コロナ危機で叫ばれる「食料危機説」の虚実 食料は不足せず、問題は途上国の政治経済だ

東洋経済オンライン / 2020年6月6日 7時40分

米中摩擦の中でも、アメリカは農産物の輸出制限どころか、中国に農産物の輸入を拡大するように求めている。写真は中国の輸入大豆(写真:REUTERS/Stringer)

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、世界的な食料危機のリスクが声高に叫ばれている。

きっかけの1つになったのが、3月以降、いくつかの国が農産物や食品の輸出規制を実施したことだ。農林水産省によると5月20日時点で14カ国が輸出規制を行っていることが確認されている。

こうした動きに国際機関も警告を発している。3月31日には、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)の事務局長が、「新型コロナウイルス感染症によって、食料の貿易制限が行われ、食品安全に対する不当な懸念につながっている」としたうえで「食料不足に陥らないように、可能なかぎり自由な貿易の流れを保障する努力が必要だ」との共同声明を発表した。

4月21日にはG20農業大臣臨時会議が開かれ、農産物の生産と流通の流れを遮断しないこと、農産物の不必要な輸出入規制を行わないこと、農業生産に必要な労働力や生産資材の供給を確保すること、といった声明が出された。

感染症の後には本当に食料危機がやってくるのだろうか。

■輸出規制の世界への影響は軽微

「食料不足は起きない。各国の輸出規制は世界全体の食料供給に影響を与える内容ではない」と、農水省出身の山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は言い切る。

例えば、小麦の主要輸出国であるロシアは4~6月に700万トンという輸出上限を設定した。これは昨年実績に対し20万トン減でその率はロシアの年間輸出量の約0.6%にすぎない。しかも、もともと4~6月は冬小麦の収穫直前で、輸出は在庫一掃の役割を担っており、この程度の数量増減は珍しくない。

輸出規制を実施したのは農産物輸出ではマイナーな国が多い。ウクライナやカザフスタンなど中堅国もあるが、ロシアと同様、規制そのものの影響は軽微だ。「各国の輸出規制は調整の範囲で、世界的には穀物の在庫は増えている」(農水省・大臣官房政策課食料安全保障室担当者)。

主要な穀物(小麦、コメ、トウモロコシ、大豆)の供給構造を見ても、輸出規制を過度に恐れる必要はない。小麦ならロシア、アメリカ、カナダ、豪州、トウモロコシならブラジル、大豆ならブラジル、アメリカといった主要な輸出国は生産量の半分近くを輸出している。輸出なしでは農家の経営は成り立たない。

つまり、主要な穀物生産国・輸出国が本格的な輸出制限を実施する可能性は極めて低い。過去の日本の貿易交渉を考えても、アメリカをはじめとする農業国はつねに輸出を増やすために、日本の輸入障壁を撤廃するように求めてきた。昨今、米中対立が強まる中、アメリカは電子機器の輸出制限は行っても、農産物に関しては輸出制限どころか、輸入を増やすよう中国に圧力をかけている。

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