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6中全会で「文化大革命」完全否定?習近平の野望の行き先

トウシル / 2021年11月18日 6時0分

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6中全会で「文化大革命」完全否定?習近平の野望の行き先

 先週、第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)が4日間の日程で開催され、11月16日、「党の百年にわたる奮闘の重大な成果と歴史経験に関する決議(歴史決議)」の全文が公表されました。

 中国共産党史上3回目となる歴史決議、この中身から透けて見える習近平(シー・ジンピン)総書記の思惑と中国の現在地は? そして来年2022年の党大会にどう向かっていくのか? 今回解説します。

習近平の思惑は「歴史決議」のキーワードに表れる

 6中全会開会中に「中国6中全会はなぜ重要なのか?習近平3期目突入への布石」と題して配信した先週のレポートで、次の点を提起しました。

「毛沢東(マオ・ザードン)、鄧小平(ダン・シャオピン)に次ぐ「第3世代」の指導者として、歴史的地位を政治的に確立すること。これこそが、習総書記が中国共産党百周年という節目の年に「歴史決議」の採択を試みるマクロ的動機といえますが、ミクロ的動機もあるのです。それは、第3期目への挑戦であり、最高指導者として2期10年を終える2022年秋第20回党大会以降の続投です。」

 6中全会が閉幕し、コミュニケ(公報)と「歴史決議」全文が公表された現在に至っても、この「歴史決議採択の動機は習近平が来年の第20回党大会以降も続投を狙うこと」という考えに変わりはありません。むしろ、強くなりました。

 例として、約7,400字から成るコミュニケには「2022年下半期に第20回党大会を北京で開催する」という一文が明記されています。

 この事実は重要です。習氏の権力基盤が一層強化されている現状を物語っているからです。「仮に歴史決議採択が党内で物議を醸し、習氏の狙いに反対する声が強かったのであれば、1年先の党大会について言及などしない」(党幹部)といえます。

 約3万6,000字という長文の「決議」全文は7つのパートから成り、一言で言えば、中国共産党百年の歩みを振り返り、その紆余曲折に満ちた歴史的意義・経験を総括するものです。

 そして、中国共産党はなぜ、マルクス主義という根源的指導思想に基づき、中国独自の社会主義の道を選び引き続き実践していくのか、これらの問いに歴史的根拠、および正当性を与える内容になっています。

 私は、歴史決議のような重大公文書や最高指導者の重要談話が発表される際、その中にあるキーワードを一定の基準に沿って抽出、その使用頻度を見ています。これにより中国共産党が何を考え、中国をどこへ導こうとしているのか毎回分析します。今回は次のような結果でした。

キーワード 出てくる回数
毛沢東 18
鄧小平 6
江沢民 1
胡錦涛 1
習近平 22
マルクス主義 28
社会主義 156
中国の特色ある社会主義 59
共産党 49
新時代 47
中華民族の偉大なる復興 28
改革開放 40
民主 48
自由 6
法治 49
市場 11
闘争 50
注:筆者作成

 次は習氏の思惑や立場をめぐって3つの点を指摘します。

(1)習近平の目標は毛沢東超え

 習氏が肩を並べようとしているのは毛沢東であるということ。用語以外に各指導者の時代に言及した字数は、毛沢東5,565字、鄧小平617字、江沢民279字、胡錦涛212字(これ以外に鄧、江、胡3氏が統治した時代をまとめて描写した部分に2,718字)、習近平1万9,555字。

 歴史決議は習氏が自らの政権正統性を強化するために採択する決議であり、字数を多く割くのは当たり前といえば当たり前。しかし、先週のレポートでも示唆した通り、中国には実質的に、毛沢東、鄧小平、習近平という3人の歴代最高指導者しかいないこと、そして自らは鄧氏ではなく毛氏に近く、今後の展開次第では毛氏をも超える指導者になるのだという強い意志を感じさせる。

(2)中国はますます「中国化」

 中国共産党あっての中国であり、「マルクス主義の中国化」を意味する中国独自の社会主義を堅持し、闘争の結果として、中華民族の偉大なる復興という強国への道を習近平新時代でつかみ取ろうとしている。

(3)改革開放は進めるが、価値観は一層かい離

 政治体制やイデオロギー、発展モデルがますます「中国化」する傾向にある中、それでも改革開放を堅持していかなければ中国は政治、経済を含めて国際社会とは共存できないと考えていること。

 そんな中国が定義、追究する自由、法治、民主主義といった価値観は西側諸国における普遍的価値観とは似て非なるものである。これが「市場とはどうあるべきか?」をめぐる中国―他国間のギャップにもなる。

習近平が文化大革命を完全否定!天安門事件の評価は?

 政権3期目突入をもくろむ習氏ですが、中国共産党内部でのバランス感覚、特に強権的な習氏の政治スタイルや政権運営に疑問を投げかける「見えない政敵」への配慮が、「歴史決議」全文に示されていたことは、特筆に値します。例を挙げて解説します。

文化大革命を“完全否定”

 まずは次の部分です。

「毛沢東同志は当時、我が国の階級情勢や党、国家の政治状況に対して完全に誤った見方をし、『文化大革命』を発動、領導した。林彪(リン・ビャオ)や江青(ジャン・チン)という二つの反革命集団は毛沢東同志の過ちを利用し、国家と国民に多大な被害を与える罪悪な活動を行った。結果、10年の内乱を引き起こし、党、国家、人民は新中国建国以来最も深刻な挫折と損失に見舞われた。この教訓は極めて苦しいものである…党は『文化大革命』という重大な決定・政策を徹底的に否定した。40数年来、党はこの路線方針と政策を終始堅持してきた」

 6中全会前夜、一部中国ウオッチャーの間では、習氏が「歴史決議」で文化大革命を実質“美化”するのではないかといった議論がなされていました。ただ、実際は上記のように、毛沢東の見方は「完全に誤っていた」、文化大革命は「徹底的に否定」しなければならないほどの損失と教訓をもたらしたものだったと総括しています。

 習氏に権力が一極集中し、個人崇拝がはびこり、言論の自由が抑圧される政治情勢下で、習近平政権の実行している政策を「第2の文革」と見なす関係者は少なくありません。

 と同時に、昨今の政治状況は、文革を否定することで始まった改革開放の時代から、再び文革時代に引き戻してしまうのではないかという懸念も根強いのです。

 仮に、これらの事態が現実化すれば、国際社会はもちろん、国内の政府官僚、知識人、多くの国民が習氏から離れていくでしょう。

 そこで今回、公に毛沢東の過ちを指摘、文革を否定し、「歴史決議」という重大文書に記録として残したのは、可能な限り自らへの疑問や懸念を払拭(ふっしょく)し、すでに物議を醸している来秋以降の続投を実現するための布石だと考えられます。

天安門事件での歴史的汚点には向き合わず

 次に以下の部分です。

国際的に反共・反社会主義の敵対勢力による支持や扇動を受けた国内外情勢が相互に影響し合い、1989年の春夏が交わるころ、我が国で深刻な政治風波が発生した。党と政府は人民に依拠し、動乱に対して鮮明に反対し、社会主義国家政権と人民の根本的な利益を死守した

 この部分が、1989年6月に発生した天安門事件を指しているのは明らかです。ただ、中国共産党は今になってもその言葉を使わず、上記のような紛らわしい、あいまいな表現で当時の情景を修飾するのです。

 と同時に、これまで同様、当時、民主化を求めて立ち上がった学生や知識人、一般市民たちの欲求や活動を「動乱」と断定し、最高権力者であった鄧小平の指導下で下された、武力をもって民主化運動を鎮圧したやり方を正当化してみせたのです。

 全くもって想定内ですが、やはり文化大革命と天安門事件は別物ということでしょう。

 私自身は、自らの政策によって多くの死者を出した天安門事件に真摯(しんし)に向き合い、その歴史を清算しない限り、中国が真の意味で国際社会、特に西側民主主義国から信頼、尊重されることはない、普遍的な次元・水準において自由化、民主化する日も来ないと考えています。

日中国交正常化50周年の来年。岸田政権の行動力と矜持が試される

 本稿で示してきたように、習氏が共産党結党百周年というタイミングで「歴史決議」を採択した最大の政治的動機は、来秋の第20回党大会、およびそこから第3期政権に突入することにほかなりません。

 上記の文化大革命に関する記述などは、習氏の「反対派」を黙らせるための手段といえます。来年2022年に向け、低迷が心配される経済を持続的にどう改善していけるかは重要なポイントです。しかし、習氏がそれ以上に懸念しているのが、やはり対外関係でしょう。

 特に来年2月には北京冬季五輪が控えています。新疆ウイグルなどの人権問題で五輪参加ボイコットなどが集団的に起これば、習氏の権威に傷が付きます。バイデン政権が外交的ボイコットを通じて北京五輪開催に圧力をかける可能性も否定できません。実際に聖火リレーの道中で、コロナ禍にもかかわらず抗議デモ活動が各地で起こっています。残り3カ月半、予断を許さない状況が続くでしょう。

 その意味でも、15日に行われた習氏・バイデン氏初の米中首脳テレビ会談は、米国との関係を管理・制御可能な範囲でマネージしたい習政権側の意図がにじみ出ているといえます。昨今の米中関係には、協力・競争・衝突という3つの側面が共存していますが、習氏は、競争は認めつつも協力主導で両国関係を管理したい。一方、バイデン氏は、競争を主線と見なし、衝突も辞さない(協力も惜しまない)という姿勢であり、両者の間にはまだまだ溝が深いのです。

 習氏は冒頭、「古い友人」と呼称したバイデン米大統領に笑顔で手を振り、米中が協力していくこと、共に大国としての責任を果たしていくことを訴えました。バイデン大統領もそれに呼応するかのように、競争を衝突にしないよう共に努力すべきだと主張しました。

 私自身は、習近平第3期政権誕生にとって最大の不安要素は米国だと考えています。対米関係は、香港、台湾、新疆ウイグル、人権、共産党一党支配体制、そして中国国内の権力闘争など中国共産党の生存や権威そのもの、そして核心的利益に直結する問題を内包しているからです。

 これからの1年、北京冬季五輪から党大会へと向け、米中関係からますます目が離せません。

 日本にとっても他人事(ひとごと)ではありません。

 来年は日中国交正常化50周年という節目の年。日本としては中国との外交関係も安定的に管理しないといけないのです。

 一方、最優先事項は日米同盟の強化。中国と台湾の「TPP(環太平洋経済連携協定)同時加盟申請」という日本の経済安全保障に関わる複雑な地政学的状況をマネージしていかなければなりません。

 このような状況下で、国民の生命と財産をいかに守っていくか。岸田政権に課せられた世紀の難題であり、2022年、同政権の行動力と矜持が試される1年になるのは必至だと思います。

(加藤 嘉一)

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