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深まる謎!?なぜ「史上最高値祭り」が一巡しても、金と原油は強いのか

トウシル / 2021年6月1日 5時0分

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深まる謎!?なぜ「史上最高値祭り」が一巡しても、金と原油は強いのか

「史上最高値祭り」は一時中断。5月上旬から複数銘柄が調整中

 以前の「お祭か!?史上最高値更新が相次ぐ。商品高→インフレ→金高シナリオの裏側」で書いた、コモディティ(商品)相場の全体的な上昇は、中断しつつあります。

 以下の図は、複数の主要銘柄が史上最高値を更新し、お祭りの様相を呈していた時期の騰落率です。

図:2021年4月16日から5月7日の騰落率

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 木材価格の上昇は、「ウッド・ショック」などと呼ばれ、米国の(一部日本でも)住宅建材価格を押し上げる要因となりました。また、穀物や植物油関連銘柄の上昇は、わたしたちの食生活に欠かせない、マヨネーズやマーガリン、食用油の小売価格を押し上げました。

 一方、以下の図「2021年5月7日から5月28日の騰落率」は、その後の同じ銘柄たちの騰落率です。全体的な流れが変わりつつあることがわかります。

図:2021年5月7日から5月28日の騰落率

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 抽出した主要銘柄における、4月16日から5月7日までの上昇銘柄数は17、下落銘柄数は4でしたが、5月7日から28日までは、上昇銘柄数が6、下落銘柄数が15でした。5月上旬を境に、多くの銘柄が調整し始めました。

 指標となる国際価格の下落が始まってから、関連する末端の製品(住宅建材や食用油関連の製品)価格の下落が始まるまでは、時差があるため、一時的に上昇した末端の製品価格がすぐさま下落するわけではない点に、留意が必要です。

「お祭り中断」は、ビットコインの急落開始と個別下落要因の出現によるもの

 5月上旬を境に、多くの銘柄が調整しはじめました。一時、複数の銘柄が同時に大きく騰勢を強めて「お祭り」の様相を呈しましたが、そのムードが中断しつつあるわけです。

「お祭り中断」の背景の一つに、ビットコインなどの暗号資産の下落が挙げられると、筆者は考えています。以下は暗号資産の主要銘柄である、ビットコインとイーサリアムの価格推移です。

図:暗号資産の価格推移

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 ともに、全体的なムードが変化し始め、「お祭りの中断」が鮮明になった5月上旬から、大きく下落しています。ビットコインはおよそ40%、イーサリアムはおよそ30%、下落しています。

 このような暗号資産の大幅下落は、市場全体の景気回復ムードに水を差し、一時的に、これまで底流してきた「期待先行」の好ムードを弱めるきっかけになっていると考えられます。

※「期待先行」については、以前のレポート「お祭か!?史上最高値更新が相次ぐ。商品高→インフレ→金高シナリオの裏側」  の「期待先行相場」は、期待の対象を入れ替えながら膨張している、をご参照ください。

 以下の図は、「期待先行」の好ムードが暗号資産安起因のリスクオフで弱まったことに、各コモディティ市場の個別の下落要因の発生を加えた、筆者が考える、5月上旬以降の全体像です。

図:「実態なきインフレ」一部損壊のイメージ.

出所:筆者作成

 5月上旬以降、「全体」および「個別」の両面で下落要因が発生し、コモディティ(商品)相場が調整していると言えます。

金、銀価格は上昇。全体的なコモディティ価格の下落が、金融緩和継続期待を強める

「全体」および「個別」の両面で下落要因が発生し、コモディティ(商品)相場の多くが、5月上旬以降、調整していると書きました。しかし一方で、上昇している銘柄もあります。金、銀、原油、温室効果ガス排出権です。

図:金・銀・原油・温室効果ガス排出権の価格推移

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 金は、この1カ月強、一貫して上昇しています。前回述べたとおり、新型コロナ変異株の感染が拡大していることで「有事のムード」が強まり、「資金の逃避先」需要が増加していることが一因とみられます。

 また、複数のコモディティ(商品)価格が調整局面にあり、一時的に強まった物価高(インフレ)のムードが落ち着きつつあるため、米国の金融政策がすぐに引き締め方向に向かわない可能性があると、筆者は考えています。

 このため、金融緩和がきっかけで発生している「代替通貨(ざっくり言えば“ドルの代わり”)」の側面からの金相場への上昇圧力が、目先も継続する可能性があります。

 さらには、米国の長期金利の目安になる米10年債利回りに頭打ち感が出ていることや、ドル指数が下落していること、(代替通貨の側面を持つ通貨として競合する)ビットコインが弱含んでいることなどにより、複数の経路で「代替通貨」の側面から、金に注目が集まっていると考えられます。

 銀は、金よりも変動率がやや高い傾向がありますが、特に銀特有の強い材料(例えば、2021年1月下旬にSNSを介して発生した、米国の個人投資家の共闘など)がない限り、金に連動する(価格が動く際、同じような山と谷を描く)傾向があるため、この1カ月強、金とともに上昇しています。

原油・排出権価格も上昇。原油相場上昇の主因は、米国の生産力低下か

 温室効果ガス排出権は、底値を切り上げながら、上昇しています。世界的な「脱炭素」ブームの中、温室効果ガスを排出せざるを得ない国や企業が、そうでない国や企業との間で炭素の排出権を融通する需要が高まる観測から、排出権の国際価格が史上最高値近辺で高止まりしています。

 しばらくの間、パリ協定で宣言した排出目標を達成するために、企業や国は、排出権を融通し(売買し)、「実質削減」を目指すと考えられます。

 同協定を順守しながら、豊かな生活を維持したり経済活動を継続したりするためには、温室効果ガスを排出しながら、排出しなかったことに(実質ゼロに)しなくてはならず、ここに、温室効果ガス排出権の売買のきっかけが生まれます。この点が、温室効果ガス価格の上昇の一因とみられます。

 原油については、OPECプラス(サウジやイラクなどのOPEC加盟国13カ国と、ロシアやカザフスタンなどの非OPECの主要産油国10カ国、合計23カ国)が実施している原油の減産が続く中、米国で、新型コロナショック(同ウイルスがパンデミック化したことをきっかけに2020年3月に発生した、ジャンルを問わない多数の主要相場の急落)により、複数の主要なシェール業者が破綻して生産力が低下し、世界全体の需給バランスが供給過剰になりにくくなっていることが、上昇の一因とみられます。

 以下は米国のシェール主要地区および、米国全体の原油生産量の推移です。新型コロナショック発生後の最悪期となった同年5月以降、原油生産量はほとんど横ばいです。

図:米シェール主要地区と米国全体の原油生産量 単位:百万バレル/日量

出所EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 以下は、米シェール主要地区の開発関連指標といえる、掘削済井戸数と仕上げ済井戸数および原油価格の推移です。開発関連指標は、新型コロナショック発生前の5~7割程度の回復にとどまっています。

 原油価格は同ショック発生前の水準に戻ったものの、開発が十分に回復していないことがわかります。先述のとおり、同ショック後に生産力が低下したことを裏付けています。

図:米シェールの開発関連指標と原油価格

出所EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

環境問題起因の下落圧力は、原油相場ではなく、石油関連株にかかっている

 以下は、原油相場とエクソンモービル(XOM) の株価の推移です。

図:原油価格とエクソンモービル(XOM)の株価の推移

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 基本的に、採掘コストが変わらなければ、原油価格の上昇は、石油開発会社の株価の上昇要因です。採掘した原油を販売する際の単価上昇を意味し、収益が増加する期待が高まるためです。

 このため、一定程度、原油相場と石油開発会社の株価は連動性が生じる傾向があります。

 しかし、上図のとおり、5月下旬以降、2つの連動性が低下していることがわかります。連動性の低下は、石油開発会社側で固有の要因が発生している時に起き得ます。

 足元、オーストラリアの非営利団体「ミンダルー財団」が今月公表した「使い捨てプラスチック関連企業・機関」が、影響している可能性があります。

図:主要な使い捨てプラスチック関連企業・機関(2019年)

出所:「ミンダルー財団」の資料をもとに筆者作成

 このリストに載った企業は、ざっくり言えば、環境配慮により積極的にまい進しなければならない企業と言えそうです。

 世界中で深刻化するプラスチックごみによる海洋などの汚染を食い止めるには、ペットボトルやビニル袋などの利用はもちろん、原料となる石油製品の一つであるポリマーの製造をやめることが有効と考えられます。

 同財団の資料には、原油を掘削したり石油製品を製造したりしている石油開発会社や、その企業に出資している企業、融資している金融機関名が書かれています。各部門100位まで、ランキング化してあります。

「今のところ」、プラスチック製品は一定程度、豊かな暮らしを継続するために貢献していると考えられます。

 しかし今後、環境を守るためには、一般市民も、そしてプラスチック製品に直接かかわる企業も機関も、環境問題を直視し、製造および使用する量を減らしていかなくてはなりません。

 今月に入り、エクソンモービル社の取締役のポストに「物言う株主」が選出されたと報じられました。使い捨てプラスチックの撲滅を含む、環境にやさしい企業へと生まれ変わるべく、大きな一歩を踏み出したのかもしれません。

 今後、石油開発会社起因の材料が、その会社の株価にさらに強く反映されやすくなると考えられますが、原油相場が原油相場固有の材料(OPECプラス減産継続・米国の原油生産力低下など)で動くことも予想されるため、石油開発会社の株価と原油相場の動きが異なるケースが増える可能性があります。

 環境配慮が叫ばれる中、注意が必要な企業や機関の実名が公表されたり、石油開発会社のポストに「物言う株主」が選出されたり、具体的な動きが出始めています。

 これまでの「原油相場と石油関連開発会社の株価は連動する」という、過去の常識が否定されることが当たり前になるかもしれません。今後の石油開発会社の株価と原油相場の動きに注目です。

[参考]貴金属・石油関連の具体的な投資商品

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)

 

[参考]具体的な原油関連の投資商品

国内ETF/ETN

WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039

投資信託

UBS原油先物ファンド

外国株

エクソンモービルXOM
シェブロンCVX
トタルTOT
コノコフィリップスCOP
BPBP

(吉田 哲)

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