1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

混乱収まらず。金(ゴールド)・原油市場はイベント通過後もう一段高に!?

トウシル / 2021年11月9日 7時52分

写真

混乱収まらず。金(ゴールド)・原油市場はイベント通過後もう一段高に!?

OPECプラス会合、FOMC、COP26、G20。通過したイベントを総括する

 先週は、実にあわただしい1週間でした。OPECプラスの会合、FOMC(米連邦公開市場委員会)、COP26、G20など、世界規模の影響を生む会合が相次ぎ、各分野の当事国が、原油生産、金融政策、環境対策などについてそれぞれ話し合い、今後の方針を示しました。

図:2021年10月末から11月初めに行われた主な会合 [1]

出所:筆者作成

 11月4日(木)、大きな関心が集まった「第22回OPEC・非OPEC閣僚会議」が行われました。OPECプラスは、「追加増産せず」「主要国の要求に応じず」という、従来の方針を堅持しました。

 その前日、11月3日(水)、2日間にわたったFOMCが終了しました。会合後の会見で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、「11月から資産の買取り額の減額(テーパリング)を開始する」「利上げは今のところ想定していない」と、おおむね予想通りの発言をしました。

 その前日、11月2日(火)、2日間にわたったCOP26の「ワールド・リーダー・サミット」が終わりました。参加した国の代表団たちは、温室効果ガス削減目標や、火力発電向けの石炭消費量を削減する方針を確認しました。さらにバイデン米大統領は「メタン」の削減の必要性について、言及しました。

 その前々日、10月31日(日)、2日間にわたったG20サミットが終わりました。バイデン大統領は「原油高」をけん制すべく、主要産油国へ増産を要請したり、さらなる温室効果ガス削減を主要国に呼びかけたりしました。

 このように先週は、複数の世界規模の影響を生む大きなイベントを通過したわけですが、これらのイベントは市場に何を残したのでしょうか。新たに生じたもの、程度が大きくなったもの、さまざまなものが挙げられます。

図:2021年10月末から11月初めに行われた主な会合 [2]

出所:筆者作成

 4つの会合は、「原油」「脱炭素」「米金融政策」の3つのテーマで結ばれています。上図のとおり、これらのテーマは「産油国と消費国の間の溝が深まった」「脱炭素を巡る主導権争いがさらに激化した」「メタン削減が及ぼす負の影響を認識しなければならなくなった」「ドルキャリー取引の逆流が発生する懸念が強まった」など、さまざまな懸念を残したと、言えます。

誤解を生んだ「サウジ1,000万バレル増産」報道

 3つのテーマの1つ、「原油」について考えます。OPEC・非OPEC閣僚会議の日、「サウジが原油生産量を日量1,000万バレルまで引き上げる」という、報道が流れ、原油相場が一時、急落しました。

 かねてから日本や米国などが要請していた追加の増産を、サウジが実現してくれる、というムードが強まったためです。しかし、その報道は、半日程度経過すると、誤解だったことが市場に伝わり、再び、原油相場は反発し始めました。

図:サウジとロシアの原油生産量の上限 

出所:OPECの資料をもとに筆者作成

 上図のとおり、12月はサウジだけではなくロシアも、「日量1,000万バレル」を生産量の上限とすることができるようになります。この「日量1,000万バレル」は、夏以降、毎月日量10万バレル強、計画的に生産量を増加させてきた延長線上にある量です。

「サウジが要求をのんだ」「1,000万バレルとは、すごい量だ」などの思惑が広がるのも分からなくはありませんが、実態としては、計画的な生産増加の流れでそうなった、という話でした。

 ある主要メディアは、計画的な生産増加による上限1,000万バレル到達を、日米などの追加増産要請に対する「ゼロ回答」としました。確かにそのとおりです。サウジは消費国の要求をのんでいません。(こうしてOPECプラスから過剰な増産がなされない点は、原油相場の高止まり・上昇要因です)

 バイデン米大統領が、G20でOPECプラスの主要産油国らに対し、「追加増産」を要請しましたが、同じ週の木曜日に「ゼロ回答」が返ってきたわけです。かえって、このことがきっかけとなってか、逆にOPECプラスは米国に対して「増産」を提案したと報じられています。

 その米国の原油生産量は以下のとおりです。昨年の新型コロナショック後、原油生産量は減少したまま、回復していません。ハリケーン襲来による短期的な減少・停滞の影響ではなく、1年以上、回復していない状況が続いています。

図:世界トップ3の原油生産量

出所:JODIのデータをもとに筆者作成

 昨年春に発生した原油相場の急落時に、複数のシェール企業が破綻し、それ以降、開発が鈍化しています。以前の「景気停滞+物価上昇、原油と金(ゴールド)は、次の大台へ向けて上昇へ!?」で述べた通り、米シェール主要地区の開発関連指標は、原油価格の反発に大きく遅れをとっています。

 米国は、温室効果ガスの削減目標を上乗せしたり、他国にさらなる削減を呼びかけたりするなど、「脱炭素」を強力に推進しています。その米国の石油開発が活発化していた場合、他国にはどう映るでしょうか。はたから見れば、自己矛盾に陥っているように見えるでしょう。

「脱炭素」を強力に推進するからこそ、増産をしない(できない)のだと、考えられます。このように考えれば、OPECプラスが米国にした「増産」の提案も、実現する可能性は低いと言えるでしょう。(この点もまた、原油相場の高止まり・上昇要因です)

メタンにも触手が伸びた「脱炭素」

 いよいよ「脱炭素」は新しい段階に入りました。「メタン」が、積極的に削減するべき、温室効果ガスとなることを、バイデン米大統領が提案したためです。「メタン(CH4)」は、以下の通り、二酸化炭素(CO2)に次いで排出量が多い、温室効果ガスです。

図:温室効果ガス排出量全体に占める各種ガスのシェア(2018年)

出所:Climate Watchのデータより筆者作成

 大気中に残存する年数や、海水などに吸収される度合いが異なるため、単純比較はできませんが、「どれだけ温室効果があるのか」について、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化係数という目安を示しています。

 上図内のとおり、メタン(CH4)の温室効果は、二酸化炭素(CO2)の25倍です。二酸化炭素に比べて排出量が少ないとはいえ、決してメタンを軽視することはできないでしょう。さらに温室効果が高い一酸化二窒素(N2O)を含めて考えても、排出量削減が望まれる温室効果ガスが、二酸化炭素だけではないことが分かります。

 このメタン(CH4)ですが、どこで排出されているのでしょうか。下図より、わたしたちの生活に密接な、「食」に関わる分野からの排出が、最も多いことがわかります。

図:メタン(CH4)の起源別排出量(2018年) 単位:百万トン(二酸化炭素換算)

出所:Climate Watchのデータより筆者作成

 以前の「お宅の食卓直撃必至!?穀物・食用油価格が爆騰中!関連銘柄に注目」で述べたとおり、メタン発生源の主要分野は農業です。微生物の活動によって水田の泥から発生したり、家畜の反すう運動(げっぷ)や、排泄物から発生したりします。

 世界の人々(わたしたちを含め)が、お米や肉、乳製品を食べることに、メタン(CH4)が関わっているのです。下図は、メタンの「農業」起因の、地域別の排出量を示しています。

図:メタン(CH4)の「農業」分野起因の排出量 単位:百万トン(二酸化炭素換算)

出所:Climate Watchのデータより筆者作成

 農業分野起因のメタン(CH4)排出で最も多い地域は、アジアです。詳細なデータを参照すると、アジアの地域の中でも、北緯0度(赤道)から30度程度の地域、つまり、インドや中国(南部)、パキスタン、バングラデシュ、そして東南アジア(ミャンマー、タイなど)の国々からの排出量が多いことがわかります。稲作を大規模に行っているため、水田からの発生量が多いと考えられます。

 アジアに次いで多いのが、中南米(ブラジル、アルゼンチン、パラグアイなど)です。牛や豚などの家畜の頭数が多いことが、理由に挙げられます。

 アジアのお米も、中南米の食肉も、スーパーマーケットに行けば容易に購入することができ、口にすることができます。こうした食材がメタン(CH4)と関わりがあるわけです。

 農業に次いで、メタンの排出量が多い分野は、「燃料からの漏出」です。Fugitive Emissionsと呼ばれる分野で、石炭や石油、天然ガスの生産・処理・輸送の際に排出されます。化石燃料を生産したり、精製したり、輸送したりする場面で、メタン(CH4)が排出されるのです。

 下図は、メタンの「燃料からの漏出」起因の、地域別の排出量を示しています。

図:メタン(CH4)の「燃料からの漏出」分野起因の排出量 単位:百万トン(二酸化炭素換算)

出所:Climate Watchのデータより筆者作成

 ヨーロッパ(石油や天然ガスの生産量が多いロシアや、旧ソ連の産油国が中心)が最も多く、次いで、アジア(化石燃料の輸入・消費が多い中国やインド、石油の生産量が比較的多いインドネシア、マレーシア)からの排出が多いことがわかります。

 COP26のリーダーズ・サミットで、バイデン米大統領が提唱した「メタンの削減」は、米国国内の農家の方々や化石燃料に関わる業界にも、影響を及ぼすと考えられますが、農家の方々へは補助金を出すと、バイデン氏は発言しています。

 先述の通り、「メタン削減」の件は、「食」に関わる話です。補助金が付されて生産量が減少した場合、食肉の価格が上昇する可能性があります。

 人類は今、ガソリンや軽油由来の二酸化炭素(CO2)排出量を減少させるため、電気自動車(EV)を増やすことに心血を注いでいるわけですが、それは、移動手段の代替を作る、すなわち、移動することを諦めない、ことを前提としています。

 ではメタン(CH4)はどうでしょうか。食肉の代替として、大豆などの植物由来の「代替肉」がそれにあたりますが、今のところ、コストや技術などの問題も残っていますし、何より「味」の代替は不可能(本物の肉の味を諦められない)、と感じる人もいるかもしれません。

 食べ物の代替品を一般化させることの難易度は、移動手段の代替品を一般化させることよりも、高いと感じます。この点は、「メタン削減」を加速させるために、避けてはとおれない課題と言えるでしょう。過剰に「メタン削減」を推進した場合、社会的混乱が発生する可能性すら、あるかもしれません。

バイデン氏の行動が、コモディティ市場全体を左右する!?

 はじめに、先週開催された4つの会合は、「原油」「脱炭素」「米金融政策」の3つのテーマで結ばれており、これらのテーマは「産油国と消費国の間の溝が深まった」「脱炭素を巡る主導権争いがさらに激化した」「メタン削減が及ぼす負の影響を認識しなければならなくなった」「ドルキャリー取引の逆流が発生する懸念が強まった」など、さまざまな懸念を残したと、書きました。

 こうした懸念の源泉は、何なのか? と問うと、ふと、米国(バイデン大統領)というキーワードが浮上します。以下は、4つの会合で重要なテーマとなった「原油」「脱炭素」「米金融政策」と、米国(バイデン大統領)との関係を示したものです。

図:足元の不安要素の起源

出所:筆者作成

「OPEC+に追加増産をさせられない」「OPEC+から、逆に増産を提案される」「メタン削減を提唱した」「中印などに、温室効果ガス排出削減を要求した」「テーパリングを開始した」など、各所で不安・懸念を生じさせるきっかけとなったのは、米国でありバイデン大統領である可能性が高いと、筆者は考えます。

 世界が良い方向に向かうことを前提に、彼らは尽力していると信じています。今はまだ、彼らの尽力が実を結ぶまでの、過渡期であるため、不安や懸念が生じるのは、無理もありません。ただ、会合が続いたからとはいえ、やや性急だった感も否めません。

 バージニア州知事選での民主党議員が敗北する前から、具体的には、米軍のアフガニスタン撤退を実行した夏以降、バイデン氏の支持率低下・不支持率上昇が目立ち始めています。来年の中間選挙のためにも、何とか立て直しを図らなければなりません。

 そのためには、強いリーダーシップを発揮することが必要で、先週1週間は、バイデン氏にとって強いリーダーシップを発揮するチャンスだったわけですが、週明けも、OPECプラスの思惑通り、原油相場が上昇している点や、不安拡大を受けて金(ゴールド)相場が上昇している点を考えれば、OPECプラスとの交渉がうまく進められなかった、さまざまな不安が拡大した(拡大させた)1週間だったと言えそうです。

図:バイデン米大統領の支持率・不支持率

出所:Real Clear Politicsのデータより筆者作成

 今のところ、先週のように、性急に不支持率を低下させる行動をすると、市場は逆の反応を示す傾向があります。こうした行動は、週明けの各種市場が示すとおり、原油高・食品高・金(ゴールド)高につながります。(「メタン削減」発言前後、米国の生牛先物価格が大きく上昇している)

 今後も、バイデン氏の行動と、コモディティ市場全体の推移に、要注目です。

※年内の原油、金(ゴールド)、銅の価格見通しについて、以下で述べています。ご参照ください。

年内の価格見通し。金(ゴールド)、原油、銅が「脱炭素」で値上がりするワケ

[動画で解説]年内の価格見通し。金(ゴールド)、原油、銅が「脱炭素」で値上がりするワケ

[参考]コモディティ全般関連の具体的な投資商品例

投資信託

eMAXISプラスコモディティインデックス

SMTAMコモディティ・オープン

iシェアーズコモディティインデックスファンド

ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド

DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)

DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)

外国株

iPathピュア・ベータ・ブロード・コモディティ(BCM)

インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド(DBC)

iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)

iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(GSG)

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)

(吉田 哲)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください