「こんまり」が金利を引き下げた?景気減速を誘発する思わぬ要因
トウシル / 2019年11月20日 15時50分
「こんまり」が金利を引き下げた?景気減速を誘発する思わぬ要因
今年のドル/円は史上最も狭い値幅予想
ドル/円は108円台前半まで調整売りとなりましたが、相場自体は108円台前半のチャートポイントできっちりサポートされたため、上げ下げの波形を作りながら、いまだ上昇トレンドの中に収まっているとの見方もあります。しかし、109円台半ばを抜け切らなければ、この上昇トレンドは崩れ、10月中旬からのレンジ相場が続くことになります。
今年は残すところ1カ月半弱ですが、このままだと今年の安値圏である1ドル=104円台や、高値圏である112円台に顔合わせに行くチャンスはなさそうです。その場合、年間値幅は昨年よりも狭くなります。
昨年2018年の年間値幅は10円未満であり、この10円未満の値幅は1973年に日本が変動相場制に移行してから最も狭い変動幅でした。今年はそれよりも狭い値幅になるということです。
今年の相場は、米中の制裁関税合戦で、年後半は米中通商協議合意への期待と失望によって翻弄(ほんろう)されました。しかし、そのような重大イベントがあったにもかかわらず、昨年よりも変動幅が少なかった背景には、各国の金利と物価が低下傾向であったということがあるようです。相場変動の重要要因である金利と物価が、各国とも昨年よりも低い水準で推移したことが、相場変動の抑制要因になったようです。今年は米国が金融緩和に方針を変更しましたが、欧州も新興国も軒並み金融緩和に動いたため、米金融緩和は大きな変動要因にはなり得ませんでした。日本では金利こそ下がりましたが、金融政策は変えなかったため、昨年と比べ円高水準で動いています。
実は世界人口は減少し始めている
このように、近年相場が大きく動かなくなってきましたが、その背景を分析している興味深い記事が新聞に掲載されていました。
一つ目の記事は、人口減少が景気拡大を妨げているという内容です。
米モルガン・スタンレーの資産運用子会社のストラテジストによると、日本や中国、ロシアなど世界各国で人口が減り始めており、これが景気拡大を妨げる要因になっていると分析。そのため、金融緩和も、財政出動による景気刺激策も、景気拡大には結びつかないと指摘しています。
つまり、世界的に人口が減少しているため生産も消費も拡大せず、また、金融政策も財政政策も効果がなくなるため成長率も低い水準にとどまるという分析です。このような経済社会では金利も低下し、物価も低水準ということになります。従って、為替も大きく動く環境にはなりにくいということになります。短絡的に言えば、為替の値幅が狭くなるのは人口減少が要因の一つということになります。
同ストラテジストは人口動態の変化を踏まえた成長率も試算しています。その試算によれば、景気が順調に拡大しているとされる成長率は、新興国で5%、中国のような先進国と新興国の中間の国で3~4%、日本やドイツ、米国などの先進国で1~2%になると分析しています。
先進国の1~2%は、現在の実際の水準ですが、中国の成長率が3~4%というのは現在の6%からはかなり低い水準になります。もし、この水準に向かっていくのなら世界景気は今よりもさらに後退していくことになります。
こんまりが豪州の景気を冷やしている?
もう一つの興味深い記事は、11月7日の豪紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」に掲載された、豪州の政策金利が過去最低の0.75%が続いているのは、「こんまり」の愛称で知られる片付けコンサルタントが間接的に影響を及ぼしているという内容の紹介記事でした。
ここ数年、豪州のテレビではミニマリズム(必要最小限まで減らす考え方)をテーマにしたドキュメンタリー番組や“War on waste(無駄との戦い)”といった番組がはやっているそうです。火付け役は「ときめく」か「ときめかない」かで、不要なものを捨てることを勧める「こんまり」と指摘し、「安価な商品の輸入に支えられた大量消費時代が終わりを告げ、よく熟慮された消費主義に代わろうとしている」と説明しています。
つまり、消費が冷え込んだのは景気が減速したのではなく、生活スタイルが変わったため消費行動が変わり、景気が減速し、政策金利が低下したという内容です。景気が拡大しないため消費行動が慎重になったのかもしれませんが、根本となる生活スタイルが変わるのであれば、このトレンドは続くかもしれません。つまり、低金利は続くかもしれないということになります。
「こんまり」の「ときめく」か「ときめかない」かで不要物を捨てる「片づけの魔法」術は米国でも人気です。これに環境問題が加わり、世界的に消費行動が変わるのであれば、低成長の世界は続くかもしれません。
相場が大きく動かない背景が低成長、低金利、低物価。そしてそれらの根本的な背景が人口減少、環境問題をも重視した消費行動となると、来年もそのトレンドは続くことが予想されます。そうなると、相場は今年と同じように動きづらい環境になるかもしれません。
クリスマス相場の重要イベントをチェック
さて、相場が動かなくなると、つらつらとこのようなことを考えてしまいますが、クリスマス相場に入っているかもしれない12月中旬には重要なイベントが待ち構えていることを留意しておく必要があります。12月15日はトランプ米政権が対中追加関税第4弾の実施予定日です。そしてその前に12月11日のFOMC(米連邦公開市場委員会)、12日のラガルドECB(欧州中央銀行)新総裁の初会合、同じく12日には英国総選挙があります。12月中旬は年内最後のイベント週となりそうで、動かない中でもまだ緊張を緩めるわけにはいかないようです。
(ハッサク)
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