衝撃事実!GPIF理事長「処分」は謀略だった 160兆円を運用する年金ファンドの異常事態

東洋経済オンライン / 2019年11月21日 16時15分

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に衝撃が走った

本記事はジャーナリスト、阿部重夫氏(前FACTA発行人)のチーム「ストイカ」によるものです。「ストイカ」は阿部氏が準備中のオピニオン誌。チーム「ストイカ」は臨機応変に記者と組んで取材するチームであり、今回のスクープ記事には伊藤博敏氏、樫原弘志氏らが参画しています。

=一部敬称略=

公的年金160兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に、2度の衝撃が走った。

第1弾は10月18日、GPIF経営委員会(平野英治委員長)が、部下の女性との不適切な関係を疑われた高橋則広理事長に対し減給(20%)6カ月の処分を決めて公表したことである(GPIFのリリースはこちら)。しかし不適切な関係の事実確認はできず、理事長を告発する怪文書が届いていながら、監査委員などに内部通報しなかったことが処分の理由とされている。

■極めて不自然なリリース

これは不可解である。経営委員会は本筋の事実関係を突き止めないうちに、「内部統制上の迅速な対応を怠った」などと怪文書(リリースでは「書簡」と表現)を握りつぶしたかのような枝葉の理由をつけて理事長処分に踏み切ったのである。本人(被処分者)が否定したとの注意書きが申し訳のようについているものの、極めて不自然なリリースだった。

だが第2の爆弾が落ちた。この女性の代理人弁護士から、GPIFに対し、このリリースに抗議する告発状が届いたのだ。11月11日付でGPIF総務部総務課企画役宛に配達証明付きで通知書が郵送されてきたのである。

通知書は、この女性に不適切な関係を迫ったのは別の理事と指摘している。その執拗なセクハラに耐えかねて理事長に相談し、社内に知られまいと社外で相談していたところ、それを「密会」と決めつける匿名の怪文書がGPIFなどに送られてきたのが、第1弾の衝撃の発端なのだという。

通知書によれば、この女性が内部通報できなかったのは、この理事が審議役のときにコンプライアンス・オフィサーであり、いわば、内部通報の窓口が張本人だったというのだ。通知書でこの理事は名指しされている。理事本人はセクハラを強く否定しているという。

当該のA理事は厚生省(現:厚生労働省)に1985年入省、年金局運用指導課課長補佐、社会・援護局保護課長などのポストにいたことはあるが、年金総合研究センターなど外回りの出向が多かった。

通知書にはセクハラ被害の様子が詳細に書かれている。

女性がGPIFに採用されたのは2017年。採用直後の歓迎会で最終面接担当だったA理事(当時は審議役)から「もう1軒行こう」と誘われ、断れずについて行くと、「僕のこと好き?」「好きって言ってよ」と迫られ、電話番号も聞かれた。

女性はなんとか帰ろうとして、彼をタクシーに乗せようとしたが、抱きついてきたので自分がタクシーに乗って逃げ帰った。翌日もAから「昨日のこと覚えてる?」などと聞かれた。

そして同年10月1日付でAが理事に昇格し、その後も何度も食事や飲み会の誘いがかかり、その都度、断るのに苦労した。やむなくランチなどに応じたことはあるが、店名を間違って伝えられ、すれ違いになったことでAが不機嫌になり、厳しい口調で叱責されたこともある。

誰を信頼していいか分からず、GPIFのオフィスのある虎ノ門ヒルズ内のカフェで、ひとり涙ぐんでいるところをたまたま高橋理事長が目にとめ、事情を聞かれた。そこでセクハラ被害を打ち明け、以来たびたび相談するようになった。通知書には以上のようなことが書かれている。

■高橋理事長は女性のプライバシーを優先

高橋理事長が経営委員会に報告しなかったのは、女性のプライバシーを優先し、当事者の理事がコンプライアンス・オフィサーからさらに昇進し、女性が行っていた業務の最高責任者になっていたことが大きい。さらにA理事はGPIFの所管官庁である厚労省からの出向者だったため、高橋理事長はまず厚労省年金局に相談して、この理事を代えようと働きかけた。それが2017年10~11月のことである。

高橋理事長からの働きかけによって、当時の蒲原基道事務次官、木下賢志年金局長も出向者の行状を承知していたはずである。処分理由の「内部の迅速な対応を怠った」がこじつけであることが分かる。

だが、1カ月後に厚労省から返ってきた回答は「まだ理事に就任したばかりで、代わりになる人がいないので、しばらく待ってくれ」というものだった。やむなくA理事の行状が収まるのを待つしかなかったが、結局、それから2年の任期が尽きるまで、厚労省が交代人事に動くことはなかった。

棚ざらしの間に女性は、A理事が他の女性社員に対しても「飲み会いついけるの?」と誘い、「カレンダーで今すぐ日にちを指定して」とせかしたりしていること、他社の知人からA理事が厚労省時代にも女性関係でトラブルを起こしていたことを知ったという。

しかし、理事長に彼女が相談している光景を誰かが目撃したようで、おそらくA理事も上司の高橋理事長に知れたと察知しただろう。いつからか2人に尾行のカメラマンがつけられたらしい。最初の怪文書が届いたのは2019年1月。内部通報アドレス宛てのメールで「当該職員が役職者と特別な関係にある」との内容で、総務、経理、顧問弁護士宛てだった。

この時点ではまだ「役職者」が誰かの特定はなかったが、尾行はずっと続いていたのではないか。なぜなら2019年8月に高橋理事長に、9月に年金局長宛てに届いた怪文書には、2018年12月21日に盗撮したとされる2人が麻布十番の街頭を歩いている写真が6点同封されていた。

まるで私立探偵に撮らせたように画面には年月日の表示があり、2人が寄り添って手をつないでいるかのような図柄だったが、ハグや路チューではない。赤外線カメラを使ったらしく粒子が粗い。スマホ画像ではなく、遠距離から撮ったプロの仕業、と専門家は見ている。手をつないだ部分を拡大してあるが、不自然な部分があり、加工した疑いも消えない。

ところが、この図柄だけで、経営委員会の9人は疑惑濃厚と信じたらしい。うち3人が監査委員兼任で、岩村修二(長島・大野・常松法律事務所顧問)、小宮山栄(公認会計士)、堀江貞之(元野村総研)である。調査をリードしたのは元東京地検特捜部長の岩村で、特捜らしい「予断」の塊で強引な処分の結論を導いたのだろうか。

■「情実人事」ではなかった

「予断」であることの証左が、ウラ取りを怠っていること。女性が高橋理事長の出身母体である農林中金に勤めていた経歴があることは事実だが、「情実人事によってGPIFに呼び寄せた」という怪文書の記述のウラ取りを怠っている。

取材に対し、農林中金広報はGPIF関係者から照会されたことはないと返答した。農中の同僚が一般公募を彼女に教えたのであって、理事長から声をかけられた事実はないのである。その程度のことを突き止めていないのだ。しかも怪文書がなぜ書かれたか、何の目的があったかを十分追及せず、肝心のセクハラとの関連を見落とした。

年金局長宛ての怪文書には、今年9月末で任期切れのA理事とB理事の2人が去ったら、理事長のやりたい放題になるので理事長の退任を求めるとともに、それに応じなければネタを週刊誌に持ち込むという恐喝のような文言がある。

つまり、写真付き怪文書の狙いが理事2人の留任にあったことは文面からバレバレなのだ。おそらく2018年12月以降も尾行は続けられたが、決定的な写真が取れず、焦って2018年冬に撮った写真を2019年夏になって送りつけたのだろう。

怪文書を受けてこの9月20日に調査を始めた監査委は画像に引きずられ、怪文書に内部の誰が関与していたのかを調べた形跡がない。実は怪文書の主が焦っていたとおり、A理事とB理事の任期切れ退任は厚労省内でも既定路線になっており、すでに書類を作成しハンコまで押してあったという。

ところが、調査の途中で驚天動地の事態が起きた。

9月29日の逆転人事である。これは4年前の「GPIF某重大事件」と呼ばれた騒動の再現に見える。巨大ファンドを運用した経験もないBをGPIFに押し込んだのは、大阪つながりの世耕弘成官房副長官(当時)。これに対して当時の塩崎恭久厚労相が激怒、すったもんだの末に理事長を日銀出身の三谷隆博から高橋に代えて、B理事の重石として据えたことでやっと収拾されるということがあった。これが「GPIF某重大事件」である。

B理事は、自身の任期が迫り、せっぱつまって、またもや政治力に頼ったことが疑われる。しかも、自身の留任だけでなくA理事の留任までセットにし、世耕 → 菅義偉官房長官 → 杉田和博官房副長官(内閣人事局長)→ 厚労省と伝わって、GPIF人事は差し戻しになり、書類を作り直し、ハンコも押し直す異例の事態が起きたという推測が、関係者の間でささやかれている。

首相官邸による霞が関人事への介入はもう珍しいことではないが、今回は怪文書の謀略がらみだけに、新宿歌舞伎町まで尾行をつけた「前川喜平(元文科省次官)級の謀略人事」との見方もある。

とにかくGPIF監査委も29日に中間報告をまとめ、翌9月30日に経営委員会で理事長問題が議論されたが、すでに人事で勝負はついていた。理事の任命権は理事長にあるが、実質は厚労省と官邸が決めた人事に同意するだけ。10月6日、11日、18日の経営委員会はそのレールの上で、「迅速な内部対応を怠った」形式処分とした。「長いものに巻かれ」て、処分に加担したのだ。B理事も監査委の調査に対して「車に乗る2人を見た」と証言している。

だが、女性からの告発により、怪文書の主の「謀略」が破綻に瀕した。

怪文書の主は、慌てて週刊誌に盗撮写真を持ち込んだ。告発状の3日後の11月14日、早くも週刊誌記者からはGPIFに対し問い合わせが来ているようだ。怪文書に書いてあった恫喝の台詞どおり、週刊誌にタレこんだわけであり、この手回しの早さは内部に謀略の主がいることを証明しているのではないか。10月29日付の日本経済新聞朝刊には「GPIF理事長は襟を正せ」という異例の社説が載ったが、これも謀略の主による手回しか。きわめて違和感のある社説である。

■経営委員会は調査に消極的

通知書には、この女性が強いストレス下にあって不眠症に陥っているのに、GPIFからの電話が土日や夜間にもかかり、主治医に面談を申し込むなど、強引な調査手法が行われ、それに不信を抱いたとある。女性は9月17日に退社願を出して受理されたのに、事実調査を理由に受理を撤回された。これまた監査委が撤回を主張したからである。

11月18日に開かれたGPIF経営委員会はA理事のセクハラ調査を行なうことに消極的だという。その理由はA理事が「強く否定しているから」という。

これが事実ならば理不尽だ。匿名の怪文書を理由に高橋理事長を調査、本人の否定にもかかわらず処分を下しながら、堂々と代理人弁護士を立てた正規の被害者の申し立てをはねつけ、被疑者の言い分を一方的に鵜呑みにするなど論外だろう。A理事を調べれば「誤審」とされかねない経営委が、保身に走ってもみ消す気なのだろうか。しかし、本稿によって「もみ消し工作」は水泡に帰すはずだ。

A理事、B理事が怪文書に関与したかどうかを含めて、GPIFに質問状を送ったが、11月19日の回答は「リリース以外のことはノーコメント」というもの。それならば、2人の理事のメールなどの履歴を確かめることを要求したい。公的年金160兆円の運用を国民に負託されながら「セクハラ・パワハラ組織」と化したGPIFのせめてもの贖罪を拒むなら、経営委の9人も『オリエント急行事件』のようにグルと認定せざるをえない。

【2019年11月22日10時35分追記】正確を期すため、初出の記事に一部を加筆しました。

【2019年11月25日6時52分追記】正確を期すため、初出の記事に一部を加筆しました。

【2019年11月29日15時03分追記】関係者のプライバシーに配慮して一部表現を見直しました。

チーム「ストイカ」

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