出生前診断がもう抑制できる段階じゃない理由 砂の堤防はすぐ壊れたが一歩は踏み出せた

東洋経済オンライン / 2019年5月13日 8時40分

胎児ホットラインの説明会で集合写真を撮ろうとする「親子の未来を支える会」メンバーとこの日の参加者たち(中央が林さん、その左が佐野さん、筆者撮影)

この春、 医師や看護師、日本ダウン症協会や全国心臓病の子どもを守る会で活動する母親、ライター、ファイナンシャルプランナーなどをメンバーとするNPO法人「親子の未来を支える会」が、「胎児ホットライン」開設を目指して説明会を開いた。

「胎児ホットライン」は超音波検査、染色体異常の検査などで妊娠中の赤ちゃんに先天性疾患が見つかった人が、病気や生まれてきたときの暮らしについて正しく知り、多様なバックグラウンドを持つ第三者たちとネット上のチャットでかかわりながら、自分なりの道を歩む過程をサポートする。現段階ではボランティア・ベースの自主的な活動で、妊娠を継続することを選んだ人も、産むことを断念する人もともに中立的な立場からの支援を目指す。

■ポイントは「治療」という視点

このような、検査を受ける人を支援する市民活動は、国内でほかに類をみない。会が出生前診断を大事にしている理由は何なのか? ポイントは「治療」という視点だ。

会の代表理事を務めるのは、東京大学理学部と千葉大学医学部で学んだ後、中国・イギリス・スペイン・ベルギー・アメリカなど世界各地で「胎児医療」を学んで帰国したばかりの産婦人科医・林伸彦さんだ。胎児医療とは、胎児を医療の対象としてとらえ、可能な胎児治療があれば親に十分な情報を提供したうえで実施する先進的な医療のことだ。日本ではまだ治療できる病気が少ないが、林さんが学んだ国では、胎児期に脊髄や脊椎の癒合不全を生じた「二分脊椎」の手術など、日本にはない胎児手術もあった。

林さんは、まだ30代前半の若い医師であり、これからの医師人生のどこかできっと胎児医療は開花するだろう。産科医療に携われば、絶えず直面するのが、お腹の中で亡くなってしまったり、治療をしても重い障害が残るとわかる状態で生まれてきたりするケースだ。おなかの中で症状が進行する前に、診断をして、治療ができたら、その子の命を救ったり、障害をより軽くしたりできるかもしれない。

「出生前診断の是非を問う議論とは別に、検査によって救われる命がある、という事実があります。それならば、検査が悪いと言うのではなく、どうしたら正しい形で検査ができるのかを考えるという方向に行くべきではありませんか?」

林さんが、そんな思いを、住んでいた隣人交流型賃貸マンションの居住者交流会で隣人たちに語ったのは2013年のことだ。これを聞いて、今、会の副理事長を務めるシステムエンジニアの佐野仁啓さんが「ネット上に、胎児疾患を告知された人とその病気のある子を育てている親とのマッチング・システムを構築してはどうか」と協力を申し出たのが、活動の始まりだった。当時は結婚もしていなかったのに佐野さんがそう言い出したのは「他人事ではない」と思ったからだという。

■「僕もいつか子どもを持つかもしれない」

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