宇沢弘文の「社会的共通資本」が今、響く理由 コロナ禍で社会に本当に必要なものがわかった

東洋経済オンライン / 2020年10月30日 8時0分

資本主義に行き詰まりを感じる人が増える中で、宇沢弘文の思想と理論が注目を集めている(撮影:尾形文繁、2009年)

2020年は新型コロナ感染症で世界の人々の生活が大きく変化した。金融危機以降に広がってきた資本主義を批判する論調はますます高まっている。そうした中、その著作がブームとなって再び注目を集めているのが、宇沢弘文(1928~2014年)だ。数理経済学で最先端の理論を構築しノーベル経済学賞に最も近い日本人とされただけでなく、公害問題や環境問題などにも取り組み、経済学が人間の幸福に資するものであるかを問い続け、「哲人経済学者」の異名を持つ。もし、生きていたら、現在の状況についてどんな発言をしただろうか。今回は、宇沢弘文氏の長女で宇沢国際学館取締役としてその思想の伝導にも努めている医師の占部まり氏に寄稿してもらった。

新型コロナウイルス感染症が蔓延したことで、世界観が大きく変わった方も多いと思います。とはいうものの、緊急事態宣言が出ていたあの頃は遠い昔のことのように感じられます。少しずつ新しい日常生活が戻ってきてはいますが、このウイルスが浮き彫りにした社会問題に向き合い続ける必要性を強く感じています。

■豊かな生活に欠かせないものを政府が支える

私の父は宇沢弘文という経済学者で、ノーベル経済学賞にいちばん近い日本人とも言われていました。大事なものは金銭に換算することはできない。そんな当たり前の視点から「社会的共通資本」という理論を構築しました。

豊かな社会に欠かせないものがあります。例えば、大気、森林、河川、水、土壌などの自然環境、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、司法、金融制度などの制度資本です。宇沢はこれらを社会的共通資本と考え、国や地域で守っていくこと、市場原理主義に乗せて利益をむさぼる対象にしないことで、人々がより生き生きと暮らせると考えていました。

J.S.ミルの提言した“定常状態”、経済成長をしていなくても、その人々の生活に入り込むと豊かな生活が営まれている、そんな社会を支えるのが社会的共通資本であるとしていました。経済成長と人間の幸せが相関しない時代に入った今の日本や世界の多くの地域で、この理論が共感を呼ぶようになってきています。

日本の4~6月の緊急事態宣言の中でも、電気、水道といった社会的インフラストラクチャーが機能していました。私は横浜市でかかりつけ医をしていますが、通勤で電車がいつもどおり動いていたことで、本当に助かりました。経済原理に従えば、これだけ需要が減った場合、減便などで対応することが議論されてもおかしくない状況でした。

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