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米ナスダック最高値更新と反落リスク。トランプ大統領の再選失敗は要警戒?

トウシル / 2020年6月12日 7時40分

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米ナスダック最高値更新と反落リスク。トランプ大統領の再選失敗は要警戒?

ナスダック主力株の最高値更新が牽引する米国株高

 米国市場では、GAFAM(またはFAANG)と呼ばれる大手IT関連株が主力であるナスダック100指数が5日から、ナスダック総合指数が8日から連日で最高値を更新しました(10日)。図表1は、日米市場の時価総額加重平均指数であるTOPIX、S&P500指数、ナスダック100指数の推移を示したものです。

 S&P500指数が最高値圏に反発したことがTOPIXの下値切り上げに寄与してきたことがわかります。そしてS&P500指数と主力銘柄が多く重なるナスダック100指数(ナスダックで時価総額が大きい非金融銘柄100社で構成される)の最高値更新が米国株式の戻りを牽引している状況がわかります。

 日経平均やダウ平均など株価単純平均指数は一部値がさ株の振れに左右されやすく、時価総額加重平均指数の方が市場全体のトレンド(趨勢)を正しく示すとされます。大胆かつ大規模な金融緩和と財政出動による「過剰流動性」と先行きの景気回復期待(ロックダウン解除後の景気回復見通し)が株価反発の原動力となっています。

 FRB(米連邦準備制度理事会)は9-10日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)で「政策金利を2022年までゼロ付近で維持する」との見通しを表明。パウエルFRB議長は直後の記者会見で「YCC(債券利回り抑制)も検討中である」と述べてハト派的な姿勢を示唆しました。

 とはいえ、日本でも米国でも株価上昇のペースに警戒感は根強く、利益確定や戻り売りによる反落やスピード調整への移行も警戒したいと思います。

<図表1>ナスダックの主力株が牽引して米国株式は最高値圏で推移
 

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2015年末~2020年6月11日)

ワシントン情勢の不透明感が潜在的なリスク要因に

 ただ、上記したウォール・ストリート(金融市場)でのコンセンサス(期待)とメイン・ストリート(実体経済)の現実が乖離しているとの指摘もあります。5日に発表された米・雇用統計(5月分)で失業率はやや低下した(14.7%→13.3%)ものの、黒人の失業率は上昇しました(16.7%→16.8%)。

 こうしたなか、米中西部ミネソタ州ミネアポリスで5月25日に発生した白人警官による黒人男性暴行死事件を発端とした抗議デモが拡大しています。このデモは従来からあったBLM(Black Lives Matter)と呼ばれる「人種差別反対運動」と結びつき一部が暴徒化。トランプ大統領が連邦軍の出動を示唆する強硬姿勢を表明したことに抗議デモの反発が強まっています。

 白人の若者もデモに参加し、「経済格差や人種差別に向き合おうとしない大統領」への不満で抗議デモが「反トランプ色」を濃くしています。

 大統領の姿勢には共和党(与党)内からも反発が出ており、マティス前国防長官、ブッシュ元大統領、パウエル元国務長官、ロムニー上院議員などが大統領を批判。再選を支持しない(あるいは民主党候補に投票する)との意向を表明しています。

 図表2は、11月3日に実施される大統領選挙について、世論調査平均にもとづく直近の「支持率」と「当選予想確率」を1カ月前の水準と比較した一覧です。トランプ大統領は劣勢に立たされており、民主党大会(8月17日の週)で大統領候補指名が確実視されているバイデン候補(元副大統領)が優勢となっています。

 コロナ危機に対する初動の遅れ、失業率上昇、人種差別反対デモへの対応失敗(支持基盤である白人保守層を意識し過ぎた強硬姿勢)が影響しているとされます。

<図表2>「トランプ大統領の再選失敗」が視野に入ってきた?

*指名予定=共和党も民主党も8月の党大会で大統領候補者を指名する見込み *支持率(全米平均)=Real Clear Politics集計による全米世論調査平均 *当選予想確率=U.S.PredictIt試算による当選予想確率(Implied Probability) 出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年6月10日)

民主党の副大統領候補が鍵?

 とは言っても、バイデン候補は高齢(77歳)で、9月以降に3回予定されている大統領候補者TV討論会でトランプ大統領(74歳)の迫力や攻撃に押されやすいとの観測もあります。

 一方、バイデン候補は「副大統領候補に女性を指名する」との公約を表明して注目されています。民主党とバイデン候補は現在、共和党陣営(トランプ大統領+ペンス副大統領)に勝てる可能性を高めるべく「ランニング・メイト(副大統領候補者)選定プロジェクト」を進めているとされています。

 図表3は、バイデン民主党陣営で副大統領候補に指名される予想確率が高い順に5名のみを示したグラフです(予想確率の降順)。

 当初から大統領候補に名乗りを上げ候補者TV討論会で注目されたカマラ・ハリス上院議員(前カリフォルニア州司法長官:指名予想確率44%)をはじめ、第2位のバル・デミングス下院議員(前フロリダ州オーランド市警察庁長官:18%)など上位5名中4名が「非白人女性」となっています。

<図表3>民主党の副大統領候補は非白人女性が指名される?

出所:U.S. PredictItの指名予想確率より楽天証券経済研究所作成(2020年6月10日)

 バイデン民主党陣営が副大統領候補に「非白人女性」を指名することになれば、「性別や肌の色を超えたダイバーシティ(多様性)重視」を有権者に訴求するとみられ、バイデン候補の優勢を後押しすることになりそうです。

 なお、選挙前には米国民に人気が高いミシェル・オバマ(オバマ元大統領のファーストレディーで著作が全米で1000万部超の販売を記録)が民主党候補の応援演説会に登壇するとみられ、「私の夫(米国初の黒人大統領)を8年間支えてくれたバイデン氏当選と女性初の副大統領を実現させ、人種間や社会の対立を融和させる政治を誕生させましょう」などと訴えるとみられます(オバマ元大統領はすでにバイデン候補支持を表明しています)。

 今後の景気動向、新型ウイルスの感染(第2波)動向、市民デモの行方とトランプ政権の対応次第で選挙動向も変化する可能性がありますが、「トランプ大統領再選」が危ういことがさらに鮮明になれば、「共和党政権の継続」をメインシナリオに据えてきた投資家の動揺(ワシントン情勢の不透明感)を誘い、米国株式やドル相場の乱高下を介して日本株式も影響を受けやすい状況となるでしょう。

「バイデン大統領誕生」は市場に凶なのか吉なのか

 大統領選挙と同時に下院と上院の議会選挙が実施され、下院は全議席(435議席)改選、上院は100議席のうち3分の1(33議席)が改選されます。これにより上下両院議会の勢力図も変化する可能性があります。

 選挙結果次第ではホワイトハウスに加え、民主党が下院と上院の過半を抑える「トリプル・ブルー」(民主党の党色は青)が誕生するとの観測もあります。

 この場合、バイデン新大統領は来年1月に就任早々、トランプ大統領がことごとく否定してきたオバマ政権下の政策を復活させる取り組みを始めるでしょう。

 内政面では、コロナ危機の犠牲者の多くが無保険だった(高額治療費が払えず病院に行けなかった)低所得者やマイノリティの現状を踏まえ、オバマケア(医療保険制度改革)の拡充を目指すでしょう。

 外交面ではトランプ大統領が離脱した(オバマ政権の外交政策だった)パリ協定、TPP、イラン核合意に「復帰あるいは交渉再開」に転じる可能性が高いと考えられます。

 特に、「格差の是正」を目指す民主党内の左派系リベラルの意向を受け「大きな政府(財源)」を目指す民主党政権が法人税率、金融取引税(キャピタルゲイン税)率、所得税の最高税率を引き上げ、富裕層資産課税の導入を検討するなど「反・大企業」、「反・ウォール街」、「反・富裕層」と呼ばれる政策が視野に入ってくる可能性もありそうです(図表4)。

<図表4>トランンプ大統領とバイデン候補の政策比較<概略>

*上記は参考情報であり将来の政策実現を保証するものではありません。 出所:各種情報・報道より楽天証券経済研究所作成(2020年6月時点)

 一方、オバマ政権下で「親中派」と称されたバイデン候補が、トランプ大統領や議会が強硬姿勢を示してきた対中政策でどの程度「対決より交渉(対話)」に転じるかも注目されます。

 米国内の抗議デモへの対応や大統領選挙を前にして株価や景気への影響を配慮して「本格的な対中強硬策」を控えている印象のあるトランプ大統領が、再選に成功したとたんに(2期目は選挙を気にする必要はない)IT分野での覇権争い、香港・人権問題、安全保障(地政学的な対峙)の面で対中強硬姿勢を強めていく可能性が指摘されています。

 トランプ大統領が最近の劣勢を埋めるため、集票を目的とした「なりふりかまわない」景気政策や外交政策を打ち出してくる可能性もあります。

 夏から秋の米国市場は、トランプ落選(バイデン新大統領誕生)とトランプ再選のどちらが「経済成長と民主主義進展のバランス面」でベターなのかを決める有権者の選択を見守る神経質な展開となりそうです。

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(香川 睦)

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