親の介護問題から目を背け続けた56歳男の後悔 悩みは仕事との両立や金銭、夫婦関係にも及ぶ

東洋経済オンライン / 2019年10月21日 7時25分

多くの人が直面する親の介護。「その日」は突然やってくる(デザイン:新藤 真実)

「介護は突然、自分の身に降りかかってきた」

斉藤和茂さん(仮名、56歳)はそう振り返る。3年前の正月、お盆以来半年ぶりに埼玉県の実家を訪れると、父(当時88歳)の様子が明らかにおかしかった。足元はおぼつかなく、トイレに行くにも壁伝いで何とかたどり着く状態。失禁することもあった。すでにアルツハイマー型認知症だった。

自分で身の回りのことができなくなったため、母が「デイサービスに行こう」と誘うと、「年寄り扱いするな」と怒鳴り、頑として行こうとしなかった。「お前はもういらない、出ていけ」と母に暴言を吐き、気に入らないことがあると暴力を振るった。警察を呼び、場を取りなしてもらったことも一度や二度ではない。

「これほどひどい状態だと思っていなかったので驚いた。と同時に、実家に戻って介護をすることになったら仕事ができなくなるなと慌てたのも事実」(斉藤さん)。正月明けに実家近くで母が通いやすい特別養護老人ホームを探し、希望に近い新築の施設を見つけた。「申し込みは100人を超えていたようだが、警察を呼ぶほどという父の様子を話したからか、入居の優先順位が高まったようだ」。

■父の意思を確認せず施設に入れたことを後悔

同年2月にはその施設への入居が決まったが、父にどう伝えればいいのかわからなかった。車で施設まで連れていこうとして、「ちょっと外に出てみないか」と声をかけても父は無言。何も伝えられないまま日が過ぎた。

入居前日の夕食時にも結局切り出せず、「デイサービスでさえ行かなかった父だから、明日は大騒ぎになるはず。どうしても嫌と言ったら諦めようと考えた」(斉藤さん)。

当日の朝、父の部屋をのぞくと、ベッドのシーツ、枕カバーが取り外され、掛け布団とともにきれいに畳んであった。斉藤さんの顔を見ると父は一言、「でかけるぞ」と言った 。「施設に入居することの覚悟を決めたように感じた。涙が出るほどつらかった」(斉藤さん)。仕事や子どもの進学など、自身の生活を優先して話を進めたことに今も後悔が残る。

父は入居直後、ほかの入居者とけんかするなどトラブルが続いた。息子の斉藤さんを父の弟の名で呼び、「家に帰りたい」と訴えたこともあった。「父は不本意だったと思うが、施設に入った以上、そこで生活しなければと我慢させたのでは」(斉藤さん)。 

入居から2年が経とうという頃、認知症初期の険しい表情がなくなり、徐々に食が細くなっていった。ある日、会いにいくと、父は「もう、いいよな」とつぶやいた。それからはほぼ食事をせず、1カ月後に亡くなった。

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