SNS会社から「テクノロジーの総合百貨店」へ変貌を遂げるテンセント
トウシル / 2019年5月22日 17時58分
SNS会社から「テクノロジーの総合百貨店」へ変貌を遂げるテンセント
時価総額で世界トップ10に名を連ねるメガテック企業、中国のテンセント。SNSで急成長したことから、テンセントを「中国のフェイスブック」と呼ぶ人もいます。しかし、テンセントを知れば知るほどフェイスブックとの違いが際立ってきます。
目的としてのSNSか、手段としてのSNSか
フェイスブックもテンセントも、誰もが簡単かつ無料で利用できるSNSサービスを提供しています。では、両社の違いは何か。それは、事業展開する上でSNSをどのように位置付けているかを理解することによって見えてきます。
フェイスブックは、SNSで強固なコミュニティ基盤を築くという目的に特化して、広告で稼ぐというビジネスを展開しています。対して、テンセントは、SNSを起点にしながらも、ゲームや動画・音楽などのデジタルコンテンツ、決済などの金融サービス、AIによる医療や自動運転、クラウドコンピューティング、オンラインとオフラインを融合させるOMO(Online Merges Offline)店舗、広告など、その事業領域は多岐にわたっています。テンセントは、SNS事業を「テクノロジーの総合百貨店」になる手段として位置付けているのです。
テンセントは「コミュニケーション・プラットフォーム」の会社
SNSで押さえた強大な顧客接点がテンセント最大の強み
テンセントのビジネスの起点、そして中核は、もちろんSNSサービスです。MAU(月間アクティブユーザー)は、2018年12月末時点で「QQ」が約15億人、「ウィーチャット」が約11億人とされています。
MAUが20億人を超えるフェイスブックに迫るほどの圧倒的なユーザー基盤、この顧客接点こそがテンセントの最大の強み。テンセントは、SNSで獲得したユーザーに対し、ゲームやデジタルコンテンツ、金融サービス、小売りサービスなどを提供していくことによって「テクノロジーの総合百貨店」になるわけです。
収益の柱「オンラインゲーム」には懸念材料も
収益の内訳では、テンセントの事業の中で存在感が大きいのはやはり「オンラインゲーム」と「デジタルコンテンツ」です。ゲーム内課金や有料コンテンツなどからのVAS(Value Added Service、付加価値サービス)収入は全売上高の6割近くを占め、収益の柱となっています。テンセントをよく知る人であれば、テンセントは「オンラインゲームで大きくなった会社」というイメージを持っているかもしれません。
しかし、2015年投入のオリジナルゲーム「Honor of Kings」は1億超のダウンロードを記録し社会現象にもなった一方で、2017年に共産党中央機関紙「人民日報」がその中毒性を指摘、ゲームが社会悪を作っていると非難。テンセントは、未成年ユーザーに対してゲームの使用時間制限をかけざるを得なくなりました。
後発の「ウィーチャットペイ」が「アリペイ」を猛追する理由
テンセントの事業の中で存在感を増してきているのが「金融サービス」です。特に、決済システム「ウィーチャットペイ」には目を見張るものがあります。2004年にサービスが開始され広く普及していたアリババのアリペイを、2013年からウィーチャットペイが猛追。
現在、中国国内のシェアは、アリペイとウィーチャットペイが拮抗しているとみられています。約10年も遅れてサービス開始したにもかかわらず、テンセントの追い上げが進んでいます。ウィーチャットのアプリの中にある「ウォレット」機能からすぐにウィーチャットペイが利用できること、SNSを通して顧客接点を押さえている点は、テンセントの強みです。
ウィーチャットは、テンセントのプラットフォームへの入り口としても機能します。プラットフォームでは、ウィーチャットペイが決済機能を提供する一方で、「ウォレット」に滞留する資金は銀行・証券・保険などテンセントの金融サービスの源泉にもなります。高金利での運用、個人や中小企業への小口融資も行われます。
ユーザーの金融ニーズや生活ニーズに合った魅力的な顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)や運用商品が提供され、プラットフォームの中で金融事業が垂直統合されていきます。そこでは、ウィーチャットのユーザーにとって便利で快適な環境が築かれることに。さらに、ウィーチャットのアクティブユーザーの増加につながるという好循環を生み出すのです。
「AI×医療」「AI×自動運転」に注力するテンセントの戦略
中国政府が発表した「次世代人工知能の開放・革新プラットフォーム」(2017年11月)において、テンセントは「AI×医療画像」に関する国策事業を委託されました。その背景には、もともと医療に関するAI研究で一日の長があったテンセントへの中国政府の期待があると考えられます。
テンセントは、顔認識などのAI技術を結集し2017年8月に「AI医学画像連合実験室」を設立、食道がんの早期スクリーニング臨床実験の仕組みを整えています。従来医療画像の読影は医師の技量と経験に頼らざるを得ない面がありましたが、AIを活用しより精度を高めようというわけです。
「AI×自動運転」では、テンセントは、米国の電気自動車メーカー・テスラの株式を5%保有するほか、2016年12月には高精度3次元地図プロバイダーのドイツHEREと戦略提携を結びました。テンセントはこの提携をもとに、中国市場向けのデジタル地図サービスを展開するほか、自動運転に利用する高精度位置情報サービスも構築するとしています。2017年11月には自動運転技術に関わる研究施設を北京に開設。2018年11月の広州モーターショーでは、広州汽車と共同でテンセントの「AI In Car」搭載自動車の開発も発表されています。
アリババの「ニューリテール」に対抗するテンセントの「スマート・リテール」
アリババがフーマーで「ニューリテール(新小売)」を展開しているのに対し、テンセントも同様に、OMO戦略を採用、それを「スマート・リテール」と呼んでいます。
テンセントは、中国EコマースのBtoC市場でシェア2位の座にある京東(JD)の筆頭株主です。JDは2015年に中国の大手スーパーマーケットチェーン「ヨンフイ」と戦略提携し10%の株式を保有していますが、2017年12月にはテンセントもヨンフイの株式を取得。2017年1月、ヨンフイはフーマーで好評を博しているグローサラントサービスと同じコンセプトを打ち出し、新ブランドのOMO店舗「チャオジーウージョン」をスタートさせました。決済システムでのアリペイ対ウィーチャットペイに加えて、OMO戦略においてもアリババ「フーマー」対テンセント「チャオジーウージョン」という競争が始まったわけです。
プラットフォームを活用、ユーザーを囲い込むことによって顧客接点をより強固にする。そして、より幅広いサービスにおいてプラットフォームの覇権を握る。それがテンセントの戦略です。短期的には、「オンラインゲーム」での政府規制強化といった収益上の懸念材料はあります。一方、長期的にはテンセントが「テクノロジーの総合百貨店」へと変貌を遂げていくかが注目ポイントとなります。
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