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借金経済とコロナ税:日本国債の格下げ、財政不安って何?

トウシル / 2020年7月3日 16時0分

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借金経済とコロナ税:日本国債の格下げ、財政不安って何?

 いまだ、収束の目途が立たない新型コロナウイルス。世界中の政府・中央銀行が積極的な財政政策、金融政策をとっていますが、いずれ訪れる「正常化」の後に、何が起きるのか。最近の政府要人の発言などを踏まえながら、少し先のことを考えてみましょう。

「コロナ税」はある?

 まずは気になる日本の財政から。第1次補正予算(25.7兆円)、第2次補正予算(31.9兆円)を合わせた2020年度の一般会計の歳出総額は160.3兆円。税収の下振れと歳出の増加から公債依存度も上昇し、リーマン・ショックを受けた2009年度を超える56.3%に及びます。

 第2次補正予算には予備費の10兆円が含まれていますし、他の予算も全て執行されるとは限りませんが、空前の財政支出であることには変わりありません。当然のことながら、「こんなに借金をして大丈夫なのか?」という疑問が湧いてきます。

 現在の日本の金融制度を前提にすると、国債を日本銀行が政府から直接購入することはできないので、まずはプライマリー・ディーラー(国債市場特別参加者)と呼ばれる市中金融機関が国債を購入してくれなければ、政府は借金もできないということになります。

 日銀がYCC(イールドカーブ・コントロール:長短金利の調整)を導入していることもあって、今のところ、国債価格は安定していますが、国債市場全体が日銀が市場から国債を購入してくれることを前提とした取引になっています。

 6月29日には新発10年物国債(358回債)で業者間売買を仲介する日本相互証券で一日を通して取引が成立しませんでした。翌30日に日銀の国債買い入れオペの月間予定が公表されるため、市場参加者が様子見を決め込んだようです。

 国債の金利はほぼゼロなので、金融機関が購入する理由としては、

(1)日銀相手に売ることでわずかな鞘取りをする
(2)国債を担保として求められる取引(例えば、日銀のドル供給オペ)があるので最低限の残高を維持するために購入する
(3)投資信託の裏付け資産として購入する

 といったことが挙げられます。

格下げされた日本国債。外資の目は厳しくなる?

 日銀が国債を購入してくれる限り、国債価格は安定するように思えますが、事はそう簡単でもありません。

 現在、プライマリー・ディーラーの約半数が外資系金融機関。外資はとりわけ債券を購入する際の格付けを重視しますので、日本国債の格付けが投機的水準まで格下げされた際には、プライマリーでの購入が難しくなります。

 6月9日には、大手格付け会社のS&Pグローバル・レーティングが日本国債の格付け見通しを下方修正し、A+(安定的)としました。投機的水準であるBB格まではまだ余裕があるものの、国債は金融機関の資産で相応のボリュームを占めますし、金融システム・決済システムにとって、重要な金融商品。その国債が引き下げられると、国内の金融機関の格付けにも悪影響があります。

 信用力が低い金融機関は外貨を調達する際にプレミアムを課せられたり、デリバティブなどの取引に参加できなくなったりと不利益を被ります。こうしたコストの上昇は、一般企業や個人にも転嫁されるので、総じて金融取引が割高になりかねません。

日本政府に迫られる財政再建と経済維持の両立

 政府側も国債の格付け低下リスクを意識して、安倍晋三首相、麻生太郎財務相ともに、プライマリーバランス(国の財政収支)の黒字化目標を直ちに見直すことは考えていない、財政再建スタンスは維持する旨の発言をしています。

 経済が成長して税収が増加することが理想ですが、税率が一定であれば、GDP(国内総生産)が1%増加したときの税収の伸び(税収弾性値)は、1を若干上回る程度。経済成長だけに期待した税収の増加では、コロナ前ですら崩れていた歳出超過の構造を改善することはできません。

 これまでの経緯を踏まえると、そもそもプライマリー・ディーラー制度が導入されたのは、国債の入札不調がきっかけ。金融機関の収益は長らく続く低金利で悪化しているので、今さら、昔の入札制度には戻せません。

消費税増税論が再起動するのは、いつ?

 また、税制については、トーゴーサン、クロヨンなどと言われた課税所得の捕捉率の問題、税負担の不公平から消費税が導入され、拡大してきた経緯があります。高齢者を支えるといっても、これ以上の社会保険料負担を現役世代に課すのは困難。

 こうした事情を踏まえると、新型コロナが収束して、経済が正常な軌道に乗ったタイミングで、消費税増税の議論が始まると予想されます(既定路線に戻るだけという見方もできます)。

 東日本大震災の際は復興税という形で時限つきでしたが、当時よりも、少子高齢化も進んでいますし、政府債務は悪化、格付けも低下しているので、(どのような名目になるかは分かりませんが)「コロナ税」については、恒常化するでしょう。

日本銀行は引き続き身動きとれず?

 これまでは主に財政・政府側を見てきましたが、経済政策のもう片方の柱になる金融政策はどうなるのでしょうか。こちらについては、端的に言えば、当分の間、身動きがとれない状態が続くと考えられます。

 こう考えるにはさまざまな理由がありますが、

(1)国債の安定消化の前提として日銀によるYCCがあること
(2)金利を上昇させようにも、日銀当座預金の残高が巨額に膨らんでいるので、金融機関が金融資産を購入する原資が有り余っていて金利が上がりにくいこと
(3)もし、金利を上げようとするのであれば、日銀当座預金に付利をして、金利水準全体を底上げする必要がありますが、その際は、日銀の支出が増えて、日銀が債務超過になりかねないこと

 が挙げられます。

 また、政府との共同声明で、「物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%」としています。政府との共同声明がどのような位置づけになるのかは意見が分かれるところがありますが、政府と日銀の契約であって、日銀単独では反故(ほご)にできないと解釈されることが一般的でしょう。

 このため、2%目標を達成するか、新たな共同声明を発表しない限り、緩和的な状態が続くことになります。

金融緩和と低金利は、まだまだ続く?

 共同声明には、「日本銀行は、上記の物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す。その際、日本銀行は、金融政策の効果波及には相応の時間を要することを踏まえ、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、経済の持続的な成長を確保する観点から、問題が生じていないかどうかを確認していく。」と、記されていて、緩和的な状態が続くことによる弊害があり得ることを意識した文言が盛り込まれています。

 しかし、コロナ・ショック前に低金利で金融機関の収益が圧迫されていたときに政策変更がなかったことからも、緩和からの脱却が難しいことが分かります。

 近年の金融システムレポートなどを読むと、金利収入に頼らず、手数料収入を拡大するよう促していますので、低金利による金融機関経営への影響を理由に政策変更することはないように思えます。

政策変更は早すぎても遅すぎてもダメ

 さて、これまでは日本の財政政策・金融政策の今後を占ってきました。ここで海外に目を向けると、新型コロナウイルス収束後の最大の「かく乱要因」は何と言っても、米国の動向。特に、金融政策については、リーマン・ショックの反省もあって、極めて緩和的な政策をとっています。

 米国の経済成長率から考えれば、米国債10年物の金利が1%を大きく割り込む現在の金利水準は異常と言えます(国債10年物の金利は名目経済成長率を上回ることが多いです)。

 6月に公表された、IMF(国際通貨基金)の「World Economic Outlook Report(世界経済見通し)」の副題は「A Crisis Like No Other, An Uncertain Recovery(他に類を見ない危機、不確実な回復)」。財政状況の悪い新興国も多く、米国の金融政策が正常化する時期・ペース次第では、米国へのキャピタルフライトによる新興国の金融不安定化という事態もあり得ます。

経済と乖離した株価上昇。いつかくる金融緩和の正常化でどうなる?

 その一方、低すぎる金利による弊害もあり、資産価格の高騰が生じやすくなります。既に、IMFは6月25日に公表した「Global Financial Stability Report(国際金融安定性報告書)」で、日米などの株価上昇について、「実体経済と乖離(かいり)して、割高感がある」と指摘しています。

 株価上昇の背景には、金融緩和による流動性の供給や債券の金利が低いこと、また、各国政府による給付金が消費ではなく、貯蓄に回っている部分があることなど、さまざまな要因が考えられますが、理由は何であれ、株価が高過ぎるとすれば調整局面が訪れることになります。

 いずれ来る正常化の局面。遅すぎても早すぎてもリスクが高まる中で、これまで以上に国内外の経済政策を把握する必要があります。

(鈴木 卓実)

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