1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

ドル安が世界を変える?吉か凶か?円・ユーロ・豪ドルの道のり

トウシル / 2020年8月7日 5時10分

写真

ドル安が世界を変える?吉か凶か?円・ユーロ・豪ドルの道のり

 ドル相場が軟調です。7月に米国株がもたつき、ドルが安くなると、米国の経済回復の先行き不安、新型コロナウイルスの感染再燃、米大統領選挙の不透明感、米中対立などが取り沙汰されました。しかし、ドル安は、コロナ禍で資金繰りに窮した世界にドルがきちんと供給されたことを窺(うかが)わせます。そして、米国株にも、新興国にも、資源など商品相場にもプラスに作用します。果たしてドル安は、世界に吉兆か凶兆か、このまま進むのか、を考えます。

ドル軟調はトレンドか

 ドルは、新型コロナウイルス(以下、コロナ)ショックに見舞われた2~3月に急伸しました。金融機関、企業、投資家、さらに国家レベルでも、資金繰り懸念から基軸通貨ドルへの需要が強まり、経常赤字(債務)の新興国、相場急落の資源の輸出国の通貨の下落が顕著でした(図表1)。その後4~6月には、欧米経済が再開され、株式相場に続いて、新興国・資源国通貨も反発しました。ただしコロナ感染が続く7月には、これら通貨の多くが回復を足踏みさせています。ところがドルの軟調は続きました。その背景ではユーロと豪ドルの堅調が指摘されます(図表2)。つられるように円も上昇動意を見せました。その背景事情は後段で確認します。

図表1:主要通貨の対ドル騰落率(2020年3期間別)

出所:Bloomberg Finance L.P.

図表2:ユーロ・豪ドル・円の対ドル推移(2020年)

出所:Bloomberg Finance L.P.

 悩ましいのは、ドルが売られたとなると、米国経済の先行き不安、コロナ感染再燃、米大統領選挙、米中対立などなど、とかく米国に悲観的な材料が強調されがちなことです。しかし、ドル安は、米国の経済、株価にはプラス、新興国のドル債務の重圧を緩和し、ドル建て取引の商品相場をサポートします。

 私は、中長期的に米国経済の改善過程でドルが下落し、これらポジティブな作用が連鎖するシナリオを想定しています。ただし現状は、その萌芽(ほうが)ではあるものの、トレンドとして見るのは時期尚早との判断です。経済は大底からの反発途上です。しかし秋には、回復7割経済の重さ、米大統領選挙、北半球秋冬のコロナ感染不安などのリスクを、株式の期待主導の金融相場がすんなり乗り越えられるか、警戒心を拭えません。秋の波乱シナリオは相応に可能性が高いと考えています。それが現実になれば、新興国や資源国の通貨は反落してドルは反発、ユーロも盤石とは思えません。

ユーロ高はトレンドか

 7月以降のドル安はユーロ高に促された面があります。図表3は、2020年のドル相場を主要通貨の全体、主要先進国、主要新興国に対する3種のドル指数(貿易加重平均した総合為替レート)と対ユーロのドル相場を比較したものです。ドル指数における比重の大きいユーロが上伸し、対主要先進国のドル指数が大きく下落した一方、先行き不安が根強い新興国通貨に対する下落は限定的なのが分かるでしょう。

図表3:ドル指数3種とドル/ユーロ

出所:Bloomberg Finance L.P.

 ユーロ反発の背景には、欧州のコロナ感染第1波が早めに落ち着いたこと、経済指標の反発が予想より強いこと、そして何より、ユーロ圏初と言うべき共同財政政策「復興基金」が実現に向かったことが指摘されます。

 ユーロの弱点は、経済が苦境に直面した時、有効な政策を打てなかったことです。ユーロ圏は経済状況の異なる国々が混在する集合体です。ところが、ECB(欧州中央銀行)に一本化された金融政策、ユーロという単一為替相場の下で、経済の良い国と悪い国の調整が利きません。苦境の国が財政運営で行き詰まると、ユーロ圏共同の財政政策もなく、打つ手がありません。

 実は、コロナ禍という危急の事態が、ユーロ圏政策の自縄自縛を解く後押しになりました。ECBは政策総動員の緩和措置に踏み出しましたが、需要不足には財政政策が不可欠です。そこで、90兆円規模の復興基金を創設し、ユーロ圏全体として高信用の債券を低金利で発行し、苦しむ南欧諸国に補助金や融資として使うことになりました(図表4)。

図表4:ユーロ圏4カ国国債金利 南欧債にも買い

出所:Bloomberg Finance L.P.

 ユーロは、2016年以降、弱い景気、超金融緩和を背景に下落し続け、市場にショート(売り持ち)が積み上がりました。今回その巻き戻しに始まり、一段高へ弾みが付いています。機関投資家によるユーロ資産のリバランス買いもあると推察されます。

 ただし、ユーロ圏の経済、政策が米国対比で優位とは言えません。また、復興基金も恒久措置ではありません。秋の波乱シナリオが現実になれば、ユーロ圏はまた政策発動でスッタモンダしそうです。目先はともかく、ユーロ堅調をトレンドとして強調できません。

豪ドル高はトレンドか

 7月以降のドル軟調では、ユーロと共に、豪ドルの上昇も指摘されるところです(図表2)。資源など一次産品輸出国の通貨として、コロナ禍ではまず劇的に下落しました。その後、最大輸出先である中国のコロナ克服と経済再稼働、資源など一次産品相場の持ち直しなどで、豪ドルも反発しました(図表5)。さらに、米金利急低下による豪債券利回りの妙味が増し、豪ドルの一段高につながっています(図表6)。機関投資家がとかくドル資産に集中しがちだった投資の分散先を必要としていると推察されます。

図表5:豪ドル/ドルとCRB指数

出所:Bloomberg Finance L.P.

図表6:豪米10年国債金利差と豪ドル/ドル

出所:Bloomberg Finance L.P.

 ただし、蓋然(がいぜん)性が十分高いと考える秋の波乱相場シナリオが現実になる場合、豪ドルには資源輸出国としての脆弱(ぜいじゃく)さがまた現れるでしょう。中国経済すらも回復が盤石と言えない状況で、豪ドルの上昇をトレンドとして扱うことには依然として慎重です。

「リスクオンでドル安」への期待

 昨今のドル安は米国に悲観的な材料によるものとは見ていません。基本背景として、頭に入れておきたいのは米実質金利の低さです(図表7)。実質金利は、通常目にしている名目金利から期待インフレ率を引いた差です。FRB(米連邦準備制度理事会)の積極緩和を受けて米長短金利が0%近くへ低下した一方、米国経済の基礎体温としての期待インフレ率は相対的に高く、実質金利は大幅マイナスになっています。経済・金融情勢が好転すると、実質マイナス金利のドルがより高利回りを求めて海外にも流出しやすくなるため、ドル安になりがちです。2021~2022年には、この情勢改善によるドル安が生じ、株式、新興国、資源の相場にプラスに作用する「リスクオンでドル安」の好循環を期待しています。

図表7:米実質金利とドル/円

出所:Bloomberg Finance L.P.

 足元のドル軟調は、この中長期的に明るい展開の萌芽ではあるでしょう。経済再始動に伴う指標の急反発、空前の金融緩和に促された株価急上昇で、回復感が誇張された面はあるものの、情勢改善で米実質金利が下がり、ドル安になる流れを垣間見せています。

 そして、2大通貨のユーロ、世界需要敏感通貨の豪ドルの側がしっかりすることが、来るドル安の受け皿となり、「リスクオンでドル安」の好循環を促す助けになる面も重要です。懸念はその前段階、来る秋の波乱リスクで、豪ドルはもちろん、ユーロも振り落とされる場面がありえます。しかし、中長期でポジティブな展望がある限り、下げ相場は買いの好機。リスクオフの最中には、次の光明にもっぱら目を向けます。

悩ましいのは円高リスク

 秋の波乱から中長期ポジティブという基本観の中で、日本の投資家が警戒すべきは円高リスクです。図表7では、米実質金利の低下が円高圧力を醸し出していることが読み取れます。秋の「リスクオフで円高」ばかりでなく、2021~2022年に想定する「リスクオンでドル安」過程の円高までリスクは続くとみています。

 円高は日本の経済、株価を圧迫するでしょう。巨大プラットフォーマーが資金の受け皿となる米ナスダック指数の軌道と比べて、コロナ・テーマの中小型株が牽引(けんいん)した東証マザーズ指数には重さが感じられることも、円高のインパクトが意識されます(図表8)。

 もっとも、昔のような「リスクオフで円高」が急激に深まる需給構造ではなくなっています。貿易黒字は減り、輸出企業のドル売りが殺到することもなくなっています。経常黒字を海外還流させる主役は企業などの海外直接投資、年金基金の証券投資となり、どちらも円高リスクに慌てて自ら円高を促すような取引をもたらすことはほぼありません。私のドル/円の予想水準は、2020年末100円、2021年中95円と、過去のリスクオフ場面と比べて控えめな変動幅のまま変更ありません。

 円高とその影響への警戒は怠れませんが、私の投資は、相場は暗い場面にこそ好機があるというアプローチです。明るい場面にこそ警戒し、投資に緩急をつけるだけのこと。ご一緒に定点観測を念入りに、相場をフォローしてまいりましょう。

図表8:米国株対比で日本株の重さに警戒

出所:Bloomberg Finance L.P.

※8月21日(金)は休載いたします。次回のレポートは9月4日(金)を予定しております。 

(田中泰輔)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください