「対メキシコ関税」は経済危機の発端ともなる トランプ氏の独断に震撼するアメリカ産業界

東洋経済オンライン / 2019年6月5日 8時10分

対メキシコ関税を議会が阻止することには期待できない。確かに反対する議員は出てきている。上院ではチャック・グラスリー上院財政委員長(共和党)、パット・トゥーミー上院議員(共和党)、元USTR代表のロブ・ポートマン上院議員(共和党)、ロン・ワイデン上院財政委員会筆頭理事(民主党)、下院ではステニ―・ホイヤー院内総務(民主党)、ナンシー・ペロシ下院議長などが超党派で反対している。

だが、来年に選挙を控える中では、共和党議員や保護貿易政策を掲げてきた民主党議員が重い腰を上げて阻止に動くことには、懐疑的な見方が多い。特に共和党議員は予備選で「サンフォード化」するリスクを恐れている。約25年もの政治人生、選挙で負けを知らなかったマーク・サンフォード元下院議員(共和党、サウスカロライナ州選出)がトランプ大統領の通商政策などに反対したために、2018年の予備選でトランプ寄りの共和党候補に敗北したのである。

司法による阻止も難しいとみられる。国際緊急経済権限法(IEEPA)は、国外の要因によって、アメリカの国家安全保障、外交政策、経済が異常な脅威にさらされたことを理由に、大統領の非常事態宣言後に対策発動が可能となる。5月30日の大統領声明では、不法移民が大量にアメリカに入国していることが国家安全保障と経済にとって脅威となっている、と主張している。

戦争を根拠に貿易規制を大統領が発動することができる1917年対敵取引規制法(TWEA)がIEEPAの元である。1977年に戦争に限らない上記の非常事態の際にも、大統領が貿易規制などを発動できるよう明記した法律がIEEPAだ。つまり、IEEPAは、大統領が非常事態と判断すれば、あらゆる貿易規制などを自由に発動し、大統領の裁量で幅広い対策を行うことを可能としている。

歴代の政権は通常は、ならず者国家などに対する経済制裁などでこれを利用してきた。だが、IEEPAが存在しなかった1971年のニクソンショックのときに、ニクソン大統領は同様の条項を含むTWEAに基づき10%の一律関税を発動した前例がある。当時、日本の対米輸出企業を驚愕させた。IEEPAでは関税策について具体的に明記していないが、輸出入を「規制(regulate)」するといった文言もある。法律家の意見は割れているが、関税策と解釈することが可能との見解もある。

■最終的にはクシュナー氏の手腕に期待

ムニューシン財務長官などの働きかけで第1弾の発動は即時ではなく6月10日に延期され、それまでメキシコと交渉することとなった。発動まで残り1週間弱に迫る中、ポンペオ国務長官やライトハイザーUSTR代表もメキシコと協議する予定だが、メキシコとの調整役として期待が高まるのがクシュナー上級顧問だ。

USMCA交渉妥結への貢献によってメキシコ政府から外国人に与えうる最高位の勲章「アギラ・アステカ勲章」を授与されたクシュナー上級顧問は、今回もカギを握りそうだ。内容の詳細にまでは関与していなかったが、メキシコ政府高官との難しい調整に加え、トランプ政権内での政治的な調整に極めて重要な役割を担ったという。トランプ大統領の独断が幅を利かせる政権内で、大統領の側近中の側近である娘婿のクシュナー上級顧問に期待する向きは多い。

渡辺 亮司:米州住友商事会社ワシントン事務所 シニアアナリスト

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