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中国大企業を直撃?習近平の「共同富裕」構想はマーケティング戦略だ!

トウシル / 2021年9月9日 6時0分

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中国大企業を直撃?習近平の「共同富裕」構想はマーケティング戦略だ!

 8月、習近平(シー・ジンピン)総書記が提唱した「共同富裕」構想が物議を醸しています。

 この目標は「社会主義中国」に符合し、成長の陰で広がった経済格差の是正には大義名分を見いだせる一方、富める実力者、稼げる大企業を締め付け、「市場経済中国」が停滞するリスクをはらんでいます。

「共同富裕」は何を意味するのか、中国経済はどこへ向かうのか、今回は読み解いていきます。

習近平は「共同富裕」をどう語ったのか?

 8月17日、習近平総書記が主任を兼任する中央財経委員会が第10回会議を開き、「共同富裕は社会主義の本質的要求である」と審議しました。

 中国はマルクス主義を指導思想とする社会主義国。本来、「みんなで一緒に豊かになる」ことを国家建設の目標にしていますから、「共同富裕」という概念、提起自体は決して目新しいものではありません。

 習総書記自身、第1次政権時(2012~2017年)の時点で、「共同富裕とは、マルクス主義の基本的な目標であり、わが国人民にとっては、有史以来基本的理想である」(2016年1月18日、省長・部長級主要幹部向けの研修会での談話)などと公言しています。

 とはいえ、今回の「共同富裕」は政治的重要性という意味で次元が異なります。

 習総書記自らがトップ(主任)を務め、李克強(リー・カーチャン)副主任、王滬寧(ワン・フーニン)委員、韓正(ハン・ジェン)委員、そして汪洋(ワン・ヤン)全国政治協商会議主席と、7人いる政治局常務委員のうち、5人が会議に参加し、会議自体も「共同富裕という問題を堅実に推し進めるための研究」を最優先テーマに据えていたからです。

 この意味で、習近平政権として、「共同富裕」を前代未聞の次元で重視していることは事実だといえます。

 では会議が、「共同富裕」についてどう語ったのか。具体的に見ていきましょう。

「共同富裕は人民全体の富裕である。人民の物質的、精神的生活の富裕である。少数の富裕ではなく、画一的な平均主義でもない。段階を踏んで促進するのが共同富裕である」

「人民を中心に据える発展思想を堅持し、高質量発展の中で共同富裕を促進すべきだ。効率性と公平性の関係を正しく処理し、第1次分配、再分配、第3次分配を協調させる基礎的制度を構築すべきだ」

 議論を呼んだのが、「第3次分配」という提起です。効率性を重視し、市場主導で行われる第1次分配、公平性を重視し、政府主導で行われる再分配に続く第3次分配とは、道徳性や公益性を重視し、社会主導で行われるというのが、中国当局の解釈のようです。

 会議は「共同富裕とは社会主義にとって本質的要求」だと明確に主張しています。裕福になった個人や、収益を上げた企業は、積極的に富や財を社会に還元し、低所得者や貧困層に寄り添うことで、「共同富裕」の実現に貢献していくべきだというのが会議の主張にほかなりません。

 ここで中国経済発展の歩みを簡単に振り返ります。

 1970年代後半に始まった改革開放以降、鄧小平(ダン・シャオピン)が提唱した「先富論」に基づき、まずは一部の人たちを優先的に富ませ、それから残った人たちを富ませるべく動く政策が取られました。

 これは、10億人以上の人口を抱える巨大国家を、一律、いっせいに富ませることは不可能であるという前提から、段階を踏んで豊かさを実現することを目標としていました。

 そのために、鄧小平は米国や日本といった西側先進国との関係を安定的に管理しつつ、資本や技術といった分野で外国企業の力を借り、これを使いながら、中国の近代化を推し進めてきたのです。

 2010年にはGDP(国内総生産)で日本を追い抜き、共産党結党百周年を迎えた現在に至っては、経済、軍事、科学技術などあらゆる分野で超大国米国と肩を並べるべく、対等に付き合うべく野心をむき出しにしています。中国はもはや「外国の力など必要ない」「米国に対しても言うことは言っていく」「中国人をなめるな」と吠えているようにすら映ります。

 このタイミングでの「共同富裕」の提起は、裏返せば「先富論」の放棄であり、それはすなわち、鄧小平時代への決別、習近平時代の一つの幕開けを示唆しているというのが私の分析です。

中国企業は「共同富裕」にどう対応しているか?

 市場や投資家はいま、「共同富裕」が富裕層や大企業を震撼(しんかん)させ、中国経済の先行きに暗雲が立ち込めるのではないかと懸念しています。

 中国当局も、自らの政策が引き金となり、市場サイドを不安にさせていると自覚しているようです。

 例として、8月26日、今回の会議を主催した中央財経委員会の韓文秀(ハン・ウェンシュウ)副主任は、中央宣伝部が主催した記者会見にて、次のように語っています。

「共同富裕は、富裕層を圧迫することで貧困問題を解決しようというものではない。第3次分配は自らの意思によって行われるもので、強制的ではない」

 確かに、会議は、「共同富裕」実現、第3次分配実行の過程は、強制性を伴うものではないと暗示はしています。次の段落を見てみましょう。

「高収入者への規範と調整を強化し、法に基づいて合法的収入を守り、高すぎる収入を合理的に調整し、高所得グループと企業が社会により多く還元することを奨励する。不合理な収入を規範的に清算し、収入分配の秩序を整頓し、非合法な収入を断じて取り締まる」

 私の中国共産党理解からすれば、とりわけ政治の経済、党の市場への締め付けが厳しい習近平時代において、「奨励」とは、限りなく「要求」に近いものです。

 そして、この段落は明確に、「高すぎる収入」「高所得者グループと企業」を対象に「奨励」している。故に、特に中国という強大経済、巨大市場を背景に急成長し、高収益を上げてきた企業は、「共同富裕」の提唱を前に焦燥感を抱き、対応を急いでいるのでしょう。

 特に、最近、市場の独占禁止、サイバーセキュリティー審査、上場規制といった規制強化策の対象となってきたIT、イノベーション系企業は、ただでさえ当局から目を付けられているという経緯を考慮してか、「共同富裕」「第3次分配」を機に、当局に恩を売るべく躍起になっているようです。

 例として、中央財経委員会から間もない8月中旬の段階でテンセント9月初旬にアリババが、それぞれ1,000億元(約1兆7,000億円)を「共同富裕」のために資本を投入する旨を公表しました。

 この1,000億元という金額ですが、テンセント社の2021年上半期(1~6月)の純利益、アリババ社が持つ流動資産の5分の1に相当する額です。単なる「寄付」とは言えないレベルの額であるのは論を待たないでしょう。

 参考までに、2025年までにこの1,000億元を投入するというアリババは、9月2日、「共同富裕に助力するための10大行動」を発表しました。

(1)科学技術分野への投資を増加し、未発達地域のデジタル化建設を支える
(2)中小、零細企業の成長を支える
(3)農業産業化建設に助力する
(4)中小企業の海外進出を支持する
(5)高質量雇用に助力する
(6)非正規雇用者の社会福祉・保障を助ける
(7)地方のデジタル生活の均等化を促進する
(8)デジタルギャップの縮小、低所得者層へのサービスと保障を強化する
(9)基層レベル・地方における医療能力の向上を支持する
(10)200億元の共同富裕発展基金を設立する

 同行動計画の発表に際し、アリババは「時代の発展の受益者として、我々は堅く信じている。国家が好(よ)くなり、社会が好くなり、アリババは初めて好くなる。我々は、高質量発展の中で共同富裕を実現するために、微力ながら貢献していきたい」と党や人民に向かって宣言しています。「共同富裕」への呼応と行動という意味で、アリババとテンセントは決して例外ではありません。

 8月24日、電子商取引企業の拼多多(ピンドュオドュオ)は100億元(約1,700億円)の農業科学技術プロジェクトを立ち上げました。

 同じく電子商取引企業の美団(meituan)の王興(ワン・シン)CEOは、8月30日に開催した財務報告会議において、「共同富裕は美団のDNAに根差している。“美は”better、“団”はtogetherを意味している。美団とは、“一緒によりよく”を意味しているのである」と説明。これに続いて、8月31日、インターネット企業の58同城の姚劲波(ヤオ・ジンボ―)CEOは「58同城の名前は“共同富裕”を意味している。我々の主な事業は、人民に奉仕することである」と語っています。

 8月25日、金融、不動産、鋼鉄、ヘルスケア事業に従事するフォーソン・インターナショナル(復星国際有限公司)の会長で、全国人民大会代表を歴任するなど政治的にも影響力がある郭広昌(グオ・グアンチャン)会長は、同社がこれから自身の産業的優勢を発揮し、中央会議が提起した共同富裕という提唱に呼応していく立場を表明しました。

 そして、医療、健康産業などを通じて農村振興を促進し、教育、文化、雇用といった分野でも公益性の高いプロジェクトを推し進めることで、格差是正に尽力し、共同富裕の実現に貢献していくとしています。

日本企業はどう動くべきか?壮大なマーケティング戦略

 中国強大経済の荒波に乗って闘っていくという意味で、日本企業にとっても「共同富裕」はひとごとではありません。

 上記の中国企業がこぞって行動を起こしているのを、指をくわえて眺めているわけにはいかないでしょう。中国という巨大市場で財を成してきたのであれば、これからはそれを中国の低所得者層や中産階級が富めるように使っていくべきだ、中国社会に、中国人民に恩返しすべきだというのが共産党指導部の「奨励」にほかなりません。

 私が知る限り、日本企業はこれまで、ある意味中国企業以上に、中国現地社会、住民とのつながりを大切にしてきました。

 他の外国企業に勝るとも劣らないほど従業員を大切にする、地元密着型のイベントスポンサーになる、農村部の希望小学校に寄付するなど、まさに「共同富裕」「第3次分配」に貢献する、公益性の高い事業に長年取り組んできています。

 これらの取り組みは、中国当局から高く評価されているものの、昨今の情勢を前に、意識やアプローチを一定程度修正する必要があるとも考えます。

 上記のアリババの「10大行動」計画にも色濃くにじみ出ているように、デジタル化、中小企業支援などは、同社がBtoCビジネスを推し進める中で重視している分野です。

 同会議後、アリババやテンセントの従業員と話をしてきましたが、政権側から「共同富裕」が提唱されてからというもの、寄付や慈善事業をやっていこうという雰囲気ではなく、あくまでも、長期的な視野でビジネスにつながるような仕組みで党・政府の「奨励」に乗っかる、むしろ、それを利用しようというのが社内の態勢のようです。

 言うまでもなく、中国という強大経済にとっての最大の魅力は市場の巨大さ、そして購買力や消費欲旺盛な人々の存在であり、生活です。中国には約4億人の中産階級がいるというのが当局の立場ですが、この階級に属さない、同会議が提起する「低所得者層」は少なく見積もって6億~8億はいるでしょう。同会議は、「共同富裕」という国策によって、一人でも多くの低所得者層が中産階級の仲間入りできるようにすることを目標に掲げています。

 企業にとってみれば、「共同富裕」への対応と行動を通じて、当局に恩を売るという政治的動機以上に大切なのが、世界第3位の人口に相当する中国低所得者層への発信だといえます。

 それは言うまでもなく、自社にとっての潜在的顧客を開拓していくことにつながるからです。習近平政権の「共同富裕」を、壮大なマーケティング戦略と捉えるべき、というのが私の考えです。

(加藤 嘉一)

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