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コロナ・ショックに続くリスク?「トランプ再選シナリオ」に黄色信号

トウシル / 2020年3月6日 6時59分

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コロナ・ショックに続くリスク?「トランプ再選シナリオ」に黄色信号

1.FRBの緊急利下げで不安の連鎖はいったん収束か

 前週に急落した米国株式は、今週2日にダウ平均が史上最大幅(1,293ドル)の反発をみせました。「恐怖指数」(VIX)は28日のザラ場で49まで上昇し、リスク・パリティ投資戦略やヘッジファンドによる機械的な株式売り加速を消化した可能性があります。その恐怖指数は今週32まで低下しました(4日)。

 新型コロナの感染拡大と景気後退不安を発端とするリスク回避の連鎖はいったんは落ち着いたようにみえます。FRB(米連邦準備制度理事会)は4日に「景気下振れリスクを回避する」との目的で緊急利下げを実施しました(FF金利の誘導目標:1.50~1.75%→1.00~1.25%)。利下げ幅が0.5%だったことによる「利下げ出尽くし感」と、直後の記者会見でパウエル議長が「金融政策の限界」に言及したことで当日の株価は乱高下しました。

 ただ、新型コロナ感染拡大による経済的影響に配慮し、FRBが世界の金融当局の先陣を切って機動的利下げを実施したことで、ダウ平均は下値を固める動きをみせています。図表1では、株価急落と長期金利低下が当局の追加利下げを催促したようにみえます。金融緩和そのものは新型コロナに直接効果はありませんが、景気の落ち込みや企業の資金繰りを支える意味があります。一方、米国金利の低下で為替相場ではドル/円が107円台まで下落。円高の進行で日経平均は相対的に上値の重い動きとなっています。

図表1:売られ過ぎ感とFRBの追加利下げで米国株は反発

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019/1/1~2020/3/4)

2.1998年の「ロシア危機~LTCM危機」と似ている

 今回の株価調整が、1998年の「ロシア通貨危機とLTCM経営危機」発生時と似ているとの指摘があります。

 当時は、原油相場の下落基調を主因にロシアのデフォルト(国債の債務不履行)リスクが8月に高まり、ロシア国債に多額の投資をしていた大手ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が10月に経営危機に直面。ロシア危機からLTCM危機に至るまで、市場は「金融危機が世界に伝播するリスク」を怖れ株価は急落しました。

 ダウ平均は1998年7月高値から約19.3%下落。ドル安・円高が進行したことで日経平均は同年3月高値から25.4%下落しました。株式売り・債券買いが進んだ結果、米国市場の長期金利は政策金利(FF金利誘導目標上限)を大きく下回り「逆イールド」(長短金利逆転)がみられました(図表2)。市場がFRBの金融緩和を催促していた状況がわかります。

図表2:ロシア危機からLTCM危機の米国市場を参考にする

出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(1998/1/1~1999/12/31)

 当時、グリーンスパン議長が率いていたFRBは、9月末から3度にわたる断続的な利下げを実施して市場に流動性を供給。ロシアとLTCMの危機を発端とする金融危機の連鎖を回避する利下げは「保険的利下げ」や「予防的利下げ」と呼ばれました。

 結果として、危機が沈静化した後に米ダウ平均、米長期金利、日経平均が翌年(1999年)に向け回復基調をたどった経緯がわかります(図表2)。FRBが機動的に金融緩和を実施したことが、その後の株価、景況感、長期金利の底入れを導いたとされています。

 市場実績で振り返ると、金融危機の収束と景気回復期待の復活で、ダウ平均は1998年8月の底値から1999年末まで約52%上昇しました。もちろん当時と現在が全く同じ環境とは言えません。ただ、市場参加者は「過去の市場実績との類似点を教訓とする傾向」があり注目したいと思います。

3.バイデンの復活で「トランプ再選シナリオ」に黄色信号?

 一方、米大統領選挙に向けた民主党候補者指名争いでは「トランプ大統領再選シナリオ」を揺るがしそうな動きが起きています。3月3日に実施された「スーパーチューズデー」は民主党候補者指名争いのヤマ場とされ、カリフォルニア州やテキサス州など14州の党員集会や予備選で民主党代議員全体の約3割強の指名候補が決まりました。

 その結果、ジョー・バイデン候補(前副大統領)は10州で勝利し、直前の「サンダース候補優勢」との予想を覆しました。「復活」を印象付けたバイデン候補については、候補者指名争いから撤退したブティジェッジ候補、クロブシャー候補、オルーク候補、ブルームバーグ候補が揃って「バイデン支持」を表明。民主党内の穏健中道派とされる候補者が大結集する形となりました。サンダース氏の支持率や指名予想確率は一時上昇しましたが、民主党内では「過激すぎる社会主義的政策に固執するサンダースが民主党の大統領候補になれば本選でトランプに勝てない」との懸念が広まっていました。

 図表3で示す通り、バイデン候補の公認予想確率が急上昇し、サンダース候補を逆転しました(4日)。7月13~16日に予定されている民主党大会に向けた候補者指名争いは、バイデン氏とサンダース氏の2人に絞られた感があります。ただ、民主党の予備選や党員集会は3月11日以降も残されており、両候補の優勢・劣勢の行方に予断を許しません。今後の焦点は、民主党内で公約が左派的でありながらサンダース候補との確執が知らているウォーレン候補(上院議員)の去就に移っています。

図表3:民主党の大統領候補者公認予想が急展開

出所:PredictItのデータ(Implied Probability)より楽天証券経済研究所作成(2019/7/1~2020/3/4)

図表4:「トランプ再選シナリオ」に黄色信号は灯るか

出所:PredictItのデータ(Implied Probability)より楽天証券経済研究所作成(2019/7/1~2020/3/4)

 市場が不安視していたサンダース候補は、国民皆保険の実現、公立学校の無償化、奨学金負担の帳消し、最低賃金の引き上げを主張して若者層の支持を集めてきましたが、その財源として富裕層に対する資産課税(最大で年率8%)、所得税の最高税率引き上げ、法人税増税、株式売買など金融取引税増税、金融規制強化(グラス・スティーガル法復活)を公約に掲げています。その実現性は別にして、「反大企業・反富裕層」と呼ばれる社会主義的政策を打ち出すサンダース候補など左派候補者の優勢は「株式市場の弱気(下げ)要因」とされます。

「革命的な格差是正」を熱狂的に支持する若者層は別にして、11月本選挙の行方を握るとされる中道層、保守層、高齢者層からの支持は得にくいとされ、「11月本選挙でトランプ大統領に勝てる可能性は低い」とみられていました。図表4は、大統領選挙における共和党・民主党別候補者(いまだ未決定)の予想当選確率の推移を示したものです。

 米国株が堅調だった2月中旬までは共和党候補(8月の共和党大会でトランプ大統領が指名される見込み)の当選確率が上昇していましたが、株価下落、景気の行方、民主党候補者争いにおけるバイデン候補の優勢次第で「トランプ再選シナリオ」に黄色信号が灯る可能性はあります。バイデン候補は、女性(カマラ・ハリス元候補やエイミー・クロブシャー元候補)を副大統領候補として指名する可能性が報道されています。女性が副大統領に就任すれば米国史上初となります。

 また、黒人を中心とする有色人有権者にいまだ人気があるオバマ前大統領が、副大統領として8年支えたバイデン候補の応援に乗り出せば、民主党が「打倒トランプ」で一段と結集し勢いを増す可能性があります。

 一方、サンダース候補が象徴する左派と中道派の分断が民主党大会まで続く場合、11月本選挙で左派有権者が投票を棄権する事態も予想され、この場合は「トランプ再選シナリオ」が再浮上する見込みです。

「常軌を逸した大統領」と批判されるトランプ大統領と、「米国の政治に冷静さと安定を取り戻そう」と訴えるバイデン候補との対決は、「トランプ再選」をメインシナリオとして織り込んできた株式市場にとり要注目です。とは言っても、「バイデン新大統領」が誕生しても、その政策は穏健かつ中道的で、対中外交についてはトランプ政権よりも穏健な姿勢に変わるとの見方が有力です。

 バイデン候補が当選しても市場に与えるショックは一時的で、「サンダース新大統領誕生」による潜在的ショックと比較すれば限定的とも考えています。大統領選挙の動向は、今後の株価動向や景気見通しの変化が影響する可能性が高く、現時点でその行方を断言できません。ただ、新型ウイルスの感染拡大不安に続くリスク要因として、大統領選挙の行方も米国株式に与えるリスク要因として注視を怠れません。

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(香川 睦)

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