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東京五輪が異常に気になる中国、北京冬季五輪まであと1年…

トウシル / 2021年2月25日 5時10分

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東京五輪が異常に気になる中国、北京冬季五輪まであと1年…

海外から違和感を持って見られている東京五輪開催前の“内紛”

 東京五輪開会式(2021年7月23日)予定日まで、5カ月を切りました。

 私は現在、一時的に日本に滞在していますが、海外を活動拠点にしてきた日本国民の一人として、いま目の前で起こっている各種事態を、複雑な心境で見つめています。

 新型コロナウイルスの発生やまん延が原因となり、東京五輪が1年延期になってしまった経緯には、非常に残念な思いをしました。出場内定選手の皆さんは心身含めたコンディショニングに苦労されてきたでしょうし、主催者側やボランティア、スポンサー関係者もさまざまな忍耐や調整を強いられたことでしょう。

 それでも、新型コロナウイルスという「人類共通の敵」に打ち勝った証しとして、東京五輪を何としても成功させるという思いは、多くの国民に共有され、国際社会からも支持されてきたように思えます。東京五輪が決まった瞬間、日本中で湧き上がった歓喜を昨日のことのように思い出します。国民のほとんどは、祖国で1964年以来2回目の夏季五輪を開催することを喜び、支持したでしょう。

 しかし、現状は厳しいように映ります。新型コロナはいまだ終息せず、政府が観光や経済を促進するために実施した「Go To キャンペーン」の後、再び新型コロナの感染者や重症者があからさまに増え、医療がひっ迫する中、「こんな状況で五輪なんか開催できない。するべきではない。五輪と国民の生命とどちらが大事なのだ!?」という民意は広範に存在してきたように感じられます。観客はおろか、選手ですら海外から入国させることに拒否反応を示す国民も少なくないようです。また、無観客の開催しかあり得ないという見方もあれば、無観客の五輪など開催する意味がない、平和の祭典からは程遠いという主張も少なくないようです。

 このような状況下で、各世論調査にも表れているように、開催に反対、すなわち、五輪中止を主張・支持する国民が非常に多いように見受けられます。そして、このような世論の実態を如実に反映しているのが、昨今、永田町や霞が関、東京五輪・パラ五輪競技大会組織委員会の会長人事をめぐる騒動であるように思えるのです。

 日本が国民国家として、アジアで初めて近代化を実現した世界第3位の経済大国として、新型コロナウイルスに打ち勝った証しとしての決意と結束力を世界に対して示していくべきこの時期に、菅義偉総理大臣の長男が所属する会社による総務省幹部不当接待問題、森喜朗元首相による女性蔑視(べっし)発言などで、国会や世論は翻弄(ほんろう)されてきました。

 これらの事態が問題ではないと言っているのではありません。追及すべきところは追及し、取るべき責任は取ってもらうべきです。ただ、なぜ今なのか、今でなければならないのかという違和感が拭えないと感じるのは私だけでしょうか。

 新型コロナの抑制と経済の再生という、国民の生命と財産に根源的に関わるテーマに全力で取り組み、その上で、できる範囲内で最大限の形式、規模感を持って東京五輪を開催、成功させる。菅政権にとって、今年の上半期、これ以上に重要な課題はないでしょう。

 現状として、森喜朗氏は辞任に追い込まれ、後任となった橋本聖子元五輪相も過去のスキャンダルが持ち出され、その人間性にまで疑問が投げかけられ、菅政権、総理本人は、長男の不当接待問題における野党やマスコミからの追及対応に追われています。そして、誤解を恐れずに言えば、多くの有権者は、政権指導部や五輪組織委員会が一連の不祥事に翻弄、忙殺されている事態を前に、内心ほほ笑んでいるかのようにすら私には映るのです。

 国民の間で広範にまん延する、新型コロナ抑制と経済再生に適切に対応できてこなかった菅政権に対する不信感、緊急事態宣言、自粛期間中に蓄積した鬱憤(うっぷん)、そして国民の生命、財産、健康的な心理状態を保障できないような状況下で、五輪は開催できないし、すべきでもないという有権者の心情が、「政治の暴走」と「東京五輪組織委員会の迷走」を結果的に“容認”しているというのが目下、不都合な現状といえるのではないでしょうか。

 さもなければ、昨今の日本社会を覆っている、足の引っ張り合いに象徴される内紛状況はとても説明できません。日本は民主主義国家で言論の自由があるから、も含めて、説得力に著しく欠けます。

 前置きが長くなりました。100%、私の個人的な見方、考えですが、この期間、欧米、中国、香港、台湾の政府、企業、メディア、知識人らと東京五輪の開催いかんをめぐって議論をしてきた中で、ほとんどが上記と類似する見方をしていて、昨今の日本は国際社会からこのように見えているのだろうなと判断したため、あえて書き留めた次第です。

中国共産党や中国人民は東京五輪開催をどう見ているか?

 本連載のテーマである中国に話を移します。今回のレポートでは、冬季五輪を1年後に控える中国が、東京五輪をどう見ているのか、より具体的に言えば、中国が東京五輪の開催(無観客いかんなどを抜きにして)を支持する理由と動機を5つの側面から分析します。

 まず、中国は官民問わず、東京五輪をめぐるあらゆる事象や状況を細心に注視しています。前述の、森喜朗氏の失言、橋本聖子氏の後任人事、およびそこに投げかけられている日本国民の疑念などを、日々、リアルタイムで詳細に報じています。共産党指導部の発言や立場も見てみましょう。今年1月25日、習近平(シー・ジンピン)国家主席が国際五輪委員会(IOC)のバッハ会長と電話会談をした際にも、次のように表明しています。

「中国はIOCや各国と手を携え、安全、円満に東京夏季五輪、北京冬季五輪を開催できるように尽力していきたい。国際社会が一日も早く新型コロナに打ち勝ち、世界経済を復興させ、各国国民の生命、安全、健康を守るために貢献していくつもりである」

 2月17~23日にかけて、私は中国の知人36人(*)に「東京五輪開催を支持するか?」を聞いてみました。

*属性:(年齢別)10代1人・20代12人・30代13人・40代6人・50代3人・60代1人、(男女別)男性18人・女性18人、(居住地別)北京市8人・上海市8人・広東省6人・陝西省1人・四川省1人・天津市1人・重慶市1人・浙江省2人・香港2人・米国3人・英国2人・シンガポール1人

 結果は36人全員が「支持」を表明。理由はいくつかありましたが、そのほとんどは、以下で紹介する5点のどこかに収れんします。この36人には、「2022年の北京冬季五輪開催を支持するか?」に関しても聞いてみました。想定内ですが、全員が支持を表明していました。

 日中間で国情や世論の違いは少なからず存在するでしょう。中国では、一般的に、祖国が威信をかけて主催する五輪、自分が生きている間に何回経験できるか分からない、そのためなら、いかなる協力も犠牲も惜しまないという具合に考えます。「国家大事」「民族大業」という意識や色彩が濃いのです。中国の国力や国際影響力が上がっている現状では、愛国心やナショナリズムはなおさら刺激されることでしょう。そして、コロナ禍という現状がそういう意識に拍車をかけます。国家や社会が危機的な状況にあり、五輪ほどのイベントの開催が危ぶまれていればいるほど、お国への思いが強くなる傾向にあるというのが私の分析です。

 そして、この36人の中には、「日本の政治は不思議だ。なぜ今、仲間割れをするのか」「東京五輪開催が決まった時にはあれだけ盛り上がっていたのに」「五輪開催反対者が多数いる現状に便乗して、マスコミや野党が揚げ足取りに奔走(ほんそう)しているのだろう」「結局は菅政権の求心力や器の問題」「何としても五輪を開催し、成功させるという国民国家としての意思が感じられない」といった意見が多々ありました。ちなみに、これらの意見は中国だけでなく、欧米からも寄せられました。香港や台湾の知人は、「せっかく五輪を開催できる立場にあるのにもったいない。私たちにはその資格すらないのに」とうらやましがっていました。

中国が東京五輪を支持する5つの理由

 ここからは、5つの理由について一つ一つ見ていきます。

1つ目:アジアの世紀と台頭を証明したいから

 世界秩序を考えるとき、先進国と途上国、西側と東側、民主主義国と開発独裁国、大国と小国など、さまざまな区分があるでしょう。自称「世界最大の発展途上国」の中国は、自らがアジアに属しているという意識が強固です。例として、2014年5月、習近平主席が上海で開催されたアジア相互協力信頼醸成会議(CICA)の首脳会合で演説した際に、「アジアの問題はアジアの人々の手で解決すべきだ」と述べ、米国の関係者から「中国はアジアから米国を排除しようとしているのか」と受け取られ、物議を醸したことがあります。

 地政学や勢力範囲といった戦略的考慮も働いていますが、いずれにせよ、中国は、先進国か途上国か、民主主義国か「開発独裁」国かは別として、「アジアの国家」という、自らが所属、立脚する拠点として掲げ、特に米国をはじめとする西側諸国へのけん制、挑戦としたいのです。

 2020年11月、中国の王毅(ワンイー)国務委員兼外相が訪日し、日本の茂木敏充外相と会談をした際、「中日が五輪をめぐる協力を通じて、両国民の友好を促進し、アジアの国際五輪事業への貢献度を向上させることを願っている」と語っています。

2つ目:日米同盟、および西側主導の国際秩序に楔(くさび)を打ち込みたいから

 中国の対外的な戦略として重要なのが、自らが国家間競争の観点で「敵」「相手」「ライバル」と考える国家のグループに風穴を開けること、敵・相手陣営を分裂させること、空中分解させることです。例えば、中国は、自らが所属、立脚するアジアに、米国の同盟国がいる、米軍基地があるという現状を嫌がり、何とかしてそれらを崩そうと考え、動きます。

 この意味で、日米同盟というのは最大の標的の一つです。中国では、党指導部、解放軍から民間人まで、日中関係がなかなか安定しない、真の意味で友好的な関係を築けない根本的な原因は米国という「黒幕」にあると本気で考えています。

 故に、ありとあらゆる舞台や機会を利用しながら、「米国が戦略的に関与するアジア」「戦後、西側主導の秩序やシステムに乗っかって発展してきたアジア」ではなく、「日中という世界第2位、第3位の経済大国が共に盛り上げるアジア」「アジアの国自らが考える秩序やシステム」という物語を形作っていきたいのです。

 その意味で、日本が主催する東京五輪の翌年に、同じアジアの国である中国が冬季五輪を主催するという物語は、中国にとって自らの民族的欲求や国家的需要に符合するのです。

3つ目:日中関係を安定的に管理したいから

 日中間には、歴史や領土にまつわる構造的問題が依然根深く存在しています。国民感情が逆なでされる突発的事件は、両国関係がどれだけ円満に遂行していても、瞬く間に急降下してしまうだけのリスクをはらんでいます。戦略的競争関係にある米中関係に、日中関係が巻き込まれるケースもあります。台湾問題も例外ではありません。

 経済力、軍事力、国際影響力などが向上するに伴い、例えば、尖閣諸島沖で中国の公船による領海侵犯を含めた挑発的行動はあからさまに増えており、日本国民の感情を逆なでしています。習近平訪日への集団的拒否反応につながっています。中国の当局も、自らの海洋政策、香港、新疆、台湾政策などが原因となり、日本政府、国民の対中不信を招いている現状を知っています。それでも、大国化、強国化する国家として、それら拡張的な動きを止めることができない、止めないけれども、日中関係は安定させ、前に推し進めたいという、言動が矛盾していますし、欲張りすぎに見えますが、それが中国という国家の現在地なのでしょう。

 だからこそ、五輪という、人類が共に向き合い、取り組む、平和の祭典で協力し合い、共に成功させることで、日中関係の安定的管理につなげたいというのが中国の本心なのです。

4つ目:北京冬季五輪を何としても成功させたいから

 中国にとって、言うまでもなく、東京夏季五輪よりも断然重要なのが、北京冬季五輪2022です。五輪は平和の祭典とはいいますが、そこには政治性という要素が色濃く働きます。1980年、冷戦下で開催されたモスクワ五輪を日本がボイコットしたのは一つの例です。

 中国共産党による対新疆ウイグル自治区や香港特別行政区への政策が引き金となり、西側諸国が「人権」を振りかざしつつ、北京冬季五輪をボイコットしてくるシナリオを、中国は警戒しています。仮にそれが米国1国、米英2国、あるいは「ファイブアイズ」(英米、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの5カ国が機密情報を共有する枠組み)くらいであれば許容範囲内でしょう。ただ、ここに日本を含めたG7(主要7カ国)全加盟国がボイコット、欧米諸国か西側陣営の3分の1がボイコットといった事態になれば、北京冬季五輪の正当性には相当程度ヒビが入るのは避けられません。

 このような事態を阻止するための一環として、中国は東京夏季五輪を支持するのです。五輪とは国家やイデオロギーを超えたところにあるべき平和の祭典、どんな状況下でも互いに支持し合うべきだと訴えることで、自国開催への支持を取り付けたいのです。事前の開催国が、同じアジア、しかも米国の同盟国、西側陣営の一員である日本であればなおさらです。

5つ目:「北京冬季五輪で人類はコロナに打ち勝った」は必要ない

 中国は自らの体制や国情の「異質性」を自覚し、それを払拭(ふっしょく)すべくもがいてきました。

 世界第2の経済大国でありながら、自国は世界で5カ国しか残っていない社会主義国であること。共産党一党支配体制下における政治や政策が内外で批判を浴びていること。中国が国家として信用されない根本的原因が体制そのものにあること。

 このような状況下で、中国は各国にはそれぞれの歴史や文化、発展の進路があり、すべての国はそれらを互いに尊重すべきだと呼び掛けつつ、一方で、中国だけが特別、異質だと認識され、その過程で孤立する局面を嫌う傾向があります。

 中国は異質性が原因で、孤立したくないのです。

「中国だけは特別」ではなく、「中国も国際社会の一員」という物語を作っていきたいということです。「オンリーワン」よりも、「共に戦った」という証しが欲しいのです。

 その意味で、中国共産党としては、「東京五輪が中止になった2021年7月の段階では人類がいまだコロナに打ち勝てなかった。2022年2月になり、北京五輪で、その時がようやく訪れた」ではなく、「東京五輪に続いて、北京五輪の開催を通じて、アジアを舞台に、人類は新型コロナウイルスに打ち勝ったことをついに証明した」という物語を断然好み、それを作り上げたいのです。この物語は、中国の国民や世論からも広範な支持を得るでしょう。

 まあ、中国当局は、運営面、安全面、経済効果を含め、北京五輪のほうが東京五輪よりも円満、順調に開催されたという評価を国際社会から得るべく、戦略的沈黙を保ち、したたかに、全力で取り組んでくるのは間違いないでしょうが。

(加藤 嘉一)

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