米株式金融相場クライマックス乱戦 7大Q&A
トウシル / 2021年7月23日 6時0分
米株式金融相場クライマックス乱戦 7大Q&A
今回のサマリー
●【Q1】金融相場はいつまで?:今後3~6カ月が一つのメド
●【Q2】金融相場の最後は暴落?:2021年初めごろに懸念されたリスクは軽減
●【Q3】金融相場を終わらせる引き金は何?:FRBより、雇用・インフレ指標を警戒すべきかも
●【Q4】金融相場の後は?:定石通り、業績相場への軌道継続を想定
●【Q5】グロース、バリュー、指数、狙い目は?:銘柄・テーマ間の跛行(はこう)、短期波動に対応して選別
●【Q6】投資家はどう対応?:短期投資に理あり。中長期投資の利益確定はリスクと税金を比較考量
●【Q7】日本株はどうなる?:ワクチン接種進展での挽回が、米金融相場の終幕に重なるリスク
コロナ禍の米株式の金融相場は、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和解除にそろり動き出そうかというステージに入り、不安定な値動きを強めています。投資家は、情勢をどう読み、どう展望し、どう対応したらよいか、最も多い質問を7つに整理します。
【Q1】金融相場はいつまで?
通常の景気サイクルにおいて、金融相場の終わりは、文字通り、FRBの金融引き締めへの転換でした(図1)。今回もその基本パターンは変わりません。
しかし、投資家の予想を難しくする事情があります。コロナ禍に対応した未曽有の金融緩和で超ド級の金融相場になった後、ワクチン接種の進捗、突飛(とっぴ)な財政政策によって、経済の回復が加速しています。
ところが、経済正常化への道筋は相当なデコボコ道になっており、経済指標やインフレ統計が攪(かく)乱的に振れています。FRBは、景気回復の不確実性に対応して、金融緩和継続による強力な経済のサポートを約束する一方、未曽有の金融緩和の解除へのステップも考え始めています。市場は、このデコボコ道でFRBの政策転換の時期をピンポイントで捉えにくく、折々に疑心暗鬼を強めるでしょう。
筆者は、FOMC(米連邦公開市場委員会)が9月には2022年早々のテーパリング開始を決めるとみています。そして、米雇用の増加ペースが上がって、株式市場が、利上げ時期の前倒しを懸念するのが10~12月期。ここが金融相場に一区切りをつけるメドと想定します。
図1: 米景気サイクルとコロナ禍経路(イメージ)
【Q2】金融相場の最後は暴落?
金融相場が反落に転じる原因は通常、FRBの金融引き締め転換とされます。
しかし、相場下落の衝撃度は、市場の内部要因に影響されるところが大きいのです。金融緩和でだぶつくマネーが株式などリスク資産に流れ込み、相場が上昇すると、投資ポジションが積み上がり、含み益を膨らませます。投資家が、経済や政策の変化を見て、利益確定売りをしようと動いて相場が下がると、次から次へと売り逃げが連鎖し、パニック的に広がり、相場下落を加速させる展開が過去に何度も観察されてきました。
2021年初めには、コロナ禍の超金融緩和がもたらした超金融相場は、終局でそれ相応の下落を免れまいとするのがメイン・シナリオでした。しかし、ワクチン接種の進捗、バイデン米政権の突飛な経済対策の発動を受け、最も大きな含み益を抱えていた超値がさグロース株群が、早くも2月に急反落(図2)。巨額含み益ポジションが早めに調整されて、相場暴落への圧力は部分的にせよガス抜きされたと言えるでしょう。
来る金融相場の終幕は、そこまでの相場の再上昇の程度に応じた反落リスクが生じ得るものの、年初に懸念された相場下落の衝撃度に比べれば、かなり軽減化されているでしょう。
図2:超値がさグロース株ETFがいち早く下落
【Q3】金融相場を終わらせる引き金は何?
金融相場を終わらせる直接のきっかけ要因は、言うまでもなく、金融政策の引き締め転換です。ただし今回、景気回復の不確実性、コロナ禍克服過程での一時的インフレ高伸の着地点の不透明感から、FRBも前例のない道を是々非々で進まざるを得ない状況です。
政策転換のポイントは、FRB自身にも、市場にも見極めがつかず、疑心暗鬼の相場が折々に神経質に揺れ動く見込みです。疑心暗鬼は、相場自体に含み益という相場下落の動因が積み上がること、そこに雇用統計の増勢、過渡的インフレ一巡後の真性インフレの兆候がどのような巡り合わせになるかを警戒しています。
なお、相場下落要因として新型コロナ変異株の蔓延(まんえん)リスクも無視できませんが、これは金融相場を終わらせる要因ではなく、景況・市況をひどく悪化させれば、金融緩和を再強化させるとして区別しています。
【Q4】金融相場の後は?
通常のサイクルでは、金融相場の次に来るのは業績相場です。
今回は、金融相場が超ド級であったこと、景気回復が急加速して業績相場の色合いも強烈に重なっていること、ハイテクなど特定分野でポスト・コロナへの高い成長軌道に入っていることで、通常サイクルのこうした局面分けが明瞭でなくなっています。その分、多くの領域で株高が進行し、既に割高との懸念も付きまといます。
もっとも、割高な金融相場の下落が大きくなっても、2022年に中間選挙を迎える米国では、政治的に景況・市況悪化を放置することはないでしょう。政策サポートのスムージングが図られ、底堅い業績相場の軌道は維持されるとみています。
【Q5】グロース、バリュー、指数、狙い目は?
金融相場は終盤に入り、超値がさグロース株群が先んじて大幅調整されたことで、相場トレンドは2020年対比でかなり傾斜を低くしています(図3)。
図3:米株式相場トレンドの傾斜が低下
その中で、株式相場の先導役が地味な景気・バリュー株に移りましたが、調整一巡のグロース株が復調の様相を見せ、さまざまな狙い目が錯綜(さくそう)しています。そこに経済・インフレ指標の撹乱(かくらん)、金融政策の思惑が絡んで、株式の銘柄・テーマ間の相場の跛行やシーソー展開を交えた短期波動が大きくなっています。その巡り合わせを狙う短期投資も妙味が大きいのですが、そんな難しそうな相場は敬遠したいと考える投資家も少なくないでしょう。
そういう場合、例えば、ハイテク系グロース銘柄の比重もある程度高いS&P500種指数ETF(上場投資信託)で、相場の基調を捉えるのも一案です(図4)。実際、最近数カ月は最も安定的な相場軌道をたどりました。
もう少しリスクをとって高収益を狙いたいという投資家には、S&P500種指数のレバレッジ型ETFも一考でしょう。
図4:ハイテク系グロース株 対 S&P500
【Q6】投資家はどう対応?
相場の成功則はトレンド初期~中盤までに追い風に乗り、そのポジションをできるだけ長く保持すること。しかし、金融相場も終盤になって参入する場合は、短期投資の理が大きくなります。相場の一山も中腹以上の高値で買うことになるうえ、2021年のように相場トレンドの傾斜が低くなり、短期波動が多くなると、含み損益が頻繁に変転しかねません。
他方、2020年中に比較的低コストでの購入分は、中長期投資のためのお宝ポジションにもなるでしょう。中長期投資家にとって、当面最大の関門は金融相場の変節場面です。2021年初めに想定されたほどの相場下落にならないとすれば、まずお宝ポジションを保持し続ける選択肢を検討します。相場下落を警戒する場合は、その下落リスクの大きさ、含み益へのダメージ、利益確定売りした場合の税金を比較考量する必要があります。
なお、今ここから新規参入する場合、ご法度は相場終盤戦の高値水準でまとめて、中長期目的で巨額投資をすること。短期対応か、やがて来る相場下落を見ながら時間分散購入を進めることが基本と考えます。
【Q7】日本株はどうなる?
コロナ禍の大相場で、日米株式それぞれの代表指数を見ると、日経平均株価、TOPIX(東証株価指数)が米国のダウ工業株30種平均、S&P500をアウトパフォームしたのは、2020年11月から3カ月ほどの短い期間です(図5)。新型コロナ・ワクチンの開発に成功し、早期に接種が始まり、世界経済の正常化へ期待が高まり、グローバルに割安資産の物色が進んだ場面です。
景気循環銘柄と位置づけられる日本株の優勢は、世界経済の見通し良好な時に、割安銘柄としてキャッチアップする場面に限られがちです。今後は欧米に対してワクチン接種の遅れを挽回する過程での日本株の浮揚へ期待も聞かれます。
しかし、それが今後3~6カ月とすれば、米金融相場終幕のキナ臭い場面と重なる恐れがあります。米株式相場の下落時に日本株が強くなることは到底想定できないでしょう。
図5:日本株がアウトパフォームした場面は?
以上、筆者がさまざまな場面で解説している金融相場終盤の基本、展望、対応を7つのQ&Aにまとめました。決して簡単な相場ではない一方、2020年のようにただ買えば、何も考えなくても短時間のうちに大きな収益が生まれる展開と異なり、相場のメカニズムを習得する格好のステージです。自らの投資力を磨きたいと考える投資家にとって、理解の一助になれば幸いです。
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(田中泰輔)
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