給与水準低下でこれから「家賃デフレ」が進む 民泊の賃貸転換も圧迫し、資産バブル崩壊も

東洋経済オンライン / 2020年7月10日 7時10分

観光庁が発表した6月の住宅宿泊事業届出住宅数は前月比1.9%減の約2万0766件となり、2カ月連続で減少した。5月分は同1.0%減で、2018年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されてから初めての減少だった。

5月19日付・日本経済新聞電子版『民泊戸数、コロナで初の減少 宿泊市場に飽和感』によると、「民泊事業の売却や賃貸物件に用途を変更する例も出てきた」という(賃貸転換)。「民泊は住宅の空き部屋を活用する例が多い」ため、「観光客が見込めず、賃貸物件として売り出すケースもある」という。

むろん、民泊市場の規模(届出数)は貸家新設住宅着工戸数の1カ月分をやや下回る程度であり、需給バランスに与える影響は限定的だろう。しかし、ローンで物件を取得した民泊のオーナーなどが、資金繰りのために相場よりも安く賃貸物件として市場に出せば、市場価格全体を押し下げる要因になる可能性もある。

新型コロナウイルス禍による経済への影響の特徴は「急激な景気悪化」である。「自粛要請」によって過去の景気後退局面と異なる非連続的な変化が生じた。そのため、家計が転居によって「家賃」のコストを調整する間もなく、資金繰りに窮したケースも少なくないと予想される。

賃貸経営情報誌『オーナーズ・スタイル』が行ったアンケート調査(5月14~24日に実施)によると、賃貸住宅を所有している家主の30.3%が「入居者やテナントから、家賃の滞納や、交渉・相談、退去の通告など」が発生したと回答した。「交渉・相談・通告」などの内訳については、一番多かったのが「家賃の減額」(48.5%)で、6割以上の家主が家賃の減額や支払いの猶予などの要請を受諾したとのことである。

5月の消費者物価指数では、「家賃」の前年同月比はプラス0.1%と、前月の同横ばいから小幅な上昇に転じており、現状では指数に「減額要請」の影響は出ていないとみられる。一時的(時限的)な「減額」の場合、「家賃統計」には反映されない可能性もあるだろう。しかし、景気の持ち直しが弱ければ、なし崩し的に「家賃」が減額されたまま維持されることも想定され、影響が徐々に生じる可能性には留意が必要である。

■住宅価格(資産価格)への波及も懸念

今回のコラムでは、「賃金」と「民泊需要」、「家計の資金繰り」の観点から、「家賃」が下落する可能性が高いことを示した。もっとも、金融市場や実体経済に与える影響としては、変動が緩やかな「家賃」の動きそれ自体よりも、「家賃」の下落が住宅価格(資産価格)に与える影響のほうを懸念すべきかもしれない。

住宅ローンを使って住宅を購入する際、ローンの月々の支払額を周辺物件の「家賃」の水準と比較することは、住宅価格の割高割安を考えるうえでの常套手段である。つまり、「家賃」の水準は住宅価格の「ものさし」となっている面がある。「家賃」の下落は首都圏を中心に高値圏にあると言われる住宅価格の割高感を一段と強めることになり、資産バブル崩壊のリスクを高めるだろう。

末廣 徹:みずほ証券 シニアマーケットエコノミスト

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