鉄道の「自動運転」、海外で事故は起きているか 「人より正確」、ロンドンやパリは大事故なし

東洋経済オンライン / 2019年6月5日 16時0分

1900年に開業したパリ地下鉄1号線。現在はホームドアを設置して完全自動運転を実現しており、日本の新交通システムに近い(筆者撮影)

6月1日夜、神奈川県横浜市を走るシーサイドラインで発生した列車逆走衝突事故は、世間に大きな衝撃を与えた。

シーサイドラインは1989年に開業、当時は運転士が乗務していたが、1994年から運転士のいない完全自動運転へと移行、これまで大きな事故が発生したことはない。6月4日には有人運転によって運行を再開したが、自動運転の列車が逆走するという今回の事故はこれまでに前例のないもので、早急な原因究明が待たれる。

ただ、この事故を受けて「自動運転は危険」と決めつけることには、疑問を感じざるを得ない。

■人為ミスより事故は少ない

日本国内だけで見ても、運転士の乗務しない完全自動運転を行っている鉄道は、東京のゆりかもめや神戸のポートライナーなどいくつもあり、運転士が安全確認のため乗務している自動運転を含めれば、かなりの数にのぼる。

1993年に大阪市交通局(当時)の新交通システム「ニュートラム」のブレーキが作動せず車止めに衝突する事故が発生したが、その後は全国の自動運転の鉄道で、負傷者を伴う大きな事故は発生していない。その年から今日に至るまで四半世紀、どれだけの数の人為的ミスによる事故が発生してきたかを考えれば、機械が正確で安全ということは十分理解できると思う。

「乗務員が乗っていれば安全」というのは事故を防いでくれるかもしれないという心理的安心感のようなものであって、もし本当に不具合が発生した場合、乗務員が添乗していたからといって、必ずしも防げるかどうかはわからない。

海外においても、自動運転は普及している。コンピューター制御による正確な運行は、人の手による運転より、はるかに安全で正確だと認識されているからだ。

世界で初めて自動運転を実現したのは、1968年に開業したロンドン地下鉄ヴィクトリア線だ。運転士は乗務するものの、ドアの開閉と発車ボタンを押すだけで、あとは万が一の際に非常停止スイッチを押すことと避難時の誘導が主な業務となる。

その後、同じくロンドンに1987年に開業したドックランド・ライトレール(DLR)はヴィクトリア線のシステムをさらに一歩進め、発進停止を含めた完全自動化を達成したが、やはり乗務員が添乗している。この乗務員の仕事は、車内での検札や前方の目視などであるが、最前部に乗務員専用の運転席はなく、客席と共用の添乗スペースがあるのみだ。

■人員削減でなく正確さが狙い

なぜロンドンでは運転士なしの完全自動運転を行わないのか。その理由の一つは、特段の防護装置がないにもかかわらず、駅にホームドアが設置されていないという点が挙げられる。

ヴィクトリア線のプラットホームには柵もホームドアもなく、人が線路へ転落する可能性がある。運転士がドアを閉じた後、発車ボタンを押すだけで、列車は次の駅の停止位置まで正確に走行するが、緊急時の停止ボタンは運転士が押すことになる。

DLRは基本的な運転操作をすべて運輸司令室から遠隔で行っているが、こちらも特に転落防止センサーなどは設置されておらず、非常時の最終的な判断は乗務員もしくは運輸指令員に任せるというシステムである。これらの自動運転技術は、人員削減というよりは、より正確な運転を目的としたシステムと言えよう。

DLRは1991年4月、ウェスト・インディア・キー駅で2つの列車が衝突脱線、多数の負傷者を出す事故を起こしているが、2本の列車のうち一方は乗務員が手動運転を行っていて、こちらが自動運転の列車に衝突したことが原因であった。つまり、自動運転を起因とする事故は1987年の開業以来、皆無ということになる。

一方、パリで運行されている地下鉄のシステムは、日本の新交通システムに近いものだ。ゴムタイヤを履いた車両が走るパリ地下鉄の1号線と14号線は、いずれも乗務員が添乗しない、完全自動運転の路線だ。

14号線は、1998年に開業したパリで最も新しい路線で、同市の地下鉄で初めて運転士の乗務しない完全自動運転を実現した。

14号線は開業以来大きなトラブルもなく順調に運行されたため、交通局は既存の1号線の自動化へ踏み切った。

同線は1900年、パリで最初に開業した地下鉄路線で、当然ながら従来は運転士による手動運転を行っていたが、2012年に完全自動運転を開始。自動運転化を前に、全駅にホームドアの設置が行われた。これまでに停電などで停止したことは何度かあったが、負傷者を伴うような大きな事故は発生していない。

パリではこのほか、一般鉄道のRER-A線で運転士が乗務する形の自動運転が行われている。交通局は自動運転化による人員削減を目指しており、今後も他路線に採用していくとしている。

■ドイツはセンサー技術を駆使

ドイツ南部のニュルンベルク市で運行されている地下鉄は、完全自動運転にもかかわらずホームドアがない。この地下鉄車両には高度なセンサー技術が採用されており、車体前方のカメラで線路状況を確認し、障害物が感知されれば緊急停止する。近年、自動車に採用されている運転支援システムと似たようなシステムだ。

このようなシステムだと、線路に捨てられた紙袋や、地上区間で車両の前を横切る鳥などに反応しないかという心配もあるが、このセンサーは障害物の認識機能を備えていて、鳥などが横切った程度では緊急停止しないようになっている。

また、車両側のセンサーに加え、プラットホームにかかる線路部分にもセンサーが張り巡らされ、地上側、車両側の双方から線路の状態を確認するシステムとなっている。

運輸指令室では3人態勢で各列車の状況を確認しており、トラブルが発生するとモニターに注意メッセージが表示され、どの区間を走るどの列車に問題があったか、すぐに確認できる。

前出の欧州2大都市とは人口規模が異なるので、このセンサーによる障害物検知システムが万能かどうかについては少々疑問が残るが、もしかしたらこうしたセンサー技術に今後の安全対策のヒントが隠されているかもしれない。

繰り返しになるが、今回のシーサイドラインの事故は、これまでに前例のない事故として、その原因は徹底的に究明し、事故の再発は絶対に防がなければならない。ただ、この事故だけを取り上げて、いたずらに完全自動運転を危険だと決めつけることは自重して欲しいと切に願う。

JR山手線で試験が行われている自動運転についても、開発を停滞させるどころか、むしろこうした事例をも考慮に入れて、さらに安全で正確なシステムが構築されることを願ってやまない。

橋爪 智之:欧州鉄道フォトライター

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