米国長期金利上昇で1,200円超急落の日本株、再び浮上できるか?強弱材料を点検・整理
トウシル / 2021年3月1日 12時14分
米国長期金利上昇で1,200円超急落の日本株、再び浮上できるか?強弱材料を点検・整理
日経平均1,200円超の下落
2月の最終週だった先週の国内株市場ですが、週末26日(金)の日経平均株価は節目の3万円台だけでなく、2万9,000円台も下回る2万8,966円で取引を終えました。
週足ベースでも4週ぶりに反落し、前週末終値(3万17円)からの下げ幅(1,051円)のほとんどが26日(金)の急落によってもたらされた格好です。ちなみに、前日比で1,200円を超えるこの日の日経平均の下落は、歴代10番目の大きさです。
3月相場入りとなる今週は、先週の急落の余波をどのように受け止めていくのでしょうか? 日経225先物取引市場では2万9,000円台に戻して取引を終えており、ひとまず下げ止まりからスタートしそうですが、いつものように先週の値動きから確認していきます。
■(図1)日経平均(日足)とMACD(2021年2月26日取引終了時点)
あらためて先週の日経平均の値動きを振り返ると、週初の22日(月)は反発で始まり、これまでの株高基調が続きそうなムードだったのですが、祝日を挟んだ24日(水)からそのムードがガラリと変わり、米長期金利の上昇を警戒する動きが、週末にかけての乱高下へつながっていきました。
24日(水)に3万円台を大きく下回る下落を見せたかと思えば、翌25日(木)は急反発、しかし、冒頭でも触れたように、26日(金)には再び大幅下落へと転じてしまいました。
また、株価と移動平均線との絡みでは、終値ベースで5日移動平均線を上回ったのは25日(木)だけだったほか、26日(金)の取引で25日移動平均線も下回っています。移動平均線で見た下値の目安は75日と200日移動平均線になりますが、26日(金)時点では、75日が2万7,547円、200日が2万4,476円ですので、まだかなりの距離があります。
さらに、下段のMACDも25日(木)にシグナルを下抜けてヒストグラムがマイナス方向へと転じ、26日(金)もマイナス方向へ棒が伸びていますので、下方向への意識を強めている印象です。
株価反発のシナリオも残されている
では、このまま下値を探る展開になるかといえば、現時点ではかなり微妙です。というのも株価が反発するシナリオも残されているからです。
■(図2)日経平均(日足)の動き(2021年2月26日取引終了時点)
昨年夏以降の日経平均は、「月末付近で下落し、翌月に反発」というパターンが繰り返されています。今回も月末に大きく下落しましたが、これまでは相場が崩れるかと思いきや、持ち直してさらに上値を更新してきたわけです。前月(1月)の時も、月末に25日移動平均線を大きく下抜ける場面を見せたものの、翌月に大きく反発しています。あくまでも、「歴史は繰り返す」という前提ではあるものの、今回も下げ止まり、もしくは反発していくシナリオがあります。
また、先週末の株価水準は、最近までの上昇基調が始まった昨年10月末を起点にして、1月末の下落時と結んだトレンドラインの延長線上に位置しており、ここをサポートにできれば、やはり反発への萌芽(ほうが)となる可能性もあります。
トレンドラインについては、TOPIX(東証株価指数)やNYダウ平均株価も似たような状況となっています(下の図3と図4)。
■(図3)TOPIX(日足)の動き (2021年2月26日取引終了時点)
■(図4)米NYダウ(日足)の動き (2021年2月26日取引終了時点)
仮に反発となった際には、前回のレポートでも指摘した通り、日経平均・TOPIXともに、直近高値を結んだ「上値」ラインを上抜けできるかが焦点になります。
株価反発の場合、NASDAQが株価動向のカギを握る
株価が反発できた場合、今後の株価動向を探る上でカギを握るのはNASDAQになるかもしれません。
■(図5)米NASDAQ(日足)とMACD (2021年2月26日取引終了時点)
NASDAQは、IT・ハイテク銘柄がそろい、いわゆるグロース株の主戦場ですが、図5のチャートを見ても分かるように、今回の米長期金利上昇をきっかけとする株安で大きく売られた格好です。
株価は25日移動平均線を下抜け、75日移動平均線までの距離も縮んでいますし、MACDも下向きを強め、0pラインも視野に入っているなど、チャートの形は良くありません。過去にさかのぼってみても、NASDAQの調整局面では一時的に75日移動平均線を下抜けている場面が見られるため、「もう少し株価が下がりそう」な雰囲気があります。
そこで注目したいのが、MACDのヒストグラムです。現在、ヒストグラムがマイナス方向へ拡大中ですが、過去の調整局面では、このヒストグラムが徐々にプラスの方向に向かっていきながら、底値圏を形成していたことが分かります。そのため、「足元の相場がどのくらいの時間で立ち直れるのか?」について、NASDAQのヒストグラムの縮小ペースが参考になるかもしれません。
株価材料を整理:日銀ETF買い、米中関係、米国の長期金利上昇
最後に、株価材料についても簡単に整理しておきたいと思います。
まずは、前回のレポートでも触れた、「2月に入ってから日本銀行がETF(上場投資信託)の買い入れを行っていない」点ですが、株価が急落した26日(金)はさすがに買い入れを行っています。ここで意識されるのは前回の買い入れ(1月28日)との比較です。
ポイントは2つあり、1つめのポイントは買い入れを行った株価水準です。今回は2万9,000円割れでしたが、前回は2万8,000円台の前半でしたので、前回よりも高い水準で買い入れを行ったことになります。
そして、もう1つのポイントは買い入れ額が前回と同じ501億円だったことです。過去の買い入れ額を振り返ってみると、700億円~2,000億円台で購入した実績があるだけに、株価急落に対して日銀が何らかのメッセージを放つのであれば、もう少し買い入れ額を増やしてもおかしくはなかったわけです。足元では日銀が買い入れを行わないこと自体が憶測を呼んでいたため、「とりあえず買ってみました」感があるのかもしれません。そのため、金融政策の見直し内容が公表される3月19日までは、引き続き日銀のETF買いの動向が注目されそうです。
続いては米中関係です。先週は米バイデン政権が中国依存からの脱却を視野に、半導体や電池、医薬品、レアアースの分野で供給網を100日内に見直す方針を打ち出しました。中国では今週末から全人代(全国人民代表大会)が開催されるタイミングでもあり、米国からの政治的な「ジャブ」と思われます。
中国では政治イベントを通じて国威発揚のために内政・外交を問わず、強めのメッセージが発せられる傾向があり、今回の全人代でも、香港の民主派を排除するため、選挙制度の見直しが議論される見込みとなっています。バイデン政権誕生によって、米中関係の修復が進むという期待もありましたが、今のところ、関係改善に向けた動きよりも、対立を意識させる動きの方が目立っている印象です。政治的な材料は一日で方向性がガラリと変わり、読みにくい面がありますが、しばらくは米中関係の動向は株式市場の追い風にはなりにくそうです。
そして、最後に先週の相場下落のトリガー(引き金)を引いた、米国の長期金利上昇についてです。確かに、金利の上昇は株式市場が抱えるリスクのひとつとして意識されていましたが、コロナ禍からの正常化に伴う景気回復の強さの表れであれば、ある程度の金利上昇は許容範囲で、「経済の正常化と金融緩和の両立は可能」とされてきました。
それが、ここに来て米10年債の利回りの上昇ピッチが早まったことをきっかけに、「思ったよりもFRBの引き締めが早くなるかもしれない」、「金利上昇の要因が期待インフレではなく、実施金利の上昇によるところが大きく、悪い金利上昇への警戒が強まったかもしれない」、「まもなく成立が見込まれる米追加経済対策の財源として、国債の増発が想定されるため、債券市場が不安定化しそう」などのさまざまな思惑が一斉に絡んできて株式市場が消化不良を起こしたと思われます。
市場はまだ状況を消化している最中ですので、今回の金利上昇によって実体経済や金利・物価の動向についての中期的な見通しシナリオに変化が生じたかどうかは、これから一定の時間を掛けて動向が決まってくると思われます。
とはいえ、早期の金融緩和縮小の気配を感じただけで売られやすくなっている相場地合いであることには注意が必要です。「とりあえず売っておこう」の動きが集中すれば、先週のような株価急落の場面もあり得えますし、株価が反発できたとしても、直近高値が上値の抵抗になる可能性もあり、振れ幅の大きいもみ合いが目先のメインシナリオになりそうです。
(土信田 雅之)
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