混迷の時代を生き延びるためのポートフォリオ
トウシル / 2021年6月17日 16時9分
混迷の時代を生き延びるためのポートフォリオ
インフレは一時的!?願わくはFRBの存在も一過性でありますように…
FOMC(米連邦公開市場委員会)はフェデラルファンド金利の誘導目標レンジを0~0.25%で据え置くことを決定した。利上げについては、経済が回復する中で2023年末までに2回の利上げを見込んでいることを示唆した。
若干、タカ派的な内容と報道されているが、「意見の相違なく合意するFOMCはシャンシャン総会」と呼ばれているように、おおむね事前予想通りの内容と言えるだろう。今は2021年の6月である。2023年末までに2回の利上げなどと言われても、2023年末とは、全く気の遠くなるような先の話ではないか…。
イエレン財務長官は「FRB(米連邦準備制度理事会)は優秀でしくじらない」と述べたが、これは冗談だろう。FRBの予測は、これまで惨憺(さんたん)たるものであり、その50年ほどにわたる金融政策(金融・財政介入で繰り返される失敗)のせいで米国は他国に比べて経済的衰退を加速させてしまったという指摘がある。「リスクを取りすぎていようが、問題が起これば、どうせ政府が守ってくれるに違いない。だから心配する必要がない」という姿勢を助長したのは当のFRBである。
以下は、著名投資家マーク・ファーバーの「FRBの学者たちはそろいもそろって当時、何を考えていたのか?」という鋭い指摘である。
【2002~07年の間、FRBの秀才たちは誰一人として与信バブル、金融派生商品バブル、サブプライム商品バブルを理解していなかった。驚くべきことである。友人のリンカーン・ラスナムは現在の「一過性のインフレ」を「新たな制御されたサブプライム」と呼んでいた。言い得て妙である。なぜなら、2007年に住宅バブルが収縮し始めたとき、FRBと米財務省の担当者は、そろいもそろって、住宅ローン市場は「十分に制御されて」おり、与信市場の他部門には広がらないだろうと考えていたからだ。当時FRB議長だったベン・バーナンキは2006年2月に次のように述べている。
「景気は回復から持続的成長へと転じた。米国経済は引き続き長期的成長に向けて良い状況にある」
この報告書でバーナンキは2008~11年の失業率を5%と予測した。2007年2月15日には次のように述べている。
「家計の景気見通しは総じて良好なままだ。労働市場が堅調を維持すると期待される。そして、実質所得は上昇を続けるはずだ。民間部門の財務状況は依然として絶好調である」
ところが、特に教育を受けている人でなくても当時、何らかの住宅バブルが発達していると、はっきり分かっていただろう。物価の酷い暴騰があり、金融システムに流動性があふれかえっていたからだ。
住宅バブルの評価
本気になって考えてもらいたい。「FRBの学者たちはそろいもそろって当時、何を考えていたのか? それとも皆、ボーっと生きていたんじゃないか?」
しかも、投資業界では2008~09年の世界金融危機を導いた2003~07年の無責任な金融政策が忘れられてしまったようにみえる。金融・財政当局が現在進めているのは、さらにもっと危険な政策であることに気づいていない。
察するに現在世界中のあらゆる資産市場で取引をしている投資家・投機家・博徒の約半数が2008年の世界金融危機について何ひとつ教訓を得ていないだろう。また当時、市場に積極的に参加することもなかったと思われる。
ひいては2000年の米ナスダック株バブルを覚えている投資家をみつけるのは、ほぼ不可能かもしれない。少なくともレディット(訳注:米国の掲示板サイト)に群がる輩には確実にいないはずだ】
出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート 2021年6月号『願わくはFRBの存在も一過性でありますように』
現在、世界中で横行している財政・金融介入によって、債務が前例のない規模に膨れ上がっている。『国家興亡の方程式 歴史に対する数学的アプローチ』の著者ピーター・ターチンによると、往々にして、迫りくる崩壊の最終的な引き金になるのは国家の財政破綻だという。エリートたちは市民の不満を、補助金や配給によってなだめなければならない。それらが尽きれば、もはや不満分子を監視し、人々を弾圧するしかなくなる。
金融インフレの時代には資産価格が、ほぼ際限なく、つまりシステム全体が破綻するまで上昇するが、過去の超インフレ期に株価がどう動いたか、1919~1923年のワイマール共和国や1978~1988年のメキシコをみればわかるように、金融インフレに積極的に関与するシステムは、つまるところ破綻する。インフレ期には実質賃金が減少して大衆の生活水準が落ちてしまうからだ。
我々はこの大変化の始まりのなかで何をすればいいのであろうか?
日本経済新聞社の前田昌孝氏によると、「株価がインフレに勝つかはケースバイケースでデータからは正解がない」(日経新聞電子版 「マーケット反射鏡」と2021年6月9日)という。
ハイパーインフレに見舞われた国、例えばベネズエラは消費者物価指数が26兆2,905億倍になったのに、株価指数は24兆9,830億倍にとどまった。アルゼンチンは物価が11.92倍になったが、株価指数は42.88倍になった。一方で、ギリシャ危機の時はインフレと株価が連動しなかった(この時は株が暴落してから金利が上がるという展開だった)。
筆者は、自国通貨ベースでは株はインフレのヘッジになると考えている。ただし、金融危機が起きると、インフレと株が連動する前に、株も全部売りに巻き込まれて急落する可能性がある。
西側民主主義国の政府自体が社会主義化する中での運用というのは前代未聞のことである。「非常に多くの投資家がバイデン政権の超緩々な(「頭がおかしなくらい緩い」という人も)財政政策に注目している」というが、マーク・ファーバーが言うように、「今や西側民主主義国では民間企業の営業活動を条件づけるために資本主義体制を展開・規制している」とみるのが順当だ。それは純然たる社会主義計画と大した違いはないのである。
運用の究極の目的はインフレヘッジだ。現金が紙くずになってしまってはどうにもならない。我々はこの大変化の始まりのなかで何をすればいいのであろうか?
前田昌孝氏が言うようにインフレヘッジ運用に答えはないのかもしれない。しかし、その中で取りうる戦略が一つだけある。それは「分散投資」である。
マーク・ファーバーはFRBがお金を印刷し続けるだろうという結論に達した
ジェフリー・ガンドラックの資産分散の提案
マーク・ファーバーとジェフリー・ガンドラックという長期に市場の中で生き残ってきた投資家が、これからの運用戦略に対して奇しくも同じことを言っている。
債券王ジェフリー・ガンドラックが、「今後の先行きは全くわからないし、結構過激に変わる可能性があるので私の助言は極端に投資を分散させることだ。こんなことは今まで勧めた事は無い」と述べているように、これまでにない不確実性の時代を我々は生きているのである。
バイデン政権は今回の英国でのG7サミットで、G7諸国を巻き込んで中国とロシアに対して包囲網を作ろうとした。しかし、欧州との温度差を感じるばかりで全くG7自体が機能していない。米国と中国の板挟みの中で、今後、欧州や日本は困難な状況に追い詰められていくだろう。
米国のG7での中国包囲網に対抗して、中国は「反外国制裁法」を即日施行した。この恐ろしい法律を盾にした報復は、これまでの中国にはなかった態度である。
それは、もう経済的にも中国企業が欧米企業より優勢になっているからだ。欧米企業は中国なしではもう有望な市場がない状態になっている。二枚舌外交の英国などは、中国に制裁をするふりをして、中国に航空機や軍事部品を売り続けている。米国が武漢のウイルス研究所に裏でカネを出しているのと同じ構図である。まったく、茶番もいいところだ。
筆者はバイデン政権が誕生すれば、米国の衰退が加速すると述べてきた。マスコミや世間が、「中国はとんでもない」、「中国はけしからん」と言っている間に、中国はどんどん覇権国家として台頭していくだろう。米国も欧州も日本も、独裁国家の中国に対して具体的になにもできないからだ。この状況が煮詰まってくると、やがて戦争に発展する可能性が高まる。
世界を見つめてごらん。きっとキミの信じているものすべてが壊れていく時が迫っている。
米国の「帝国のサイクル」の現在の位置
米国と中国の帝国のサイクル
帝国の相対的な地位の見通し
6月16日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
6月16日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、永倉弘昭さん(楽天証券FX事業部長)をゲストにお招きして、「ここからの為替相場とドルの長期見通し」というテーマで話をしてみた。人生で成功する秘訣、それは機会が訪れたときのため、万全の備えをしておくことだ。放送をぜひ、ご覧ください。
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。
6月16日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
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6月25日(金)19:00〜20:30
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出演者:永倉弘昭氏、石原順氏、大里希世氏
(石原 順)
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