前途多難なバイデン新政権の為替・金融政策
トウシル / 2021年1月27日 16時30分
前途多難なバイデン新政権の為替・金融政策
1月のドル/円は103円台前半で始まりました。菅首相が1都3県における緊急事態宣言を週内にも発令する方向で検討しているとの報道を受け、102円台半ばに下落しました。しかしその後は、5日のジョージア州の上院議員選挙での民主党勝利、6日の選挙人投票の開票によるバイデン次期大統領の確定を受け、新政権による経済対策への期待から米長期金利が上昇し、金利上昇とともにドル/円も102円台から反転し、一時104円台まで上昇しました。
そしてこの102円台から104円台への反転過程で、新政権体制下での金融政策や通貨政策のスタンスを確認することもできました。
金融政策:FRB(米連邦準備制度理事会)の長期の緩和姿勢が確認される
金融政策について、FRBの長期の緩和姿勢が改めて確認されました。1月上旬の金利上昇は、新政権による経済対策への期待だけでなく、複数の地区連銀総裁が量的緩和の縮小(テーパリング)に言及し始めたことも背景にありました。マーケットでは、ワクチンの普及と経済対策によって景気が回復してくれば、FRBが年内に資産購入を縮小してくるのではないかとの観測が浮上し、金利上昇の要因のひとつとなりました。しかし、14日のオンライン討議でパウエル議長は、「今は議論する時ではない」と明確に否定し、緩和の出口が遠いことを改めて示唆しました。つまり、バイデン政権下でもFRBの金融スタンスは長期の緩和姿勢が続くということをマーケットに改めて知らしめたことになりました。今週26~27日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)では、量的緩和縮小に対する慎重姿勢あるいは長期の緩和姿勢が改めて確認されるかどうか注目です。
通貨政策:財務長官に就任予定のイエレン氏は、ドル安を目指さない姿勢を強調
通貨政策について、民主党はドル安政策を志向するという見方が根強いですが、財務長官に就任予定のイエレン氏は、19日、米上院での指名承認に向けた公聴会で所信を述べ、ドル安を目指さない姿勢を強調しました。イエレン氏は、「米国は競争を有利にするために弱いドルを求めることはない。他の国がそのようにすることも反対だ」と、他国のドル安誘導もけん制しました。トランプ前大統領は、米国の製造業の競争力を高めようと、何度もドル高をけん制しましたが、イエレン氏はドル高をけん制することも、さらにドル安を求めるということもないと明言しました。為替政策については、国際金融の原則論に戻り、「ドルやその他の通貨の価値は市場で決まるべきだ」と指摘しています。
イエレン新財務長官とパウエル議長は現況下ではベストの組み合わせか?
イエレン氏の発言はドル高には反応しませんでした。公聴会で「今は大きな行動を取ることが賢明だ」と、積極的な財政出動を行う考えを強調したからです。財政赤字の拡大はドル安要因であるため、長期の金融緩和を継続するパウエル議長との連携によって、マーケットではドル安シナリオの追い風となったようです。
米経済回復による金利上昇は、いわゆる「良い金利上昇」としてドル買い要因となり得ますが、財政拡大による国債増発懸念は、国債価格下落という形で、いわゆる「悪い金利上昇」とみなされ、本来はドル売り要因となり得ます。しかし、FRBの長期の量的緩和によってこの懸念が吸収され、「悪い金利上昇」を伴う悲観的なドル売り要因とはなっていないようです。
イエレン氏がFRB議長の時代に理事として支えていたのがパウエル現FRB議長です。パウエル議長は強力な緩和姿勢を続ける姿勢を示した上で、財政出動を繰り返し求めています。イエレン新財務長官とパウエル議長は現況下ではベストの組み合わせかもしれません。
ドル/円は102円台からの反転後、103.50~104.00円で推移しています。103円台が堅いのか、104円台が重たいのか、米大統領就任式も無事に終わったことから、次の材料を探しているかのような動きです。
ドル安の構図は当面揺らがなさそう
今月末の終値が104円台に乗せなくても、103.30円近辺以上で終われば、8月以来、5カ月振りに陽線(*)となります。それぐらいドル安進行が続いていたことになりますが、しかし、上述しましたように、バイデン新政権下でも金融政策と財政政策の連携によって、大きな枠組みは変わっていないことから、ドル安の構図は当面揺らがなさそうです。ただ、ドル売りの圧力は弱まっているようにも見えます。(*始値よりも終値が高いこと。1月末が月初よりもドル高・円安で終わること)
米10年債利回りは、パウエル議長の発言後下がりました。しかし、昨年4月以降1%以内で推移していましたが、今年に入って1%台はキープしている状況です。この辺りが、円高にややブレーキがかかっている背景かもしれません。
ドル/円の現在の動きは、前途多難な米新政権を様子見
1月上旬の株高・金利高・ドル高は、経済対策とワクチン普及による経済回復期待が背景ですが、ブレーキが外れるとしたら、この経済回復期待が後退することによって起こるかもしれません。
新政権が掲げている1.9兆ドルの経済対策について、共和党との交渉が難航し規模縮小の動きが出れば、1月にドルを支えた要因が剥落するため警戒する必要があります。
トランプ前大統領の弾劾裁判については、マーケットには今のところ無風ですが、弾劾裁判について共和党は分断を招くだけで「融和」に反すると反発しています。一方で、民主党内では左派を中心にトランプ弾劾の意見が根強い状況となっています。弾劾裁判の議論が経済対策の交渉の足かせになり、規模や実施時期に影響しないか気になるところです。
また、バイデン大統領はコロナ対策が一番の課題と明言しており、100日間(4月末)で1億回分の接種を目指すとしていますが、ワクチンの普及スピードが予定よりかなり遅れている状況となっています。米国の感染者は2,500万人を超え、死者は41万人近くとなっています。この感染スピードは米国民が2秒に1人感染し、30秒に1人死亡している状況とのことです。このままワクチン普及が遅々として進まず、感染抑制ができなければ、景気回復への期待が後退することも予想されます。ドル/円の現在の動きは、前途多難な米新政権の様子を観察しているような動きかもしれません。
(ハッサク)
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