コウテイペンギンの父は「子の孵化」に命を捧ぐ -60℃の極寒で4カ月も絶食して卵を守り続ける

東洋経済オンライン / 2020年7月12日 7時35分

常に死と隣り合わせの過酷な環境で命をつないでいく(写真:Coldimages/iStock)

生きものたちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──。

土の中から地上に出たものの羽化できなかったセミ、大回遊の末に丼にたどりついたシラスなど生きものたちの奮闘と哀切を描いた『生き物の死にざま はかない命の物語』から、コウテイペンギンの章を抜粋する。

■マイナス60℃の猛吹雪の中で壮絶な子育て

その大地は、常に激しいブリザードに襲われる。

雪とも氷ともわからない冷たく白い風が、激しく吹き荒れる。

もちろん、太陽など見えない真っ白な世界だ。

ホワイトアウトと呼ばれる白い闇に覆われた大地は、数メートル先の視界さえ妨げられる。方向はおろか、どこが地面でどこが空かさえわからない、白一色の世界だ。気温はマイナス60℃、風速は秒速60メートルを超えることさえある。

それが南極の冬である。

しかし、こんな猛吹雪の中でも、生命は息づいている。

真っ白な世界の中で、かすかに黒いかたまりが見える。オスのコウテイペンギンたちの群れである。

コウテイペンギンの子育ては壮絶である。

南極という過酷な環境で生きることを選んだ鳥であるコウテイペンギンにとって、その子育てもまた過酷なのだ。

この環境で生き抜くための知恵が、「父親の子育て」である。コウテイペンギンは、厳しい冬の寒さの中でオスが卵を抱いてヒナを孵(かえ)すのである。

3月から4月頃になると、1万羽ものコウテイペンギンの群れが繁殖のために海から離れた場所に移動を開始する。海の近くにはシャチやヒョウアザラシなどの危険な肉食獣がいる。内陸のほうが安全なのだ。

南極は南半球にあるので、3月はこれから冬に向かう季節である。

とはいえ、海から内陸までの距離は50~100キロメートルほどにもなる。よちよち歩きのペンギンたちにしてみれば、相当な長旅だ。

海から内陸へ移動すると、コウテイペンギンたちは求愛を行う。オスとメスはラブソングを歌うかのように鳴き合ったり、向かい合っておじぎをしたりする。こうした愛の儀式を経て、お互いに一夫一妻のパートナーを見つける。こうしてペンギンの夫婦は5月から6月頃に、愛の結晶として大きな卵を1つだけ授かるのである。

オスはその卵をメスから受け取って自分の足の上に移動させる。

凍(い)てつく地面の上に少しでも卵が触れれば、瞬く間に凍(こお)りついてしまう。そのため、地面に落とすことのないように足の上で抱きかかえると、オスだけにある抱卵嚢(ほうらんのう)というだぶついた腹の皮をかぶせて抱卵する。ただ実際には、卵をメスからオスへと渡すときに、わずかなミスで卵が死んでしまうこともあるというから、切ない。

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