1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

宇都宮LRT、新幹線…「新線工事」はなぜ遅れるか 延期は仕方ないが、問題は「その後の対応」だ

東洋経済オンライン / 2021年2月6日 7時10分

芳賀・宇都宮LRTの開業予定をPRする看板=2019年12月(編集部撮影)

栃木県宇都宮市は1月25日、2022年3月の開業を目指してJR宇都宮駅東口から本田技研北門(同県芳賀町)まで14.6kmの整備を進めている「芳賀・宇都宮LRT」について、開業時期が1年程度遅れるとともに、事業費が226億円増額する見通しだと発表した。

鉄道の新線整備をめぐっては、北陸新幹線金沢―敦賀間の開業時期が当初予定の2023年春から1年程度遅れる見込みとなり、あわせて事業費の上振れが明らかになったことも記憶に新しい。

なぜ、鉄道の新路線整備は遅れてしまうのだろうか。

■宇都宮LRTは「用地取得」が要因

新線の開業までには計画決定、鉄道事業法に基づく許可申請や環境アセスメントなどの各種手続き、用地取得、工事発注、工事といったさまざまなステップがある。工事は複数の工区に分けて同時並行で進められるが、鉄道は1本の線であるから、1カ所でも工事が完了しなければ開業することはできない。つまりいずれかの場所で、工程に1つでも狂いが生じた場合、工期は延び、開業は遅れるのである。

もちろん、工事計画の立案にあたっては一定の余裕を盛り込んであるし、やむをえず遅れが生じた場合は工事方法を変更して遅れを取り戻すことになる。しかし、工事においては自然を、交渉においては人間を相手に進めなければならない新線建設において、不確定要素を完全に排除することはできない。

具体的に見ていこう。芳賀・宇都宮LRTのケースでは用地取得の遅れが工事スケジュールに影響し、開業延期に至った。

宇都宮市の発表によると、2020年12月末時点で同市域の事業用地については事業面積全体の約95%を取得しているものの、未取得の用地については「今後1年程度の期間を要するものと想定される」ことから、開業時期は当初目標の2022年3月から1年程度遅れる見通しであるとしている。用地取得が遅れている原因について、宇都宮市の建設部LRT企画課協働広報室は、コロナの影響で対面での交渉が行いづらいなどの事情により時間を要していると説明する。

一方、北陸新幹線の場合は土木工事の遅れが開業延期に直結している。昨年12月10日に国交省の「北陸新幹線の工程・事業費管理に関する検証委員会」が発表した中間報告書によれば、石川県と福井県の県境に位置する全長5.5kmの加賀トンネルと、敦賀駅の工区において大幅な遅延が生じているという。

加賀トンネルについては2020年3月、トンネル底部に「盤ぶくれ」による亀裂が確認され、935mの区間について地盤を抑え込む固定ボルトを設置するなどの対策工事が必要となった。盤ぶくれとは、トンネル底部の地盤が地下水や大気と反応して、トンネル底部が隆起する現象だ。この対策工事に約7カ月、工事の効果の計測に3カ月が必要となり、全体で10カ月超の遅延が見込まれることとなった。

敦賀駅については工事以外の要因も大きく影響している。2017年3月の土木工事契約締結後に大幅な設計変更が行われたのである。北陸新幹線は当初、フリーゲージトレイン(軌間可変電車)を導入し、敦賀から大阪方面に乗り換えなしで結ぶ計画であり、敦賀駅もその前提に基づく設計だった。

だが、フリーゲージトレインの開発が難航したことから同年10月、新幹線と在来線特急の乗り換え利便性向上策として、北陸新幹線敦賀駅の1階に在来線特急ホームを設置し、上下乗り換えを可能にすることとした。この結果、土木工事の着手は約1年遅れの2018年4月となったのだ。北陸新幹線のケースでは、主な要因は計画決定の遅れと工事の難航の2点と言えるだろう。

■鉄道工事は「遅れるのが常」

しかし、この2路線の工事が特別というわけではない。鉄道工事は遅れるのが常である。

例えば、2019年11月に開業した相鉄・JR直通線も、2009年10月に工事施行認可を受けた時点では2015年4月の開業を予定していた。ところが、東海道貨物線横浜羽沢駅構内における線路切り替え工事に当初想定以上の工期が必要なことが判明。2013年に開業時期を2018年度内に延期すると発表した。その後、2016年には用地取得の難航により工事着手が遅れているとして、再び2019年度下期に延期した経緯がある。

2022年度下期に開業予定の相鉄・東急直通線(相鉄新横浜線・東急新横浜線)も、当初は2018年度の開業を予定していた。こちらは用地取得の遅れと、新綱島地区の地質調査の結果、当初想定よりも地質が軟弱であることが判明し、施工に時間がかかった。新綱島駅本体工事はシールドマシンの発進基地を兼ねており、このためトンネルの掘削開始が遅れた。その結果、鶴見川の直下を横断する工事が掘削を制限される出水期に当たる見込みとなり、玉突き的に工期が延びることになった。

また、福岡市地下鉄七隈線(天神南―博多駅間)は、2020年度末の開業を予定していたが、2016年11月8日に発生した博多駅前2丁目交差点付近での道路陥没事故により、トンネル内に流入した水や土砂の撤去や、再発防止のための地盤改良に18カ月の工期延長が必要となり、開業予定を2022年度に延期した。

さらに、2000年代に開業した地下鉄である営団地下鉄(現・東京メトロ)南北線や半蔵門線(水天宮前―押上間)、東京メトロ副都心線も、用地取得の遅れや埋蔵文化財の発掘調査が必要になったことから開業予定が延期された経緯がある。

とはいえ、開業延期は仕方ないとも言っていられない。工期と事業費は表裏一体の関係にある。工事が延びれば必要な労働力は増え、さらに物価や人件費も上昇するので事業費の増加は免れない。同時に工期を短縮する努力が必要になるが、そのためには工法や材質を変更したり、より多くの作業員を投入せねばならない。要はお金で解決するしかないので、さらに事業費はかさんでいく。そうすれば路線の採算性にまで影響を及ぼすことになる。

つまり、工程管理におけるリスクマネジメントは経営上の重要課題なのである。

■LRT事業費は226億円増加

では、今回の芳賀・宇都宮LRTと北陸新幹線の事例はどこに問題があったのだろうか。芳賀・宇都宮LRTについては、事業費が当初想定していた458億円から684億円へと226億円、割合にして約50%も増加している。

内訳をみると、工事については地質調査の結果、鬼怒川周辺・野高谷地区の高架構造物区間、車両基地などで構造物を支える杭基礎の長さの変更や地盤改良の深層化が必要になったことや、用地測量の結果、買収面積や補償物件数が増加したことなど、現地の施工条件などへの対応で117億円の増加。工事に支障となる電力ケーブルやガス管、上下水道管などの地下埋設物の移設などで46億円の増加。変電設備の設置費用が4億円の増加となっている。

そのほか、建築需要の増加を背景とした現場管理費などの増加や物価上昇、豪雨災害対策の強化などで39億円の増加。さらに、安全対策やバリアフリー対策の強化、利便性の向上など社会情勢やニーズの変化に対応するため48億円の増加となった。軌道構造の見直しで28億円のコストダウンを行ったが、差し引き226億円の増加である。

前述の相鉄・JR直通線でも事業費は当初計画から42%、相鉄・東急直通線は49%増加している。とくに地下の地質や埋設物に関しては、着工してからでないとわからない点も多く、芳賀・宇都宮LRTの場合は国内初となる新設LRT路線であるから、ノウハウが不足していたという側面も大きいだろう。

やむをえない面があったとはいえ、宇都宮市の佐藤栄一市長は昨年11月の市長選でLRT事業の凍結を掲げる対立候補を破って5選を果たした経緯がある。市長は1月になって報告を受けたと説明するが、開業延期と事業費の大幅な増額は、選挙という重要な意思決定の機会の前に開示されるべきであった。

■北陸新幹線工事の「負のスパイラル」

では、北陸新幹線についてはどうだろう。こちらも工事の遅れについては情状酌量の余地がある。着工当時は2025年度開業予定だったのを、2015年に政府・与党の整備新幹線検討委員会が3年前倒しを決めた経緯があり、もともと工期に無理があったのではないかという指摘はもっともだ。

国交省の中間報告書でも、2019年度に実施した入札において不調・不落が頻発することとなり、工期遅延を回避するため、積算単価に実勢価格を反映させた結果、発注金額が増額したことや、用地測量・買収が遅れた工区の工期を短縮するために、地域外から労働者や資機材を導入するなどの急速施工を行ったことで工事費が一層増えた経緯などが記されており、工期の遅延と事業費の増大が負のスパイラルに陥っていくさまが見えてくる。

しかし、ここで最大の問題となるのが、こうした状況をコントロールすべき立場の機能不全であった。

国交省の中間報告書は次のように綴っている。

北陸新幹線の建設を担当する鉄道・運輸機構大阪支社は、2019年秋の時点で敦賀駅工区に5カ月程度の遅れが発生し、土木JVから遅延回復が困難である旨が伝えられていたが、開業時期ありきの考え方に起因する甘い見通しの工期設定に基づき、作業員・資機材の増強により2022年度末の開業に間に合うと本社に報告していた。(要約)

その後も、鉄道・運輸機構本社には工事遅延の実態が伝わらなかった。

2019年12月には、大阪支社において土木工事の工期を当初の2020年7月から2022年2月まで約20カ月延長する契約変更がなされたが、支社から本社に対しては、信通機器室工事の追加に伴うものと報告しており、この時点においても本社は5カ月程度の遅れという認識で、土木工事の大幅な遅延について認識できていなかった。

2020年1月に建築JVとの工事契約を締結したが、その際、土木工事が大幅に遅延していることは建築JVには伝えられていなかった。このため2月に土木JV、建築JV、大阪支社で協議を開始したところ、土木工事の遅延の回復に資するものと想定していた土木工事と建築工事の同時施工が困難であることが判明したが、大阪支社は、建築工事と電気工事の同時施工等により2022年度末の開業に間に合うと本社に対し報告していた。(要約)

なぜ適切な時期に工程の見直しができなかったのだろうか。整備新幹線は今まで開業延期をしたことがなかったというのも大きな要因かもしれない。成功体験を前提に問題を先送りし続けた結果、いよいよ行き詰まった段階で本社や国、自治体に「戦況」が伝えられることになったのである。

■「遅れた後」の対応が重要

工事の遅れを早い段階で正確に認識していれば、実効性のある対策を取ることができたかもしれない。それでも工事が遅れてしまうのであれば次善策を打つことができたはずだ。だが、実際にはクリティカルパスである敦賀駅の工事が間に合わないのに、別の工区では2022年度末の開業に向けて急速施工を行うなど、事業費の浪費も積み重ねられていった。

国交省は昨年12月、鉄道・運輸機構に対し業務運営の抜本的な改善に関する命令を行った。これを受け機構は1月29日、工程管理・事業費管理の体制やルールの見直し、関係自治体等との情報共有の拡充を軸とする改善措置を発表した。

工事は遅れるものである。だからこそ、その後にどんな対応をするかが重要になる。芳賀・宇都宮LRTと北陸新幹線の事例は、新線建設の難しさとともに、マネジメントの重要性を私たちに教えてくれている。

枝久保 達也:鉄道ジャーナリスト

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング