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なぜ原油相場はこんなに高くなったのか!?2段構造が読み解くカギ

トウシル / 2022年1月25日 5時0分

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なぜ原油相場はこんなに高くなったのか!?2段構造が読み解くカギ

ビットコイン急落は金融相場終焉の合図

 今年に入り、最も象徴的な値動きを演じている投資対象の一つに、暗号資産が挙げられます。以下のとおり、足元、主要銘柄であるビットコイン、イーサリアム、リップルの価格は、急落状態にあります。

図:主要暗号資産の価格推移 (2021年12月31日=100)

出所:Investing.comデータをもとに筆者作成

 ビットコインは、昨年秋に米国などで先物のETF(上場投資信託)が上場しました。これを機に、現物市場でも資金流入が進み、価格上昇が期待されていましたが、実際は上図のとおり、秋から冬にかけて、下落しています。

 ビットコインを含む暗号資産価格の下落には、いくつか理由がありますが、最も大きな理由は、米国の金融政策の方針が、本格的に引き締め方向に進み始めたことだと、筆者は考えています。暗号資産は、どの国の信用も必要としない「無国籍通貨」です。

 昨年秋ごろから、世界で最も多く使われている通貨「米ドル」の金利や流通量を調節する機関(米国の中央銀行にあたるFRB[米連邦準備制度理事会])が、金利を引き上げる(利上げ)、社会に放出する量を減らす(金融緩和縮小)ことを本格的に議論し始め、一部を開始しました。

 FRBのこうした動きは、米ドルの先高観や保有妙味を醸成すると同時に、相対的に「無国籍通貨」の保有妙味を低下させるきっかけになっていると考えられます。昨年の秋から冬にかけて、暗号資産の価格推移が軟調になったのはこのためです。

 そして、年初から、暗号資産の価格下落に勢い付いたのは、FRBが米ドルを社会から吸収すること(金融引き締め)を検討し始め、これまで以上に、米ドルの先高観・保有妙味が強まったためだと、考えられます。

 ビットコインをはじめとした暗号資産の価格上昇は、「投機筋のなせる業(わざ)。市場全体に強いリスク・オン」という印象がありました。逆に、暗号資産の価格下落は、「投機筋の活動縮小。市場全体に強いリスク・オフ」を強く印象付けています。

 足元の暗号資産の価格急落は、2020年春から2021年後半にかけて発生した、市場全体を覆った「金融相場」が、終わりを迎えた合図であると、筆者は考えています。株価急落の遠因とも言えるでしょう。

金融引き締め開始は「物価高加速」がきっかけ

 ここまで、足元の暗号資産価格の急落は、FRBの金融政策の引き締め傾向が一因で発生した、「金融相場」が終わりを迎えた合図であり、株価下落の遠因であると述べました。では、FRBが金融政策の引き締め傾向を維持・推進しているのは、なぜなのでしょうか。

 以下の図のとおり、今年に入っても、さまざまな国際商品の価格上昇が止まらず、インフレ(物価高)懸念が長期化する可能性が生じているためです。

図:昨年末来の国際商品価格の騰落率 (2021年12月31日と2022年1月21日)

出所:Investing.comデータをもとに筆者作成

 FRBなどの中央銀行の役割の一つに、「物価の安定」が挙げられます。中央銀行は、インフレ(物価高)懸念が強まっている時、物価高の鎮静化を企図し、金利引き上げなどの引き締め策を講じます。まさに今、起きているとおりです。(物価高と金融引き締めが同時進行)

 では「物価高」は、何がきっかけで発生しているのでしょうか。

物価高は「2段構造」で起きている

 前回の「物価高の正体は○○○!「千と千尋の神隠し」に心構えを学ぶ」で述べたとおり、「物価高」の根本原因は、「【黎明期】の脱炭素」だと筆者は考えています。

 温室効果ガス排出量の大幅削減に成功した上で、経済成長の恩恵を享受する「【成熟期】の脱炭素」ではありません。

 筆者は2030年から2050年ごろ(SDGsやパリ協定の期限)に、脱炭素が【成熟期】に達していると信じています。しかし今は、まだその時期ではなく、【黎明期】ゆえ、以下の文脈で、「脱炭素」が物価高の要因になっていると考えています。

図:黎明期の「脱炭素」とインフレ(物価高)

出所:筆者作成

 また、以下は、「【黎明期】の脱炭素」を含んだ、足元の物価高、金融引き締め、暗号資産と主要株価指数の動きの関係です。「最上流」に「【黎明期】の脱炭素」と商品個別の上昇要因が位置します。

図:足元の物価高、金融引き締め、暗号資産と主要株価指数の動きの関係

出所:筆者作成

 足元の「物価高」は、「【黎明期】の脱炭素」と商品固有の上昇要因の2段構造で発生していると考えられます。目に留まりやすい、OPECプラスの産油量や産油国の地政学的リスクなどの状況だけで、足元の物価高を説明することはできません。

 今後、「脱炭素」がどういったタイミングで【黎明期】から【成長期】そして【成熟期】に移行するのか、長期的視点で見守っていく必要があります。【黎明期】のままの場合、今と同様、「脱炭素」は「物価高」の一因であり続ける可能性があります。

原油市場の「2段構造」

 ここからは「【黎明期】の脱炭素」とともに、物価高の要因になっている原油高について考えます。図「黎明期の「脱炭素」とインフレ(物価高)」で示したとおり、原油高は直接的、同時に電力価格や流通コストを押し上げる間接的な物価高の要因です。

 図「昨年末来の国際商品価格の騰落率」のとおり、原油相場は昨年末来、13.2%上昇しています(15営業日で9.9ドル上昇 1日あたり60セント超上昇)。この間の価格推移は以下のとおりです。

図:原油価格の推移 単位:ドル/バレル

WTI原油先物 期近限月 60分足 終値(日時は日本時間)

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成

 1月5日(水)、12日(水)の深夜は、EIA(米エネルギー情報局)が週次の石油統計で原油や石油製品の在庫を公表し、原油在庫の減少が目立ったことが確認され、米国国内の需給引き締まりが意識された時間帯です。

 また、1月10日(月)はカザフスタン、14日(金)はウクライナ、17日(月)はUAEを中心とした中東地域における情勢悪化により、石油の供給減少懸念が強まりました。こうした石油に関わりが深い地域の供給減少懸念は、時間帯(アジア、欧州、米国)の区別なく、原油相場を押し上げます。

 今年に入り、原油相場は、米国の石油需給の引き締まり(≒原油在庫減少)と、主要供給国やそれに関わりが深い地域の情勢悪化、同時に、先ほど述べた「【黎明期】の脱炭素」が、じわりと、中長期的な上昇圧力をかけている(上昇要因の2段構造)ことにより、上昇していると言えるでしょう。

米シェールは回復途上

 ブルームバーグのデータによれば、世界トップ3の原油生産国は、米国、ロシア、サウジです(2021年12月時点)。シェアは、米国が14.4%、ロシアが13.6%、サウジが13.5%です。今、このトップ3カ国(シェア合計41.5%)において、供給を制約する事案が発生しています。

 米国は、バイデン氏の米大統領選挙の勝利宣言(2020年11月)以降、パリ協定に復帰したり、より厳しい温室効果ガスの削減目標を率先して打ち出したりするなど、「脱炭素」を急速に進めてきました。

 こうした中で、「モノ言う株主」による環境配慮に関わる提言も目立つようになり、関連企業が石油開発を推進することが、世界全体や米国国内の風潮にそぐわないとの指摘が目立つようになりました。

 バイデン氏が大統領になって以降、これまでにも増して、米国国内の石油戦略備蓄の取り崩しが進んでいますが、このことは、「脱炭素を推進する国が、石油備蓄を積み上げておくことは自己矛盾に等しい」という文脈の上で、行われていると筆者はみています。

 米国では、「脱炭素先進国」をうたうべく、リーダー達が頑張っているわけです。米国全体のおよそ70%を占めるシェールオイル主要地区の原油生産量(7地区合計)が、2020年春に発生したコロナショックによる急減の後、回復しきっていないのは、リーダー達の「脱炭素」推進にかける強い思いが一因だと考えます。

図:米国の原油生産量 千バレル/日量

米シェール主要地区の原油生産量は、EIAが提唱する7地区の合計

出所:EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 米国の原油生産量は、2020年5月にコロナショック後の最悪期を迎えた後、徐々に回復傾向にあるものの、その回復の度合いは、原油相場の回復や需要回復の流れに劣後しています。

 2010年ごろにシェール革命が起きてからしばらくは、「原油相場が上昇すれば、米国の原油生産量は増える」という定説めいたものがありましたが、現在はそうではありません。次より、米シェール主要地区の開発に関わるデータを確認します。

米シェール「脱炭素」で開発鈍化

 以下のグラフは、米国のシェール主要地区における開発に関わる2つの指標(掘削済井戸数と仕上げ済井戸数)および、原油価格の推移を示しています。

 掘削済井戸数とは、リグ(掘削機)を稼働させて、掘り終えた井戸の数です。リグが原油を生産する機械のようにとらえられることがありますが、リグはあくまで穴掘り機です。

 仕上げ済井戸数とは、掘削した井戸に高圧で水や砂、少量の化学物質を注入し、井戸の末端で破砕させる、原油を抽出するための最終的な作業を終えた井戸の数です。仕上げを行わないと原油を生産することはできません。掘削を終え、あえて仕上げをしない井戸(後述する待機井戸)も存在します。

 グラフの通り、2020年春のコロナショック前までは、掘削済井戸数、仕上げ済井戸数、原油価格は、ほぼ連動していました(数カ月、原油価格が先行)。

 コロナショックでいずれも低下・減少した後、原油価格は大幅に回復しましたが、2つの開発関連指標は、2年が経過しようとしている現在でも回復途上のままです。

 2020年11月の米大統領選挙に向けて、バイデン氏が「脱炭素」を前面に打ち出したことが、石油開発の鈍化、引いてはシェール主要地区の原油生産量の回復鈍化のきっかけになり、この動きが現在も継続していると、考えられます。

図:米シェール主要地区の開発関連指標と原油価格

米シェール主要地区の開発関連指標は、EIAが提唱する7地区の合計

出所:EIAのデータをもとに筆者作成

 同地区の開発関連指標の動向は、数カ月先の原油生産量の動向に直接的に影響します。さらに同地区の別のデータに注目します。

生産効率の頭打ち感が鮮明に

 以下のグラフは、米国のシェール主要地区における、新規1油井あたりの原油生産量の推移です(7地区平均)。仕上げ後、生産が始まってまもない井戸1つあたりの原油生産量で、新規油井の生産効率を示しています。

 また、待機井戸(掘削は完了したが仕上げを行っていない井戸)の推移を併記しています。

図:米シェール主要地区の新規油井の生産効率と待機井戸

米シェール主要地区の1油井あたりの原油生産量は、EIAが提唱する7地区の平均

出所:EIAのデータをもとに筆者作成

 新規油井の生産効率を示す、新規1油井あたりの原油生産量は高水準ではあるものの、低下傾向にあります。このことは、原油を効率よく生産することができる良質な待機井戸が減少していることを示唆しています。

 また、待機井戸そのものが、減少に転じているため、開発業者たちが、新たに掘削をするよりも、既存の待機井戸に仕上げを施すことで、生産にこぎつけようとしていることがうかがえます。

「脱炭素」の潮流が、リグを稼働させて井戸を掘る行為を停滞させている可能性があります(新規開発の鈍化)。さらには、待機井戸に仕上げを施すことに重点を置き、開発は進んでいるものの、その効率も頭打ち状態…というわけです。

 米国は世界No1の産油国です。その米国の原油生産量のおよそ70%を占めるシェール主要地区の原油生産量は、原油価格が大きく回復しても、回復途上のままです。

 この点は、米国における大きな供給制約です。政治起因であるため、リーダー達の方針が変わり、「脱炭素」の潮流が緩まない限り、米国の原油生産増加は難しいと、筆者は考えています。

OPECプラスも価格引き上げ支持

 以下のグラフは、OPECプラスの原油生産量と生産量の上限のイメージです。現在、OPECプラスは原油の減産実施期間にあり(毎月生産量の見直しをしながら、今年の12月まで減産を継続する予定)、昨年夏以降、毎月一定量ずつ生産量の上限を引き上げ、それに準じ、実際の生産量を増加させています。

 OPECプラス…サウジ、イランなどのOPEC加盟国13カ国と、ロシア、カザフスタンなどの非加盟国10カ国、合計23カ国で組織する産油国のグループ(2022年1月現在)。

 OPECプラスは、少しずつ増産をしているのですが、減産期間中であるため、過剰な増産はしていません。昨年何度も、消費国側から原油価格の上昇を抑制するために、増産要請を受けましたが、はねのけてきました(増産はしている。それ以上の増産はしない)。

図:OPECプラスの原油生産量と生産量の上限 単位:千バレル/日量

出所:ブルームバーグのデータおよびOPECの資料をもとに筆者作成

「脱炭素」が【成長期】、そして【成熟期】になるころには、世界全体の温室効果ガスの排出量は今よりも格段に減少していると考えられます。このことは、「脱炭素」が成長するにつれて、世界の石油の消費量が減少していくことを示唆しています。

 こうした「脱炭素」の成長イメージがある以上、OPECプラスが「長期的視点で、石油が使われなくなる時代が来るのであれば(輸出量がいずれ減少するのであれば)、原油相場(単価)を引き上げなければならない」と考えるのは、自然なことでしょう。

 こうしたOPECプラスの思惑が、世界の石油の需給バランスを緩めない(過剰な増産をしない)、大きな要因になっていると、考えられます。

 米国は自国の「脱炭素」の潮流が、OPECプラスは世界全体の「脱炭素」の潮流が、それぞれ供給を制約する事案になっていると言えます。

脱炭素はいつ【黎明期】を脱するのか?

 一見すると「脱炭素」は、世界の気候変動や経済情勢を改善させる好ましいテーマに見えますが、こと【黎明期】の場合は、必ずしもそうとは限りません。

 先述のとおりエネルギーや農産物、金属の価格を押し上げてインフレ(物価高)懸念を強めるだけでなく、企業に脱炭素に対応するためにばく大なコストを迫ったり、国家や企業間の主導権争いや利害を巡る対立を噴出させるきっかけになったりするためです(一部では起きている)。

 脱炭素はいつ【黎明期】を脱するのか? という問いに対して、具体的に明言できる人はおそらくいないでしょう。

 強いて言えば、大容量バッテリーの流通(リサイクルも含む)、走行距離、出力、動力源となる電力のクリーン化などの問題が解消して、EV(電気自動車)がガソリン車やディーゼル車と半分程度置き換わったり、パソコンやスマホなどの身近な電子製品にプラスチックが石油を使わない植物由来などの代替品におおむね置き換わったりして、われわれ一般の人々の生活環境に根底からの変化が見えて始めて、「脱炭素」は【黎明期】を脱し【成長期】に移ったと言えるのではないでしょうか。

 そうなるまで、「脱炭素」は、程度は変化すれども「物価高」の一因として、社会に影響を及ぼし続ける可能性があると、筆者は考えます。

[参考]コモディティ関連の具体的な投資商品例

(吉田 哲)

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