GDP鈍化で中国の金融緩和は避けられない 当局が頭を悩ます「余剰マネー」の向かう先

東洋経済オンライン / 2019年7月23日 7時0分

7月22日、上海証券取引所に新設された「科創板」は、緩和マネーの受け皿になるか(写真:ロイター/アフロ)

7月15日に発表された4~6月期の中国の実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比6.2%増となった。当日開催された記者会見で国家統計局のスポークスマンは、「世界で見ても6.2%という成長率はかなり高いものだ」と胸を張った。その翌日、日本のラジオを聞いていたら、「日本と比べると6.2%成長はうらやましい」といった女性キャスターのコメントが耳に入った。

しかし、成長率というものは、ほかの国や地域と横比較するものではなく、それぞれの国の潜在成長率と比べたり、あるいは過去と比べたりするのが妥当だと考えられる。過去と比べると、今回の6.2%という成長率は1992年の統計が始まって以来、最も低いもので、中国経済が減速傾向にあることが改めて浮き彫りになった。

■減速スピードが速くなっている

ただし、経済規模が世界第2位になっている以上、成長率はだんだん鈍化してくる。これは、万国共通の法則なので新聞の一面見出しに載せるほど大騒ぎする必要がない。問題は、減速のスピードがやや速くなってきたことだ。

ここ数年間の中国の経済成長率を見ると1つの特徴を見つけ出すことができる。それは、変動幅が極めて小さく、2四半期連続で同じ数字になることが珍しくないことだ。中国では持続的な安定成長を維持することが最優先課題となっているが、統計数字を見るかぎり、この政策目標は達成されてきたといえるだろう。

これについて、統計の信憑性の問題を持ち出しても仕方がない。政策を運営している関係者が真剣にそう判断しているためだ。

一方、4~6月期のGDP成長率が1~3月期に比べて0.2ポイント低下したのは珍しい事態だと言える。直近では2018年7~9月期にも同じ現象が起きたが、成長率の変動幅は平時ならフラット、やや減速なら0.1ポイント、警戒すべき減速なら0.2ポイント以上、といったメッセージがこの変動幅の変化から読み取れる。

今回の0.2ポイントの減速は輸出比率の高い外資系企業の設備投資や鉱工業生産が冷え込んでいることが原因であり、米中貿易戦争の影響が着実に拡大していることを、如実に物語っていると言えよう。

案の定、7月16日、現地の有力エコノミストである任澤平氏は、「足元の経済成長の中身は数字以上に厳しく、来年に入ってからさらに深刻になる可能性が排除できない」とするレポートを公表。6.2%という成長率を称賛する楽観派と真っ向から対立する姿勢を示した。

■「楽観派」エコノミストですら悲観する理由

ほとんどの読者は任澤平というエコノミストが何者か知らないだろう。任氏はもともと政府系シンクタンクに所属するいわゆる官庁エコノミストだったが、その後、証券会社や不動産会社に転身し、証券業界で人気と年収が最も高いエコノミストとして知られている。筆者の印象では、任氏は証券会社のエコノミストらしくイケイケドンドンの「楽観派」だった。

その任氏ですら今回の成長率に対して悲観的な見方を公表した背景には、政策的に「楽観論」より「悲観論」が必要とされているためだと推測できる。例えば、任氏はレポートの中で景気回復の処方箋として市場開放を挙げたが、実際、7月20日から中国政府は新たな市場開放措置や規制緩和策を実施すると発表している。

中国政府が「悲観論」を必要とするのは、財政拡大や金融緩和といった景気刺激策の実施を正当化するためだ。今回のGDP統計発表後、インフラ投資を加速させるために地方政府や大型国有企業による債券発行規模が拡大するだけでなく、貸出金利や預金準備率の引き下げを期待する声が市場関係者から日増しに強まっている。

こうした雰囲気の中では、中国人民銀行がいつ金融緩和措置を発表してもおかしくない。しかし、たとえ追加の金融緩和措置が発表されても、中国の景気はよくなるのかは定かではない。

長年、中国の金融統計をウォッチしてきた筆者の感覚が最近どんどん鈍ってきている。月次ベースの新規融資額が1兆元という大台を超えるのが日常茶飯事で、2008年秋のリーマンショック以降に導入された量的金融緩和が常態化し感覚がマヒしているためだ。

問題は、過剰設備の問題に加え、2018年夏ごろから本格化した米中貿易摩擦で先行きの不透明を警戒する企業が設備投資を控えていることだ。また、底値から若干回復したものの、個人投資家が株式投資に本腰を入れるのも難しい状況にある。

■地方大都市の住宅価格は2桁上昇

こうした中、資本逃避を警戒する中国当局は、企業や個人による海外への投資を厳しく制限するようになった。実際、2019年上半期の中国による海外のM&Aは金額ベースで前年同期比7割減と伝えられており、「一帯一路」などの国家戦略を担っている大型国有企業を除くと、民間企業と個人のほとんどは投資ができない状況に陥っている。

そうすると、国内では余剰マネーはかなり滞留しているはずだ。その余剰マネーが向かう先はやはり不動産だ。中国では、不動産市場に対する政策スタンスが猫の目のように変わっているため、緩和なのか引き締めなのか、さっぱりわからない。

そうした状況下で、中央政府の監視の目が届きやすい北京や上海を除いて、いつの間にか、西安や武漢、成都といった地方大都市の住宅価格は前年同月比2桁の上昇率が続いている。そのため、最近になり当局は不動産向け融資を厳しく制限し、規定を違反した金融機関や担当者を大量に処分するなど、不動産バブルの拡大を警戒している。

しかし、景気が悪化しているため、金融緩和は避けられそうにない。緩和によってさらに深刻化しかねない余剰マネーをどこに向かわせるのかは、当局にとって頭の痛い問題だ。当局は市場開放などの規制緩和に乗り出すと同時に、大規模な減税措置を実施し、製造業やサービス業といった実体経済への資金流入を期待している。

そして、もう1つの受け皿として期待されているのは中国版ナスダックと呼ばれる「科創板」だ。科創板は、「科学技術立国」の戦略を実現し、企業のイノベーションを促すため、昨年11月に習近平国家主席が上海で設立構想を発表した。

それがこの7月22日、いよいよ第1弾として25社の企業が正式に上場した。大型国有企業が数多く上場している上海や深圳証券取引所のメインボードに比べて、科創板では半導体や通信、医療機械などハイテク分野のベンチャー企業が主体となる。

22日、取引が始まった「科創板」はやはり期待通りのロケットスタートとなった。第一弾として上場した25社の株価は公募価格と比べてこれまで経験したことのない上昇幅を記録し、2倍になったのが当たり前。最も上昇した銘柄は5倍に急騰した。

■「科創板」を余剰マネーの受け皿に

すでに人気が過熱化し、値幅制限もメインボードに比べて拡大されているため、今後、科創板に余剰マネーが流入してバブルが起きる可能性は高い。ハイテクバブルと聞くだけで懸念を示す識者が少なくないかもしれない。

だが、2000年代のITバブルがなければ今のGAFAはないはずだ。100社の中で1社くらい、中国で次のアリババやテンセントのような企業が誕生すればその効果は十分とも言える。

また余剰マネーに新たな受け皿を用意すれば、不動産バブルがさらに過熱する余地も小さくなる。アメリカの制裁を受ける中で科創板が成功すれば、中国企業が「自力更生」でハイテク分野の開発に力を入れる動きに拍車がかかる可能性もある。この意味では、科創板に「一石三鳥」の役割を期待したい。

肖 敏捷:エコノミスト、AIS CAPITAL株式会社 代表パートナー

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