フォルクスワーゲン問題が顕在化? プラチナ相場、ついに「終わり」の「始まり」?
トウシル / 2019年3月11日 13時42分
フォルクスワーゲン問題が顕在化? プラチナ相場、ついに「終わり」の「始まり」?
2019年3月6日(水)、英国のプラチナ需給の調査機関である、WPIC(ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル)が、今後のプラチナ相場を考える上で重要なデータを公表しました。これは同機関が年に4回公表する世界のプラチナの需給データの一つで、一般の人が閲覧可能な数少ない世界のプラチナ需給に関する統計データです。
今回はこの統計データを参照しながら、今後のプラチナ相場を考える上で重要な、自動車排ガス触媒向け、及び宝飾向け消費の動向と、長期的なプラチナ価格の推移に注目したいと思います。
図:プラチナ、金、パラジウムの価格推移(NY先物価格、月足、終値)
フォルクスワーゲン問題がついに顕在化?自動車排ガス浄化装置向け消費が減少
今後のプラチナ相場を考える上で、2019年3月6日に公表された統計データは、他の需給データよりも重視する必要があると筆者は考えています。
今回の需給データの特徴は、2018年の各数値にあった、“f(forecast 予想)”の文字が外れ、予想値から確定値となった点です。今後は、2018年の確定値に多少の修正はあったとしても、大幅に変わることはないとみられます。そして、確定値となった2018年の数値が示すのは、2015年秋に発覚したVW(フォルクスワーゲン)問題が顕在化した可能性でした。
VW問題発生時は、プラチナの主たる消費分野である自動車排ガス浄化装置向けの消費が減少することが強く懸念されてきました。しかし2015~2017年までの消費推移は、減少せずに横ばい、むしろ微増となり、VW問題がそれほど大きなマイナス要因にならないのではないか? という楽観的なムードを漂わせていました。
しかし、2018年の確定値で、VW問題の影響をうかがわせる大きめの減少を示したのです。 2018年の自動車排ガス浄化装置の消費は、この5年間の最低となりました(310万トロイオンス)。2019年の予想は2018年をさらに下回るとされています。
図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け消費の推移(世界合計)
また、以下のグラフは、自動車排ガス浄化装置向けの消費を国・地域別にみたものです。
図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け消費の推移(国・地域別)
グラフを見ると、欧州の「プラチナの自動車排ガス浄化装置向け消費」の減少が目立っています。VW問題発覚以降、2017年までは微増でしたが、2018年は130.5万トロイオンスに減少し、2013年以降の最低となりました。
VW問題によって、減少しそうで減少しなかった欧州の自動車排ガス浄化装置向け消費の減少が、いよいよ現実のものになった可能性は否定できません。仮に、この2018年の欧州の減少がVW問題の影響によるものだとして、数年遅れて顕在化した理由の一つに、問題発覚前から数年先まで予定されていたディーゼル車の生産が昨年から終了し始めたことがあげられると筆者は考えています。
長期価格低迷の主因、中国の宝飾向け需要も継続
今回の統計データでは、宝飾向けのプラチナ需要の減少が継続していることも確認されました。
図:宝飾向けプラチナ消費の推移(世界合計)
上図のとおり、宝飾向けプラチナ消費(世界合計)は、2014年をピークに減少傾向にあり、2018年は235.5万トンとなりました。2019年も引き続き減少することが予想されています。
以下の図の通り、国・地域別にみると、中国の同消費の減少が目立っていることが分かります。
図:宝飾向けプラチナ消費の推移(国・地域別)
中国における宝飾向けプラチナ需要は、2018年は2013年に比べて、40%以上減少しています。
欧州の自動車排ガス浄化装置向け需要、中国の宝飾向け需要は、プラチナ需要のそれぞれおよそ17%、16%にあたることから(2018年時点)、これらのセグメントの需要減少は、プラチナ相場には大きなマイナス要素として作用する(している)とみられます。
一方、プラチナ価格の推移は、長期的には歴史的な安値をキープ
上述のとおり、2018年のデータから、主要セグメントで需要減少が確認され、プラチナ相場の今後を考える上では、これらを大きなマイナス要素として認識する必要が生じているとみられます。
しかし一方で、価格をサポートする要素と言える材料もあります。以下は、長期的なプラチナ価格の推移を示したものです。
図:プラチナの価格推移(NY先物価格 月足 終値)
プラチナ価格は、1990年代序盤から2000年代序盤は、1トロイオンスあたり500ドル近辺で推移していました。しかし、2005年頃に底値を切り上げる動きが目立ち、リーマン・ショックで下落したものの、2009年以降、現在まで1トロイオンスあたり800ドル近辺を底値とする展開が続いています。新興国の台頭などによる大規模な価格水準の変化(パラダイムシフト)が起きたことが分かります。
以前のレポート「不確実性が高まっている今、長期的視点で見守りたいコモディティ銘柄5つ」で述べましたが、リーマン・ショック後の安値は、複数のコモディティ銘柄において長期的な値動きにおける底値となっています。
プラチナもその銘柄の一つで、今のところ、リーマン・ショック後の安値が長期的な値動きにおける底値として作用しているとみられます。
2019年3月11日(月)時点で、プラチナ価格は1トロイオンスあたり810ドル近辺で推移しており、長期的に作用してきたサポート上にあります。今後もこのサポートラインを割ることなく、価格が推移していくかどうかに注目が集まります。
本レポートの前半では、先週公表された需給データから、「欧州の自動車排ガス浄化装置向け需要の本格的な減少が始まった可能性がある」「中国の宝飾向け需要が減少し続けている」というプラチナ相場にとって下落要因となり得る点について触れました。
後半では、長期的なプラチナ価格の推移という点から、現在の価格がリーマン・ショック直後の安値という、同ショック以降、底値として作用してきた値位置にあり、比較的サポートされやすい状況にあることについて触れました。
現在のプラチナ市場は、下落要因とサポート要因が同居していると言えます。今後の注目点は、欧州の自動車排ガス浄化装置向け需要がさらに減少するのか? 仮にその材料によってプラチナ価格が下落したとき、リーマン・ショック後の安値というサポートが作用するか? だと思います。
次回の需給データは2019年5月13日に公表されます。各データにおいて、2018年のデータに修正がなかったか、2019年の予想がどのように変化したかに注目したいと思います。
(吉田 哲)
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