります。

 今年5月の水準でOPECが原油生産を行えば、5月以降供給過剰に向かい、9月に供給過剰に転じた世界全体の石油需給バランスは供給不足に向かい始め、5月以降減少が止まり、ここ数カ月間増加が目立っていたOECD石油在庫の増加が止まるなど、データ面での改善が期待されます。

 なお、世界の石油需給バランスとOECD(経済協力開発機構)石油在庫の推移については「原油価格は20%下落の異常。産油国協議と今後の原油動向予測」で詳しくレポートしています。

 日量136万バレルの勧告は正に 「駆け込み増産」の枠をフル活用して、ある意味数字のトリックで減産を継続することを考慮したものといえますが、それでもデータが改善すれば原油価格は反発に向かう可能性が出てくるとみられます。減産継続となった場合、実際にデータが改善しているかどうかは、2019年2月に各種機関が公表する統計データを参照する必要があります。

 

サウジには「第2次逆オイルショック」を引き起こす動機がある!?

 G20では、ムハンマド皇太子はプーチン露大統領と話をした他、マクロン仏大統領からサウジ記者殺害事件の件で何か指摘を受けたような様子があったと報じられています。メイ英首相もマクロン大統領と同様の様子だったと言われています。

 G20首脳会議の閉幕時に撮影された集合写真で、向かって右端にムハンマド皇太子の姿を確認することができます。この写真から以前であれば「石油が世界経済を支えている」「我々は世界の石油消費を支えている」とうたう、OPECのリーダーたるサウジの強気な雰囲気を感じることができなかったのは筆者だけでしょうか。

 国内外からさまざまな圧力がかけられ、孤立感が出始めているとすれば、サウジは次にどのような行動を取るのでしょうか。

 筆者が思い起こしたのは、2014年11月27日に行われた第166回OPEC総会でした。逆オイルショックの直接的な要因となった、「減産見送り」を決定した総会です。

 逆オイルショックを引き起こすことになった2014年11月と、現在の原油相場における共通点は二つあります。

 一つ目は、原油価格が急落している最中である点、二つ目は、米国の原油生産量の急増によりサウジの原油生産シェアが脅かされている点です。

図3:サウジアラビアと米国の原油生産量の推移

単位:百万バレル/日量
出所:EIA(米エネルギー省)のデータを基に筆者作成

 サウジは世界最大級の原油生産国ですが、米国やロシアと違い、国を支える原油以外の産業はまだ発展途上と言えます。

 さらに、大統領制を敷く両国と違い、王族が国を統治しています。このため、一部の限られた人物たちが原油に関わる産業へ関与することで、国が支えられていると言えます。

 この意味では、現在の逆境とも言える状況からサウジが復活するために、目先すぐに対応できることもまた、その一部の限られた人物たちによる原油に関わる産業への関与であると考えられます。

 今回の総会で、仮に2014年11月のように、減産見送り(今回の場合は減産継続見送り)を決定した場合、逆オイルショックの時のように原油価格の急落に拍車がかかる可能性があります。それにより、やがて生産コストが他の産油国に比べて高いとみられる米国の原油生産量が減少する可能性が出てきます。

 そうなれば、サウジは生産シェアを奪還し、市場での発言力を回復する、というシナリオが描けます。発言力はサウジの原油相場を操作する力の大きさとも言え、急落後の原油相場を操作しながら、サウジは世界における自国の立ち位置の向上と、信用回復に向けて現実的な一歩を踏み出すことができます。

 さらに、サウジが「第2次逆オイルショック」を引き起こす動機はもう一つあるとみられます。

 それは、トランプ大統領の原油相場への関与度を下げることです。目下、トランプ大統領が原油相場に強く関わっていることで、産油国は自らが主導した施策を打ち出しにくくなっています。

 ある意味「トランプ大統領の呪縛」からサウジや産油国が逃れるためには、一度、原油価格を急落させ、トランプ大統領に「高い」と言われなくなるまで原油価格を下げることが必要だと考えられます。

 そのような原油価格の一つの目安として、米国の石油関連企業の活動を停滞させる価格が挙げられます。原油価格が急落し、一般人が減税のような効果を享受できたとしても、米国国内の石油関連企業の活動が停滞した場合、株価下落の一因にもなることから対応の必要が生じ、原油価格を下落させる発言が止む可能性が出てきます。

 図4は、米国のシェール主要地区の開発状況を示す二つの指標と原油相場の動向を示したものです。

図4:米国のシェール主要地区の開発2指標と原油価格

出所:EIAのデータを基に筆者作成

 掘削済井戸数は、石油掘削リグ(装置)を使って掘削を終えた井戸の数、仕上げ済井戸数は掘削が終わった井戸を原油の生産が行えるように水や砂を高圧で注入し終えた井戸の数です。どちらも石油会社が費用と時間を投じて行う活動によって増減する数です。これらの数が増加していれば、投じた費用を回収すべく、石油会社は数カ月後に実際に原油生産を開始することを予定しているとみられます。

 2018年10月時点で、米国のシェール主要地区の原油生産量は日量730万バレルを超え、米国全体の65%程度を占めています。つまり、このシェール主要地区の開発活動が停滞すれば、米国の原油生産量は減少するとみられます。

 過去の経験則から米国の原油生産量を減少させるには、逆オイルショック時と同じ原油価格の急落が有効。逆オイルショックを再び起こすにはサウジにとって今回のOPEC総会がまたとないチャンスと考えられます。

 具体的に、原油価格が何ドルまで下落すれば、米国のシェール主要地区の原油開発が停滞するのでしょうか。

 図4のとおり、開発指標が上向き始めた時の原油価格が45ドル近辺だったことから、45ドル以上で開発発動が活発化する、45ドル以下で開発活動が停滞するとみられ、45ドルがその目安、つまりトランプ大統領が高いと牽制するのが止む価格、と考えられます。

 図5は前回のレポート「急落する原油市場はトランプの思惑通り?パラドックスに陥るサウジの生き延びる道は?」で書いた、トランプ大統領が「かつては82ドルだった」としたツイートから考えた「高い」と考える原油相場のレンジに、先述の高値けん制が止むと考えられる45ドルを追記したものです。

図5:WTI原油価格の推移(月足・期近・年平均) 

注:2018年は11月まで
単位:ドル/バレル
出所:CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のデータを基に筆者作成

 もし、サウジが今回のOPEC総会で「減産継続を見送り」、原油価格を急落させて「第2次逆オイルショック」を発生させた場合、サウジが望む価格は、トランプ大統領の呪縛から解放されるとみられる45ドル以下だと考えられます。

 今週12月6日はいよいよOPEC総会です。サウジは、そしてイラン、イラク、ロシアなど減産に参加する国はどのような決断を下すのでしょうか。大きな関心を持ってその時を待ちたいと思います。

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(吉田 哲)

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