1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

ウォーレン・バフェット 株主への手紙2019(3)保険会社のビジネスモデル、電力事業の強み

トウシル / 2020年5月20日 5時0分

写真

ウォーレン・バフェット 株主への手紙2019(3)保険会社のビジネスモデル、電力事業の強み

 ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社の2019年度年次報告書の「株主への手紙」。3回目となる今回は、バークシャーの中核であり、成長し続ける損害保険事業と、風力発電への巨額投資で大きく成長したバークシャー・ハサウェイ・エネルギーについてお伝えします。
<<前回の記事を見る(1)内部留保が持つ力 (2)多様な事業

損害保険事業について

 1967年にナショナル・インデムニティ及びその姉妹会社であるナショナル・ファイア&マリンを8.6百万ドルで買収して以来、損害保険事業は当社の成長を牽引してきたエンジンです。今では、ナショナル・インデムニティは純資産ベースで世界最大の損害保険会社です。保険は確信度の高い事業であり、当社の契約履行能力は他社と比較になりません。

 損害保険事業に興味を持った理由は業界のビジネスモデルにあります。損害保険事業は保険料を前払いで受取り、保険金は後日支払います。極端な場合、アスベスト問題や深刻な労災などの為、保険金支払いが何年にも及ぶことがあります。

 このようにお金を先に受け取り、支払いが後になるビジネスモデルは、損害保険会社に潤沢な資金―我々が「フロート」と呼んでいるお金―をもたらします。この資金はいずれ他人の手に渡りますが、それまでの間、自分の利益のためにその資金を運用する機会を与えてもらえます。個々の保険契約自体は新規と解約による増減がありますが、保険会社が保有するフロートは保険料の規模に応じて比較的安定的に推移することが多いです。結果的に、我々の事業が拡大するとともにフロートも増加します。フロートが膨らんできた軌跡が以下の表になります。

 時としてフロートが減少することもあります。その場合でも、フロートの減少は非常に緩やかであり、多く見積もっても年間3%以上減少することはないでしょう。我々の保険の性格上、瞬間的もしくは短期的支払義務の動向によってフロートが甚大な影響を被ることは絶対にありません。この構造は巧みに設計されており、我々の保険事業が不平等なほどに強靭な財務力を誇る根幹となるものです。この強みが危うくなることは絶対にないでしょう。

 顧客が支払う保険料が損失なども含めた総費用を上回れば、我々の保険事業はフロートによって生み出される投資収益に保険引受利益を加えることができます。そのような保険引受利益が生まれるということは、無利息の資金を調達できているだけでなく、さらに良いことに、保有するだけでお金がもらえるということなのです。

 損害保険業界全体の話として、ここ何年にもわたりフロートの財務的価値は昔より大きく低下してしまいました。なぜなら損害保険会社ほぼ全てにおいて、標準的な投資戦略は正しくも高格付債券に大きく偏っているためです。従って、これら会社にとって金利変化は極めて重要であり、過去10年間債券マーケットは痛ましい程に低いリターンしか提供できませんでした。

 結果的に保険会社は年々苦しんでいきました。なぜなら、満期償還や発行体によるコール条項により「古い」投資ポートフォリオを、より低イールドの新投資先にリサイクルしていかなければならなかったためです。過去には保険会社は1ドルのフロートに対して、安全に5セント、6セント得ることができる時代がありましたが、今は2セント、3セントのみしか得ることができません(保険会社の事業がマイナス金利から抜け出せずにいる国に集中している場合は、さらに低くなります)。

 保険会社によっては売上低下を軽減する為に、より低格付けの債券や、より高いイールドを謳う「オルタナティブ」投資を行うかもしれません。しかし、これらはそういった投資の能力を持ち合わせていないほとんどの機関にとって、危険なゲーム・投資活動です。

 概して当社は他保険会社より、好ましい状況にあります。より重要なのは、他社とは比較にならない巨額資本、豊富な現金、非保険分野からの大きくかつ分散化された利益により、当社は全般的に業界他社より遥かに柔軟に投資が行えるということです。我々には多くの選択がある、ということは常に有利なことであり、時に大きな機会を我々に提供しています。

 その間、当社損害保険会社はすばらしい引受実績を上げました。税前損失が途方もない32億ドルとなった2017年を除き、当社は過去17年間の内16年間において保険引受利益を計上しています。過去17年間合計では、税前利益は275億ドルとなり、2019年は400百万ドルを計上しました。

 これは偶然ではありません。質の低い保険引受業がフロートの価値毀損につながることを肝に銘じている経営陣が、日々リスク評価に集中しているからです。全ての保険会社がこの点に言及しますが、なかなか実践されていないのが実情です。バークシャーでは、このことは宗教であり、言わば旧約聖書のような扱いになっています。

 私が過去に繰り返し言ってきたことですが、この幸運な結果が当たり前のようにもたらされたものでは決してないことを改めて強調したいと思います。今後17年間の内16年間に保険引受利益を計上することは、ほぼ確実にないでしょう。危険は常に潜んでいます。

 保険業においてリスク評価を見誤ることは甚大な影響を及ぼします。また、表面化し具現化するまで長い年月(場合によっては数十年)かかることがあります(アスベストがいい例です)。ハリケーン・カトリーナやマイケル級の大きな災害は起きるはずで、明日に起きるのか数十年後に起きるのかわかりません。

「大災害」が、伝統的な災害であるハリケーンや地震かもしれませんし、もしくはサイバー攻撃など今の保険会社の想定を大きく超えるような破壊的な結果を招くものかもしれません。このような大災害が発生した場合、我々も損害の一部を負担するでしょうし、損害金額はとても大きいものになるでしょう。しかし、他保険会社と異なり、その損失処理は当社リソースに大きな負担を強いるものではなく、我々は翌日には当社事業への追加投資を切望しているでしょう。

 ひととき目を閉じてダイナミックな損害保険会社が生まれるかもしれない場所を想像してみてください。ニューヨーク?ロンドン?シリコンバレー?

 ウィルクス・バリはどうでしょうか?

 2012年後半、当社保険事業の重要なマネージャーであるアジット・ジェインは、ペンシルバニア州の小さな町(ウィルクス・バリ)にあるガード・インシュランス・グループという極めて小さい会社を221百万ドル(当時のガードの純資産額に相当)で買収すると私に電話をかけてきました。また、彼はガードのCEOであったサイ・フォグエル(Sy Foguel)が当社のスターになるだろうと付け加えました。ガードとサイという名前を私は聞いたことがありませんでした。

 大当たり、そして大当たり。2019年、ガードの保険料収入は19億ドルとなり、2012年から379%増加し、また、上々の保険引受利益も計上しました。当社の一員になってから、サイは会社の新商品開発、米国内の新地域進出を担い、ガードのフロートを265%増加させました。

 1967年時点では、オマハが巨大損害保険会社の出発地になるとは考え辛かったものです。ウィルクス・バリも似たような驚きをもたらすかもしれません。

バークシャー・ハサウェイ・エネルギーについて

 バークシャー・ハサウェイ・エネルギー(BHE)は、当社グループ入りして20周年となります。アニバーサリーであることから、会社の今までの実績についてお伝えしたいと思います。

 まずは、電気料金のトピックから始めたいと思います。当社が2000年にBHEの76%持分買収を通じて電力事業に参入した時、アイオワ州の住民はキロワット・アワー(kWh)当たり平均8.8セント支払っていました。それ以降、電気料金価格上昇率は年間1%以下であり、さらには2028年までベース料率の価格上昇がないことを我々は約束しました。

 これとは対照的に、ほかの投資家が保有するアイオワ州大手電力会社は昨年BHEよりも61%高い料率を住民に請求していました。最近、その電力会社は料率の引き上げを行い、BHEとの差は70%に拡大しています。

 その電力会社と当社との間の桁外れに大きい料率差異の大部分は、当社風力発電における大きな成功によるものです。2021年には、BHEが保有・運営する風力タービンにより約25.2百万メガワット・アワー(MWh)の電力発電を予想しています。この電力は年間約24.6百万メガワット・アワー(MWh)を消費するアイオワ州の住民の需要を完全に満たせる量です。換言すれば、当社風力発電のみでアイオワ州が自給できるということです。

 比較は続きますが、その他社の電力会社の風力発電比率は10%に満たないのです。我々はほかの投資家が保有する電力会社(場所を問わず)で、2021年までに風力で自給できる会社を知りません。2000年当時BHEは主に農業関連の事業に電力の供給をしていましたが、現在5大顧客の内3社はハイテク大手です。彼等がアイオワ州に工場を建設した決断の背景には、一部にはBHEの低価格な再生可能エネルギー供給能力があったものと考えています。

 もちろん、風は断続的であり、アイオワ州にある我々のプロペラはある時間のみしか回転しません。風がない時は、我々の風力以外の発電キャパシティを用いて必要電力を確保します。これと反対の時には、「グリッド」と呼ばれる設備を通じて、余剰風力電力を他電力会社に販売します。我々が彼等に売る電力は、彼等のカーボン資源需要(例えば、石炭や天然ガス)を置き換えるものです。

 ウオルター・スコット(ジュニア)とグレッグ・アベルとのパートナーシップにより、当社は現在BHEの91%の持分を保有しています。買収以降BHEは、当社に配当金を支払ったことがなく、これまでで合計280億ドルの利益を留保しました。このやり方は、電力会社の世界では異例なものです。なぜなら、一般的に電力会社は大きな配当金を支払う(場合によっては、利益の80%かそれ以上)からです。我々は事業への再投資ができればできるほど、好ましいという見方を持っています。

 現在、BHEには1,000億ドル超の投資が必要な巨大発電プロジェクトを、管理できる人材と経験があります。この様なプロジェクトは、インフラ整備を通じて我々の国、我々のコミュニティ、そして我々の株主に資するものになり得ます。我々はこのような機会を手にする意欲と能力があり、準備ができています。

 次回は、保有している投資先と現在の株式市場への見方、そして、バフェット氏の亡き後についてお伝えします。

ウォーレン・バフェット 株主への手紙2019(4)バフェットの遺言>>

<<前回の記事を見る
(1)内部留保が持つ力
(2)多様な事業

(農林中金バリューインベストメンツ)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください