日本経済の生産性をめぐる「誤解」を徹底解説 「賃金抑制」も「最低賃金引き上げ」も的外れだ

東洋経済オンライン / 2019年7月7日 8時0分

「生産性」という言葉をめぐる議論が増えている(写真:Rawpixel / PIXTA)

安倍晋三内閣が経済政策パッケージとして「生産性革命」を掲げてから、「生産性」という言葉がメディアにもネット上にもあふれるようになった。しかし、生産性という言葉をめぐって、議論がかみ合っていないと感じることも多いのではないか。

経済産業研究所(RIETI)副所長で『生産性 誤解と真実』の著者である森川正之氏に、生産性をめぐる問題について話を聞いた。

■企業収益が増えても生産性は上がらない

――生産性という言葉がよく聞かれるようになりました。その分、言葉の誤用も多く、議論に混乱も見られます。昨年11月に刊行された著書『生産性』は時宜にかなったものでした。

内閣府や経済産業省などの政策担当者や企業経営に携わる方から、生産性について尋ねられることが多くなっていた。そうした中、生産性についての誤解が驚くほど多いことに気づいた。内外の研究成果や最新のデータを踏まえて、生産性について俯瞰するものを書こうと思った。

――代表的な誤解にはどんなものがあるのですか。

まず、生産性の概念のうち、企業の方々がよく使うのが「労働生産性」だ。これは労働者1人1時間当たりにどれだけの付加価値が生み出されたかという数字。分子にあたる付加価値は、日本経済全体の場合にはGDP(国内総生産)、企業の場合には売上高から原材料や光熱費を差し引いた数字、ざっくりいえば粗利になる。

ところが、企業では多くの人が「稼ぐ力」が生産性で、「儲かること」「企業収益が増えること」が生産性上昇だと思っている。しかし、企業収益は日本全体のGDPの2割ぐらいで、実際は雇用者報酬のほうがずっと多い。賃金を抑制して利益率を高めても、生産性が上がることにはならない。

それから、労働者1人当たりで見て、生産性が高い/低いという議論もよく聞くが、これはミスリードになる。毎月勤労統計のデータの間違いが国会で問題になったとき、「賃金が上がっていない」という場合の「賃金」は現金給与総額から物価の影響を控除したもので議論された。しかし、実質賃金が上がっているか、下がっているかは時間当たりで見るべき。同様に、生産性も時間当たりで測るべきものだ。8時間働いて2万円稼ぐ人は、12時間働いて2万円稼ぐ人よりも賃金や生産性が高い。

――商品やサービスの価格を引き上げられないことが生産性の低さの原因だ、という人もいます。

これも誤解で、同じ商品・サービスの価格が上がるだけでは、生産性は上昇しない。名目と実質を取り違えた議論で、生産性の上昇は実質の概念。ビジネスではふだん名目で物事を考え、物価の上昇分を補正した利益という話はしない。日本ではインフレが起きていないこともあって、そのことが理解されにくい。一方、製品やサービスの質が向上すると価格が変わらなくても生産性の上昇になるが、これはさらに理解されにくい。

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