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「台湾侵攻」中国の本気度は?絶対押さえておきたいチャイナリスク

トウシル / 2021年1月7日 6時0分

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「台湾侵攻」中国の本気度は?絶対押さえておきたいチャイナリスク

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]「台湾侵攻」中国の本気度は?絶対押さえておきたいチャイナリスク
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2021年、中国は台湾に侵攻するか?

 皆さん、新年あけましておめでとうございます。2021年もよろしくお願いいたします。

 本年の中国は「中国共産党結党百周年」という政治の季節に向き合います。前年に勝るとも劣らぬ話題性、そしてマーケットへの影響が不可避でしょう。本レポートでもそれらの模様を可能な限りお届けしていきたいと思っています。活発な議論をしてまいりましょう。

 今回は、私が日ごろ、東京、香港、ニューヨーク、ロンドン、シンガポールなどを拠点とし、中国を含めたアジアを観察、担当する機関投資家の方々と議論をする中で、最も頻繁かつ切実に聞かれる問題です。新年1本目で重過ぎるテーマになってしまうかもしれないと迷いましたが、あえて攻めます。

「加藤さん、中国は本当に台湾へ侵攻するのですか?」

 なるほど。巨額の資金運用を任されている機関投資家がただならぬ関心を持つのも無理はありません。仮に、中国共産党が人民解放軍を投入し、何らかの形で台湾に対して武力行使をすれば、その結果がどのようなものになろうと、マーケットへの影響は壊滅的なものになるでしょう。単純比較はできませんが、大地震、洪水といった自然災害、リーマン・ショックのような金融危機とは比べものにならない、異なる次元の打撃となるのは間違いありません。世界的な株価大暴落は必至の結末となるでしょう。

 私は、あらゆる中国動向の中で、台湾問題こそ、最大のチャイナリスクだと見ています。

日本経済を支える中国

 実際に、近年、中国の動向がマーケットに及ぼす影響は日増しに深まっています。中国の経済成長率、消費、貿易、投資といった領域の統計そのものが(統計の信ぴょう性を含め)、グローバルマーケットを翻弄(ほんろう)する時代です。日経平均株価にも直接的な影響を与えます。

 安倍前政権で戦略的に推進された外国人観光客の誘致が良い例でしょう。しばしばインバウンド事業と称されますが、内需拡大、国際化、成長戦略という意味でも、少子高齢化が進む日本経済にとっては重要な支柱になり得る分野です。

 日本政府観光局によると、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年、訪日外国人数は、前年比2.2%増の3,188万人で過去最多を更新しましたが(旅行消費額は約4兆8,000億円)、うち中国からの訪問者は14.5%増の959万人(2位韓国:558万人、3位台湾:489万人、4位香港:229万人)、ダントツで1位です。

 仮に、中国で経済危機が起こり失業者であふれたり、日中関係が悪化し、中国人の反日感情が高まったり、あるいは、昨年のように新型コロナで国境が“封鎖”されたりして、「最大顧客」である中国からの訪日観光客が激減すれば、日本経済、マーケットへの影響は決して軽視できません。

 また、日本の外務省が在外公館などを通じて実施した「海外進出日系企業実態調査」によれば、2017年10月1日時点で、中国に進出している日本企業の総数(拠点数)は3万2,349拠点で、次いで2位は米国の8,606拠点、3位はインドの4,805拠点、4位はタイの3,925拠点、5位はインドネシアの1,911拠点、6位はベトナムの1,816拠点と、大きく引き離しています。

 私がここで強く主張したいのは、政治、経済、社会、外交、軍事、そして新型コロナといった感染症への対策を含め、中国動向が日本の、あるいは日本を取り巻くマーケットへ及ぼす影響は、今後、深まることはあってもその逆はない、従って、常にその動向を注視、分析し、買うにせよ、売るにせよ、必要な準備を怠るべきではないということです。

「台湾侵攻」は中国のデメリットになる

 中国動向の重要性を再確認した上で、本題に戻ります。

 昨年末、東京を拠点に長年中国市場を見てきたベテラン投資家からも、前出の質問を受けました。

 彼は、中国共産党が台湾へ侵攻するメリットはなく、仮にそれをした場合に、中国自身が失う利益や信用は計りしれない、それよりも、「現状維持」を先延ばしにし、中国自身が真の意味で国際社会、そして台湾から尊敬される国になることを通じて、将来のある時点で、双方が何らかの形で一緒になるのが得策だという分析をしていました。

 全く同感です。そうあるべきです。

 中国の株式市場に投資をしている彼の立場からすれば、仮に中国が本当に台湾へ侵攻してしまえば、それは困るどころの話ではありません。

 中華圏で唯一民主主義を制度的に実現した台湾を、自らの政治的目標のために、流血を伴う武力で統一しようとする中国(共産党)の国際的信用は地に落ちます。西側諸国を中心に、各国は中国への制裁措置を取るのが必至です。日本も蚊帳の外にはいられないでしょう。中国はすでに世界第2の経済大国、最大の貿易国になっており、制裁がもたらすインパクトは、1989年時の天安門事件後とは比べものにならないでしょう。波及度も予測できません。

 国家安全法を強行採択し、「一国二制度」が有名無実化しつつある香港の状況を顧みれば、中国共産党が武力統一を正当化する手段として挙げる根拠が説得力を持つことはないでしょう。中国という14億人のマーケットが、「世界の工場」としても、「世界の市場」としても、少なくとも短期的には機能不全に陥り、米国の政策に依拠するまでもなく、中国経済と世界経済が真の意味でディカップリング(切り離し)されるのです。その後、中国に拠点を持つ3万以上の日本企業、中国でモノを売ったり、原材料を調達したりしてきた関連企業が、拠点や資本の撤収、オルタナティブの模索に悪戦苦闘する光景は想像に難くありません。

 ベテラン投資家の彼が所属する会社が巨額の損失を計上するのは必至で、上司からは「なぜそんな危険な市場へ投資をしていたのだ!」と激怒され、彼自身の立場も悪くなり、真剣に身の振り方を考えざるを得なくなるでしょう。

中国の「台湾侵攻」の本気度:キーワードは「核心的利益」

 そのような悪夢は実際に起こり得るのでしょうか?

 私の彼の問題提起への回答でもありましたが、実際に、起こり得ます。

 その背景、根拠、理由ですが、大きく分けて三つあります。

 一つ目に、「核心的利益」という中国共産党が定める国益にまつわるものです。

 2011年9月、中国共産党は「中国の平和的発展」と題した白書を発表し、その中で「核心的利益」について次のような定義を下しています。

中国は断固として国家の核心的利益を守っていく。中国の核心的利益には、国家の主権、国家の安全、領土の保全、国家の統一、中国の憲法が確立した国家の政治制度と社会の大局安定、経済社会の持続可能な発展の基本的保障が含まれる

 この定義に対して、私が近年与えてきた解釈は、中国の核心的利益とは、仮にそれらの利益が何らかの勢力によって、何らかの形式で脅かされた場合、武力行使すら辞さない利益を指します。仮にその勢力が国内にいる場合は武力による鎮圧、海外からやってくる場合、戦争という手段に訴えてでも死守しようとする利益を意味します。

 そして、私の解釈によれば、中国が定める核心的利益は、地域的には、台湾、香港、新疆ウイグル、チベット、南シナ海、そして尖閣諸島を含めた東シナ海を含みます。制度的には、共産党が領導する中国の特色ある社会主義、が典型的です。仮に、この制度を転覆し得る勢力が、主権が及ぶ範囲内で現れたと党が主観的に判断すれば、党はその勢力や人物を問答無用に抑圧すべく動きます。例として、中国で初めてノーベル平和賞を受賞した人権活動家の故・劉暁波(リュウ・シャオボー)氏、香港の民主活動家・周庭(アグネス・チョウ)氏などは紛れもなくその対象です。

 台湾問題とは、まさに核心的利益の中のど真ん中、換言すれば、中国共産党が最も重視する、上記6つある定義のうち、国家の主権、国家の安全、領土の保全、国家の統一という四つが“直接的”に関わってくる利益です。これが、私が中国の台湾侵攻が「起こり得る」と推察する一つ目の背景です。

習近平総書記の思惑

 二つ目に、中国の最高指導者である習近平(シー・ジンピン)総書記(以下敬称略)による公式の主張です。約2年前、2019年1月2日、習近平は「台湾同胞に告げる書」40周年の談話を発表しました。中国の台湾政策を分析する上で核心的に重要な素材です。その中で、習近平は次のように主張しています。

「中国人は中国人と戦わない。我々は最大限の誠意を持って、平和的統一という前景を勝ち取りたい、平和的な方式を通じて統一を実現したいと思っている。それが両岸の同胞、全民族にとって最も有利な方法だからだ。しかし、我々は武力行使を放棄しない。すべての必要な措置を講じる選択肢を保留する。それらが標的とするのは、外部勢力による干渉であり、極少数の台湾独立分子による分裂的活動であり、台湾同胞に対するものでは絶対にない」

 主張は非常に明確です。中国共産党として、(1)平和的統一が最良だと考え、そのように動いていく、(2)武力行使は放棄しない、(3)台湾の独立は外部勢力との結託プロセスになると見積もっている、というものです。逆に言えば、台湾が外部勢力、特に米国、および米国と価値観や安全保障上の利益を共有する同盟国やパートナーと結託する、それらにあおられる形で独立を宣言する(昨年1月、蔡英文[ツァイ・インウェン]総統は英BBCのインタビューにて、「我々には、自分たちが独立主権国家だと宣言する必要性はない。我々はすでに独立主権国家であり、我々はこの国を中華民国、台湾と呼んでいる」と主張している)、あるいは独立的な動きを見せない限りは、武力行使には踏み切らないということです。

 とはいえ、習近平による「武力行使は放棄しない」という最新、公式、権威ある立場の主張は重大な意味を持ちます。これは台湾に対する単なる脅しでも、米国に対する外交辞令でも、世論に対する政治的迎合でもありません。れっきとした、綿密な戦略と計画を元に打ち出された、中国共産党・人民解放軍の台湾政策なのです。これが二つ目の根拠です。

「一つの中国」と「中華民国台湾」

 三つ目に、中国共産党、解放軍、そして国内世論内部における気運の変化です。端的に言えば、中国国内では、台湾における“台湾化”が内外の影響を受ける形で進んでおり、このまま放っておくと、台湾独立が既成事実化してしまうという懸念が急速にまん延しています。

 私自身、人民解放軍の関係者らと議論をしていると、「この期に及んで何を躊躇(ちゅうちょ)する必要があるのか? いま武力行使で統一しなければ、契機はますます遠のいてしまう」という思いがひしひしと伝わってきます。軍人が問題解決に軍事的手段を見出すのはどこの国でも同様でしょう。

 習近平率いる共産党は、政治、経済、外交などさまざまな分野、角度から、プラスマイナスを含め総合的に考慮、判断した上で決断するのは必至。故に、解放軍関係者の軍事的主張をうのみにするのは理性的ではないと私は考えます。解放軍はどこまでいっても共産党の軍なのです。

 仮に、中国が台湾に武力行使をした場合、それは「解放軍の暴走」などでは決してなく、「共産党の意思」によるものです。

 実際に、最近の台湾の動きを見ると、確かに“台湾化”を彷彿(ほうふつ)とさせる動向が見られます。中国側が特に気にしているのが、昨年5月20日、蔡英文氏が第15代総統就任演説にて、初めて「中華民国台湾」という表現を使用した事実です。これまで、公の場では「中華民国」、あるいは「台湾」と語ってきました。この新たな表記は、近年台湾内部で高まる、国号を「中華民国」から「台湾」へと変更する要望に応えたものだと理解できます。

 実際に、とりわけ香港での混乱を受けて、台湾人の「中国」への信用や好感は下がっており、香港人が香港人アイデンティティーを高める以上に、台湾人アイデンティティーを高め、あらゆる分野で中国とは一線を画す施策が試みられています。

 例えば昨年9月、台湾政府はパスポートの「TAIWAN」(台湾)の英語表記を大きくし、「REPUBLIC OF CHINA」(中華民国)を小さくするデザイン変更を発表しました。当局は、「台湾市民が中国国民と混同されるのを避けるため」と説明しています。

 これらの動向は、中国の党・政府・軍関係者だけでなく、知識人や一般市民の対台湾ナショナリズムを刺激しているようです。旧知の中国中央電視台(CCTV)の番組編成を担当する幹部は、「我々はどんなことをしてでも台湾を取り返す。これは既定路線だ。それができなければ、中華民族は中華民族としての存在意義を失う」と語気を強めて私に言いました。

 そう、主語は「我々中華民族」なのです。官と民、都市部と農村部、富裕層と貧困層、国内居住者と海外華僑といった区別はほぼ存在せず、挙国一致で「祖国の完全統一」を願い、それを脅かす勢力や動向に対しては、武力行使をしてでも阻止するという選択と行動を、絶対多数の中国人は支持するでしょう。そういう気運や趨勢(すうせい)が、昨今、目に見える形で高まっている。中国全土を覆うこの世論は、習近平の政治的意思決定に影響を与えずにはいません。私から見て、習近平にとって、いまだ不確定、不透明な任期内における最大の政治目標が台湾統一です。解放軍と世論に背中を押され、かつ自らの政治的野心に火がついた場合、習近平がいまだ放棄していない武力の行使に打って出るシナリオは現実味を持ちます。そして、その可能性は21世紀に入って以来最も高まっていると言えるでしょう。

 これが三つ目の理由です。

チャイナリスクを見極め、世界市場に挑もう

 日ごろ、各国の機関投資家から、リスク回避という観点から聞かれる質問に対して、整理しながら回答してきました。私は決して、「中国は危ない」と言いたいわけではありません。前述のように、中国共産党にとって、台湾侵攻は「最期の手段」です。可能性は否定できない、それが起こり得る根拠は示しました。ただ、それが実際に起こるのかどうか、どう展開するのかに関しては慎重に慎重を重ねた分析が必要です。私自身、このような事態が安易に発生するとは考えていません。

 仮に発生したとして、その後の世界がどう変わるかに関しては、あらゆる不確定要素が複雑に絡み合い、新たな形でマーケットにインパクトをもたらすでしょう。そして、そこにはネガティブなものばかりではなく、新たな希望の光が見えてくる可能性も十分にあります。

 漠然と悲観的になるのは非生産的だと思います。

 このレポートを読んで、「それでは中国市場への投資は考え直そう」と考える方がいるとしたら、率直に言って、甘過ぎます。私が上記で論じてきた事情が及ぼす、与える影響の範囲は、決して、中国本土、香港、台湾のマーケットだけではなく、日本や米国を含めた、世界中すべてのマーケットに(程度の差はあれ)確かなインパクトをもたらさずにはいません。

 誤解を恐れずに申し上げますが、チャイナリスクから逃げたいのであれば、投資を止めるべきです。なぜなら、チャイナリスクから逃げられる投資領域など存在しないからです。

 私がこのレポートを通じて皆さんと共有したいのは、リスクを直視し、それを終始念頭に置いた上で、臨機応変にリスクをヘッジし、状況次第ではそれを取りにいく姿勢にほかなりません。

 私自身、日ごろ中国動向を追う過程で、「このリスクは押さえておくべきだ」「このニュースは世間で言われているほど深刻ではない」といった分析を行った場合には、このレポートで随時報告していきたいと考えています。逃げずに議論していきましょう。

(加藤 嘉一)

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