「接種証明」義務化するフランスと日本の決定的差 日仏の「ワクチンパスポート」を比較してみる
東洋経済オンライン / 2022年1月23日 13時0分
日本でも昨年12月から動き出したワクチンパスポート。だが、オミクロン株の感染拡大により東京などで「まん延防止等重点措置」が始まり、ワクチン接種などを条件に行動制限を緩和する「ワクチン・検査パッケージ」の活用も原則として一時停止。ワクチンパスポートを活用する場面が限定されている。
その一方、フランスでは、ウィズコロナのなかで経済をいち早く回すため、飲食店の再開とワクチンパスポート(衛生パス)がセットで実施されてきた。日仏両国のデジタル版ワクチンパスポートを使ってみた体験を基にしながら、それぞれの違いを明らかにしてきたい。
■早さに徹したフランスと確実性を取った日本
フランスのワクチンパスポートは、「TousAntiCovid」というフランス政府が出すアプリを使い、新型コロナに関するほぼすべてのデジタル証明書を管理している。日本の「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」と「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」を1つにまとめたような形だ。
この「TousAntiCovid」は、元は新型コロナ陽性者との接触機会の確認や、ロックダウン時のデジタル外出証明を携行するために使われていたものである。新型コロナを取り巻く社会の状況が変化するのに合わせて、アプリ内の機能をアップデートし、現在はデジタル版の衛生パス(ワクチンパスポート)を提示できるアプリとして使われている。ワクチンパスポートとしての使い方は、接種証明書に記載されたQRコードを読み込むと、そのコードとコード内に含まれる情報がアプリ内に取り込まれる仕組みだ。
日本の「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」は、大きな違いが2つある。日本の場合は、生成するパスポートを「国内用」「海外用」と、アプリ内で2種類に分けている点。そして、日本のアプリではワクチン接種証明が本人のものであるかどうか、
ワクチンパスポートを、経済活動再開の手段として早い時点から導入していたフランスでは、ワクチン接種をベースにして飲食店などの入店を許可する仕組みを築き、コロナ禍でもなるべく経済が回りやすい状態を目指した。その際に問題となったのが、提示された接種証明書の本人確認である。
フランスの「TousAntiCovid」の場合、読み込んだQRコードが本人のものか確認する仕組みが備わっていない。そのため接種証明(QRコード)の売買や、他者の接種証明を自分のアプリに読み込ませ、飲食店に入店する犯罪が現在問題になっている。不正な接種証明の利用には135ユーロ(約1万7700円)の罰金が科せられるものの(再犯の場合はさらなる厳罰に処される)、フランスのダルナマン内相が1月4日に述べた公式発表によると、昨年12月30日だけでも、約20万件の不正利用があったそうだ。
実際、フランスの人々はどこまで正しく提示しているのか。パリ市内のいくつかの飲食店で尋ねてみると、いずれの飲食店においても、あきらかに本人ではなさそうだと思われる名前の接種証明を提示されることがしばしばあるそうだ。しかしながら、飲食店など施設側には本人確認の義務はない(同行為は警察の職務となっている)。施設側が義務付けられているのは接種証明の確認のみで、それを怠った際にのみ一時的な業務停止命令や、再発には懲役1年と9000ユーロ(約120万円)が科せられる。
これら不正行為が横行しているフランスだが、日本の新型コロナワクチン接種証明アプリでは、マイナンバーカードとひもづけることで、その可能性をより減らそうとする試みがなされている。
■日本国外からの需要には対応できず
フランスと比べれば不正利用を防げる方法を取っている日本のワクチンパスポートだが、万能ではない。海外からの需要には対応していないからだ。現時点では日本国内に住民票がない人(観光客やビジネス客など一時滞在の外国人や一時帰国の在留邦人)はアプリを使用できない。マイナンバーカードがないと、アプリに接種証明を読み込ませられないからである。
加えて、国外でワクチン接種し接種証明書が外国のものである場合にも、これをアプリに読み込ませられない。読み込みは日本国内で発行された接種証明書に限られている。
なぜ登録できないのか地元自治体の担当部署に問い合わせた。発行に際してその人から提示された接種証明書の内容が本当に正しいかどうか、データベースにつなげて照会しているが、外国の接種証明書だと、その国のデータベースに問い合わせできないため照合作業ができないからだという。
これと同じ理由で、日本に住民票がある状態で海外にて新型コロナのワクチン接種をした場合も、その自治体には接種履歴は反映されない。データ上は「ワクチン未接種」のままになっている。
一方で、フランスは観光客など国外在住の外国人に対して、もっと簡単に国内の接種証明書を発行できる仕組みを整えている。パリ市内に多数点在する発行業務を行なっている薬局で、それぞれの国の接種証明書の原本(紙に限る)とパスポートを提示し、手数料36ユーロ(約4700円)を支払えば、その場で発行してくれる。
今後日本も国を再び開いていくなら、海外から訪れる人へ向けた何かしらのシステム整備が必要になるだろう。
■そもそも用途が違う日仏のワクチンパスポート
国外からの需要という点で見ると、まだ十分に備えられていない日本のワクチンパスポートだが、同パスポートの使われ方は日仏で大きく違う。日本では、フランスのように国として接種証明書を使った施設への出入制限を一律に行なっていない。主な用い方は、携行することで施設やイベント会場などにおいての「特典の付与」にとどまっている。
この「特典の付与」に関しても、国が一律に提示方法および接種証明書の内容について、ルールを定めているわけではない。日本の厚生労働省が開設している新型コロナウイルスワクチンに係る電話相談窓口に問い合わせたところ、「日本の接種証明書を提示した場合のみ」なのか、または「海外の接種証明書でも同様の特典が得られるのか」の判断は、サービスを提供している団体次第という。
ワクチン接種により人の行動制限を行なっているフランスにおいて、人々はどう考えているのか。フランスの調査会社オドクサが昨年10月に行った統計によると、衛生パス(ワクチン接種や陰性証明)を使い人々の行動に一定のルールを設ける政府の政策について、62%が賛成と答えた。
さらに今フランスでは、これまで「24時間以内に実施した陰性証明」でも取得できた衛生パスを、「ワクチン接種をした人のみ」に限定する(つまり衛生パスのワクチンパスポート化)法律が1月24日から施行される。飲食店や文化・娯楽施設、長距離交通機関の利用はワクチン接種を済ませた人のみに限られ、ワクチン未接種の人は、今までのように陰性証明だけではこれら施設や手段を利用できなくなる。
これについてフランスの調査会社Ifopによると、54%のフランス人がなるべく早急な切り替えに賛成、一方で46%が慎重または反対の立場を取っているという結果だった。
コロナ禍が世界を襲い始めたとわかってから約2年が過ぎた。私たちが以前に近い生活を取り戻していくためには、いくつかの段階が踏まれていくはずで、その一つにはワクチン接種証明書を用いた一定のルール作りというものが日本でも行われるかもしれない。
日本という国は、過去に経験がないことが起きた際に、そこに向けて前例のない何かを世界に先駆けて決めて一歩を踏み出していくということが、なかなか起こりにくい社会システムではある。しかしその後発の優位性を活かし、他所であぶり出されてきた問題点を精査しながら、より良い道筋を作られていくことに期待したい。
守隨 亨延:ジャーナリスト
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