「役に立つ学問」が事前にはわからない根本理由 「モンゴル×超ひも理論×シロアリ」で考える

東洋経済オンライン / 2019年6月14日 8時0分

左から大竹文雄、小長谷有紀、橋本幸士、松浦健二の各氏(写真:サントリー文化財団)

学問は社会にどう役立つのか──。基礎科学研究の予算削減や国立大学における文系不要論など、大学での研究や教育に対する厳しい意見が近年、経済界や政界を中心に目立っている。「税金を使う以上、研究の意義や有用性を説明するべき」という声も根強い。これらの問いに第一線の研究者たちはどう答えるか。そもそも、「役に立つ」とはどういうことなのか。今春、大阪で開かれたトークイベントで、4人の研究者たちが議論を交わした。

■学者が考える、自身の研究の「有用性」とは

「学芸ライヴ」と名付けられたこのトークイベントは、今年で設立40周年を迎えたサントリー文化財団が企画・主催する記念事業の1つ。第1回目は「役に立つって何?──モンゴル×超ひも理論×シロアリ」と題して、文化人類学者の小長谷有紀氏(国立民族学博物館客員教授)、理論物理学者の橋本幸士氏(大阪大学大学院理学研究科教授)、昆虫生態学者の松浦健二氏(京都大学大学院農学研究科教授)の3人を招き、経済学者の大竹文雄氏(大阪大学大学院経済学研究科教授)が司会進行を務めた。

「以前から、ぜひとも話を聞きたかった」という大竹氏の要請で実現した、まったく異なる分野の研究者たちの顔合わせ。議論はまず、各自が研究内容を説明しながら、「学問の有用性」をどうとらえているか述べるところから始まった。

小長谷氏の専門はモンゴル研究。1979年、社会主義体制だった同国を訪ねて以来40年にわたり、遊牧を中心に環境や農業、歴史や民俗文化など幅広く調査研究を積み重ねてきた。

これまでに書いた論文約100本は、すべてネット上に公開しており、ダウンロード数で「社会への有用性」を測るなら、「モンゴル国営農場の歴史」「古代からのモンゴル農業開発史」「チンギス・ハン崇拝の成立過程」の3本が上位を占めるという。前の2本は「社会主義時代の国営農場の記録はモンゴルにもなく、世界中で参照されるから」、残る1本は「モンゴルと言えばチンギス・ハンという、みなさんの好みの反映」と理由を推測する。

ただ、これらはいずれも「裏返しの動機」で始めた研究であり、注目が集まっても、あまりうれしくはないという。

もともと、モンゴルにおける遊牧文化の優位性や豊かさを証明しようと研究を始めた小長谷氏は、農業は土地に適していないと考えており、何かにつけてチンギス・ハン絡みでモンゴルが語られることにも抵抗を感じていた。

そうした反発や批判的視点が研究のきっかけになったのだが、世間にはそれらばかりが求められる「逆転現象」が起きていると苦笑し、こう続けた。

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