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海外での原発建設から日本企業は事実上撤退:電力株の投資判断

トウシル / 2019年6月25日 7時46分

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海外での原発建設から日本企業は事実上撤退:電力株の投資判断

海外での原発建設から日本企業は事実上撤退、中国・ロシアが積極推進

 日立製作所(6501)が19日開催した株主総会では、英国で進めてきた原発建設事業の凍結について、株主からさまざまな質問が出ました。東原社長は、「当面は国内にある原発の再稼動や廃炉事業を進める」と回答しました。

 英国での原発事業は、リスクが高い割りに英国政府から十分なバックアップが得られる見込みがたたないことから、「経済合理性の実現が難しいため凍結の判断に至った」と説明されました。海外での原発事業から、事実上、撤退した状態が続きます。東芝が米国の原発建設事業で巨額の損失を出して一時債務超過に陥ったことが反面教師となり、日本企業は原発事業リスクを縮小する方向に舵を切っています。

 三菱重工も海外での原発事業は、縮小しつつあります。日本政府と共同で、トルコでの原発計画を進めてきましたが、安全対策にかかるコストが大幅に膨らむのに対応した請負金額の引き上げができないため、計画を断念する方針をトルコ政府に伝えています。

 原発建設には、長い年月がかかります。建設を請け負い、建設に着手してから完工する前に、安全対策コストがどんどん拡大して巨額の赤字を計上するリスクが大きくなっています。そのリスクを民間企業だけで負いきれなくなくなりつつあります。

 こうした環境で海外での原発建設を積極化できるのは、中国とロシアの原発企業だけとなっています。実際、日本企業が実質撤退した後、海外での原発建設は、中ロ企業の独壇場となっています。

 中国の政策助言機関である中国人民政治協商会議が19日に開催した会議では、「今後10年間に(中国企業が)海外30カ所に原子力発電所を建設することが可能」と、強気の意見が出ています。

電力9社に投資するのは、リスクが高い

 原発事業を保有している電力9社【注1】、すなわち、東京電力HD(9501)中部電力(9502)関西電力(9503)中国電力(9504)北陸電力(9505)東北電力(9506)四国電力(9507)九州電力(9508)北海道電力(9509)に投資するのは、リスクが高いと判断します。

【注1】    電力9社
沖縄電力(9511)は原発非保有なので、この9社に含まれません。沖縄電力は今日のレポートでの投資判断の対象外です。

 原子力発電を運営するコスト、廃炉コストとも、安全基準の強化によって、世界的に年々高くなっているからです。日本ではこれまで原発が低コスト発電とみなされてきましたが、高コスト発電に変わる可能性が高まっています。

 重要な影響が及ぶのが、核燃料サイクル事業【注2】の成否です。

【注2】核燃料サイクル事業について
 現在、日本は、核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業の原価を計算しています。核燃料サイクルとは、使用済み核燃料を再生してMOX燃料を作り、再び原子炉で発電に使うものです。これを「プルサーマル発電」と言います。さらに、そこから得られるプルトニウムを使って、高速増殖炉で発電を行う計画です。高速増殖炉では、使用するプルトニウムを上回る量のプルトニウムが得られ、何度も発電を繰り返すことができる、とされてきました。

 夢のような核燃料サイクルが実現することを前提としているため、日本の電力会社は、使用済核燃料を、資産として計上しています(燃料の再生費用は引き当て)。使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための「資源」という扱いです。

 ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していません。最近になって、核燃料サイクル事業は、安全性が確保できず、実現不可能との見方が出ています。使用済燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て、完成が遅れています。

 高速増殖炉の開発も進んでいません。日本では、再処理したプルトニウムで動くはずであった高速増殖炉「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏洩事故を起こして以来、稼働が停止したまま、廃炉が決定しました。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発を断念する国が増えています。

 今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業を推進しています。核燃料サイクルが実現することを前提に原価を計算するので、原発は低コスト発電で、再稼動が電力会社の財務を改善するとされています。

 ところが、日本政府が核燃料サイクルを断念する場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は、最終処分に莫大なコストがかかる「核のゴミ」に変わります。そうなると、原発は極めてコストの高い発電となります。既に大量に抱えている使用済み核燃料の最終処分コスト負担によって、電力会社の財務が悪化する懸念もあります。

電力株の投資判断

 原発事業について、不透明材料が残っていることを考えると、現時点で原発事業を有する電力会社に投資するのはリスクが高く、投資は避けた方が良いと思います。

 そんな日本の電力会社ですが、原発事業のリスクから解放されれば、高く評価できます。日本は、送配電ロスが5%しかない、きわめて高効率の送配電網を維持しています。送配電にかかる高い技術力は注目に値します。高圧交流送電では、世界トップとなる技術を有します。

 日本の電力会社が持つ、高い発送電技術は、今後、新興国に輸出していく価値があります。ところが、原発事業のリスクに縛られて、思うような海外での事業展開ができなくなっています。とても、残念なことだと考えています。

<参考資料>使用済み核燃料の処分方法(核燃料サイクルを行う場合と、行わない場合)

<図A>核燃料サイクルを行わない場合:使用済み核燃料を直接処分

 

<図B>核燃料サイクルを行う場合:プルサーマル発電まで

<図C>核燃料サイクルを行う場合:高速増殖炉まで

2020年「発送電分離」後の「送配電会社」に注目

 日本では今、電力事業の自由化が進行中です。既に、発電事業・電力小売事業への参入が自由化され、東京ガス(9531)大阪ガス(9532)など異業種から、参入が相次いでいます。

 電力自由化の仕上げとして、2020年に「発送電分離」が予定されています。既存の電力大手が、発電会社・送配電会社・電力小売会社に分割されます。東京電力HD(9501)は、その準備として、既に3事業を社内分社しています。

 分割されることで、電力会社が弱体化すると考える人もいますが、私は、逆だと考えています。既存の電力大手から原発事業が分離されるならば、残った事業が息を吹き返す可能性があります。

 特に注目しているのは、「送配電会社」です。先に述べたとおり、日本は送配電で世界トップクラスの技術力を有しています。世界には非効率な電力網がたくさんあり、日本の技術の貢献余地は大きいと考えられます。東京電力は福島原発事故を起こす前、この技術を積極的に輸出しようとしていました。それが、原発事故によって頓挫した経緯があります。

 原発事故の補償を、国の責任で完全に行うことが前提となりますが、送配電事業が、原発事業と完全に資本分離されるならば、投資妙味の高い会社になる可能性があります。
ただ、発送電分離がどのような形で行われるか、細部は決まっていません。送配電会社に、原発事業との資本的なつながりが残るならば、投資は難しいとの判断になります。2020年の発送電分離がどういう形で行われるのか、具体的な中身が決まるのに、注目したいと思います。

(窪田 真之)

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