末期がん妻が新聞記者の夫に遺した意外なもの 50代夫婦、2人暮らしの涙と笑いの奮闘記

東洋経済オンライン / 2020年11月27日 7時10分

妻は自分をサルに見立てて漫画を書いていた(イラスト:藤井玲子)

新聞記者だった筆者は結婚以来19年間、夫婦で全国を転々としてきたが、メラノーマ(悪性黒色腫)というがんで51歳の妻を失った。そんな2人の日々をつづった新著『僕のコーチはがんの妻』をベースに、今回は前編として、がんの発覚時と治療中のエピソードをお届けする。

■ふくれたほくろ、正体は皮膚のがん

2017年7月、中米コスタリカへの旅から帰国し、3カ月ぶりに妻に再会すると、妻の左側の鎖骨にあるほくろが、旅に出る前よりふくらんでいるのが気になった。

僕が「医者に行こうよ」とすすめ、妻はほくろを切除する手術を受けることにした。「イボを切ってすっきりしましょうねぇ」と看護師さんに言われ、「イボやて。病院なら腫瘍って言うもんやろ?」と妻は軽口をたたいた。

僕が「イボ取り体験か。レイザル新聞のネタになるな」と言うと「体を張った取材や!」と妻は笑った。妻は商社OL時代にマウスを使った落書きを覚え、退職後、落書きイラストをのせるブログ「週刊レイザル新聞」をつくっていたのだ。

たいした手術ではないだろう、と高をくくっていたら、6日後、妻からメールが届いた。「イボやなくてメラノーマ(悪性黒色腫)やて。初期ではないって」。メラノーマって、『巨人の星』の星飛雄馬の恋人がかかった病気では? あわててスマホで調べると、初期ならば完治の可能性が高いが、進行して転移するとかなり危険らしい。

まずい、まずいよ……。僕は一人でつぶやきつづけた。

帰宅すると妻の表情は落ち着いていた。「大丈夫か?」と僕が声をかけると、「ほくろはちょっと気になってたけど、美容整形のレーザーメスで切れば終わりと思っていた。『医者に行ったほうがいい』ってミツル(僕)が言うから病院に行く気になったの……」と、とりとめなく話して、大きく息を吐いた。

何も言えなかった。今思い返してみると妻も混乱していたんだと思う。

診断の翌日、「治療で体調が悪いとき、僕が家事をできるように教えてよ」と妻に申し出た。結婚した当初、家事を分担するつもりだったが、洗い物を台所に放置する僕に、妻は1カ月で「家がごちゃごちゃになる。今後いっさい家事は禁止や!」とぶち切れたのだった。だが今回は「ビシビシいくから覚悟やで」と妻は申し出を快諾した。

最初に渡されたレシピは「なすと豚肉とピーマンのこってり炒め(※レシピ1)」。台所に立ってナスを切ろうとしたら「順番がちゃう!」。最初は、ミソと酒と砂糖をまぜて調味液をつくるんだそうだ。「まな板が臭くなるから肉を先に切るな!」「なんやその手つき! ナスより前に指を切るど!」……絶え間なく叱声が飛ぶ。鬼コーチかよ……。

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