最低賃金引き上げ「よくある誤解」をぶった斬る アトキンソン氏「徹底的にエビデンスを見よ」

東洋経済オンライン / 2019年10月9日 7時10分

疑問3:イギリスのデータは特殊ではないのですか?

この指摘には一理あります。というのも、科学的な根拠に基づいて最低賃金の引き上げを実施していることが、イギリスの特徴の1つと言われているからです。

イギリス政府は低賃金委員会に対して、雇用への影響のない、ぎりぎりの線で最低賃金の引き上げを提言する使命を与えています。雇用への影響が出ないのは、偶然ではないのです。それに比べて、日本の最低賃金を決める中央最低賃金審議会の委員の専門性は相対的に低いと、日本総研が報告しています。

ここでの教訓は、「ぎりぎりの線」を狙えば、雇用に影響を与えることなく賃金を高められるということです。イギリスでできたことが日本でできないとは思えません。

疑問4:若い人に大きな悪影響が出るのでは?

イギリスでは、若い人に影響が出ないように、若い人のための最低賃金を別に設定しています。場合によっては日本でも検討に値するでしょう。

イギリスの現行の最低賃金は、25歳以上では8.21ポンドですが、21歳から24歳は7.7ポンド、18歳から20歳は6.15ポンド、18歳未満は4.35ポンドです。若い人が求職に困らないように工夫していると言えます。

疑問5:最低賃金を引き上げると格差が拡大するのでは?

真逆です。実は、最低賃金引き上げの最大の効果は、格差を縮小させることです。

イギリスでは、最低賃金を導入した1999年には、最下層の人たちの所得は中央値に対して47.6%でしたが、2020年までに中央値に対して60%まで引き上げる計画を実行しています。

イギリスは1978年から1996年までの間、格差が一貫して拡大しましたが、最低賃金の引き上げによって、その間に開いた格差の半分が解消されました。アメリカの格差拡大要因の大半は、最低賃金の引き上げ低迷によるという分析もあります。

格差社会とは、最下位層と最上位層の所得格差が大きい社会のことですので、所得の中央値に対する最低賃金の比率が低くなればなるほど、この開きが拡大します。日本でワーキングプアの比率が高いのは、これが低いからにほかなりません。

最低賃金を引き上げて格差が拡大する唯一のケースは、失業者が大量に増えて、再就職ができないケースですが、そもそもそうならないように慎重に検証したうえで引き上げるべきなので、そういう事態は起こりえないでしょう。というより、起こさないようにすればいいのです。

■「生産性を高めると格差が広がる」は大間違い

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