名将エディーが難敵に仕掛けた壮絶な"心理戦" 「やるかやらないか」それが問題だ

東洋経済オンライン / 2020年12月28日 15時30分

迎えた準決勝当日。ホテルでの朝食後のミーティングでは、緊張しながらも選手たちの目は勝利への願望で輝いていたのを覚えている。

「試合開始後の最初の1分間は、相手に全力で襲いかかるつもりでいけ。やってやろうぜ!」

試合の序盤で激しくプレッシャーをかけろと、はっぱをかけた。先手をとれというメッセージだ。そしてわれわれは試合前にある仕掛けを用意していた。

ニュージーランドには、マオリと呼ばれる先住民の伝統が今でも残っており、代表戦の試合前には「ハカ」(あるいは、ウォー・クライ)と呼ばれる儀式を行う。通常ハカに対峙するチームは、センターライン上に一列に並び、黙ってそれを見守るしかない。

だが、この日のイングランド代表の選手たちは、主将のオーウェン・ファレルを中心に両サイドが迫り出した、V字型の陣形でハカを取り囲んだ。前例がないわけではなく、2011年のワールドカップ決勝戦では、フランス代表が矢じりのような形をとってハカに対峙したことがある。とにかく大舞台での対決を前に、相手の威嚇を黙って受けるつもりなどない、という意思表示をした。

そして競技場の巨大スクリーンには、陣形の中央で不敵な笑みを浮かべるファレルの顔が映し出され、6万8000人の観衆を集めた横浜国際競技場は、異様な雰囲気に包まれた。観戦に訪れたファンたちも、イングランド代表のこの行動は予想していなかっただろう。試合直前のこの時間、イングランド代表はニュージーランド代表、ファン、スタジアム全体をコントロール下に置くことができたと思っている。

■特別な才能は必要ない、やるかやらないか

試合の経過を話そう。

イングランド代表は、試合開始後わずか96秒で、ゴールポストのすぐ横に先制トライをあげた。世界最強軍団が目にも止まらぬ電光石火のトライを奪われ、オールブラックス目当てに集まった大観衆は静まり返った。

ペナルティーゴールを1つ決め前半を10ー0とリードして折り返す。後半早々にもペナルティーゴールを決め、13ー0までリードを広げる。その後ラインアウトのミスから1トライを奪われるが、終わってみれば19ー7の快勝。試合開始96秒でリードし、その後1秒たりとも同点にすら追い付かせなかった。

この週の初めの記者会見での発言、ハカへの対峙が実際のゲーム、選手たちのプレーぶりにどれほどの影響を与えたかはわからない。とにかく私たちは自分たちのコントロールの範囲内でできることをすべてやり、勝利を収めたということだ。

このように、私はあらゆる手を使って対戦相手にプレッシャーをかけてきた。そこに特別な才能は必要ない。やるかやらないかの問題だと思っている。

エディー・ジョーンズ:ラグビー指導者、ラグビー・イングランド代表ヘッドコーチ、元ラグビー日本代表ヘッドコーチ

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